73 / 203
番外編1
グリズナー・トラス3
「バリミューア島での交流会と言えば分かるわね?」
「っあ…」
結局、バリミューア島の交流会も欠席し、誕生祭も出席することはなかったが、なかったことにはなっていないだろうと思っていた。
「それでフェアリーは同級生に聞かれたそうなの、フェアリーのお母様は代理に指名された凄い人なんだろうと。妃殿下に指名されるくらいだから、何ヶ国語が話せるのかと、悪意があったわけじゃないそうよ」
「それは…」
「出席者の名前が記載されるそうだから、交流会の関係者にお知り合いでもいたかもしれないわね。ずっと妃殿下だけが参加していたのに、突如として現れたあなたの名前に興味津々だったそうよ。しかもあなたは参加せず、その後で追放になっているから、ジャックも何度か訊ねれたそうよ」
ジャックはグリズナーの弟で、子爵家の当主である。伯爵家に謝罪に訪れた際に、『家族としてではなく、人として軽蔑する』と吐き捨てるように言われた。
「ジャックが?」
「ええ、ジャックは大口を叩いて誤解されたんでしょう、愚かな姉ですと言っていたそうだけど。伯爵様も聞かれたでしょうね…」
「ああ…」
ジャックが聞かれて、夫が聞かれないはずがない。何と言われていたとしても、私には傷付く資格もない。
「病気だという建前で、あなたが姿を現さなくなって、ますます興味を引いたのね。そこへ娘が現れた」
「フェアリーは…」
「答えられなかったそうよ」
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「どういえば良かったのかと、塞ぎ込むようになってしまって、だからあなたをこちらに戻すように、私が伯爵様に言ったの」
「ありがとう、お母様…」
バリミューア島での交流会の記録にグリズナー・トラスという名前だけ残っており、生涯辱めを受けて続けている。
その後、フェアリーは父と兄、祖母の支えもあって、正直に母親は精神的な病気で、一緒に暮らしていないから分からないと言えるようになった。
月日は経ち、クレインもフェアリーも無事に結婚し、グリズナーは参加することはなかったが、写真を貰うことが出来た。感謝して、静かに祝福をし、読むのは自由だと、祝福と反省し続けることを書き記した、最初で最後の手紙を渡して貰った。
返事が来ることはなかったが、孫も生まれて、また写真を貰い、ただただ涙を流した。クレインは仕方ないとしても、フェアリーも会いたいと望むことはなかった。
そして、サリー妃殿下が亡くなったと聞かされた瞬間に涙が流れていた。いくら人の命は平等だとしても、多くの人に必要とされる人なのに、どうしてこんなに早くと思うと、涙が出ていた。
「どうして、妃殿下が…私が死ねばいいのに、ああああああああああああ」
「グリズナー」
私が求められていたのは一刻の身体だけ、私ではなくても良かった。私が断っていたら、別の誰がが指南しただけだ。でも妃殿下は妃殿下でなくてはならず、生きていることを求められている存在であったのに。
母は黙って、私を抱きしめてくれて、口にすることはなかったが、ようやく母にだけは許して貰えたような気がした。
妃殿下が亡くなった日が終わるまで、グリズナーは一人、部屋で膝をつき、反省と謝罪を捧げ続けた。
早くお迎えが来ればいいと思いながら、生きていたが、両親が亡くなり、夫も亡くなったと知らされ、弟も亡くなり、皮肉にも業を背負っているせいか、八十五歳でようやく永い眠りについた。
家族にはただただ、最期まで厄介な存在だっただろう。
フェアリーは、クレインと共に、葬儀に参列し、無言の対面を果たすことになった。母に何かあったことは子どもながらに理解していた、理由を聞いて、母を恨み、自身を嫌にもなり、傷付くこともあったが、父と兄、祖母が必ず寄り添ってくれた。ただ愚かだとしか思えなかった。
こっそり会いに行くことはいくらでも出来た、でも許すことは、唯一血の繋がった私だからこそ絶対に出来ないと思った。それだけは譲れなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
また書き上げ次第、投稿させていただきます。
次は亡きマリーズ・ヒルダです。
よろしくお願いいたします。
「っあ…」
結局、バリミューア島の交流会も欠席し、誕生祭も出席することはなかったが、なかったことにはなっていないだろうと思っていた。
「それでフェアリーは同級生に聞かれたそうなの、フェアリーのお母様は代理に指名された凄い人なんだろうと。妃殿下に指名されるくらいだから、何ヶ国語が話せるのかと、悪意があったわけじゃないそうよ」
「それは…」
「出席者の名前が記載されるそうだから、交流会の関係者にお知り合いでもいたかもしれないわね。ずっと妃殿下だけが参加していたのに、突如として現れたあなたの名前に興味津々だったそうよ。しかもあなたは参加せず、その後で追放になっているから、ジャックも何度か訊ねれたそうよ」
ジャックはグリズナーの弟で、子爵家の当主である。伯爵家に謝罪に訪れた際に、『家族としてではなく、人として軽蔑する』と吐き捨てるように言われた。
「ジャックが?」
「ええ、ジャックは大口を叩いて誤解されたんでしょう、愚かな姉ですと言っていたそうだけど。伯爵様も聞かれたでしょうね…」
「ああ…」
ジャックが聞かれて、夫が聞かれないはずがない。何と言われていたとしても、私には傷付く資格もない。
「病気だという建前で、あなたが姿を現さなくなって、ますます興味を引いたのね。そこへ娘が現れた」
「フェアリーは…」
「答えられなかったそうよ」
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「どういえば良かったのかと、塞ぎ込むようになってしまって、だからあなたをこちらに戻すように、私が伯爵様に言ったの」
「ありがとう、お母様…」
バリミューア島での交流会の記録にグリズナー・トラスという名前だけ残っており、生涯辱めを受けて続けている。
その後、フェアリーは父と兄、祖母の支えもあって、正直に母親は精神的な病気で、一緒に暮らしていないから分からないと言えるようになった。
月日は経ち、クレインもフェアリーも無事に結婚し、グリズナーは参加することはなかったが、写真を貰うことが出来た。感謝して、静かに祝福をし、読むのは自由だと、祝福と反省し続けることを書き記した、最初で最後の手紙を渡して貰った。
返事が来ることはなかったが、孫も生まれて、また写真を貰い、ただただ涙を流した。クレインは仕方ないとしても、フェアリーも会いたいと望むことはなかった。
そして、サリー妃殿下が亡くなったと聞かされた瞬間に涙が流れていた。いくら人の命は平等だとしても、多くの人に必要とされる人なのに、どうしてこんなに早くと思うと、涙が出ていた。
「どうして、妃殿下が…私が死ねばいいのに、ああああああああああああ」
「グリズナー」
私が求められていたのは一刻の身体だけ、私ではなくても良かった。私が断っていたら、別の誰がが指南しただけだ。でも妃殿下は妃殿下でなくてはならず、生きていることを求められている存在であったのに。
母は黙って、私を抱きしめてくれて、口にすることはなかったが、ようやく母にだけは許して貰えたような気がした。
妃殿下が亡くなった日が終わるまで、グリズナーは一人、部屋で膝をつき、反省と謝罪を捧げ続けた。
早くお迎えが来ればいいと思いながら、生きていたが、両親が亡くなり、夫も亡くなったと知らされ、弟も亡くなり、皮肉にも業を背負っているせいか、八十五歳でようやく永い眠りについた。
家族にはただただ、最期まで厄介な存在だっただろう。
フェアリーは、クレインと共に、葬儀に参列し、無言の対面を果たすことになった。母に何かあったことは子どもながらに理解していた、理由を聞いて、母を恨み、自身を嫌にもなり、傷付くこともあったが、父と兄、祖母が必ず寄り添ってくれた。ただ愚かだとしか思えなかった。
こっそり会いに行くことはいくらでも出来た、でも許すことは、唯一血の繋がった私だからこそ絶対に出来ないと思った。それだけは譲れなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
また書き上げ次第、投稿させていただきます。
次は亡きマリーズ・ヒルダです。
よろしくお願いいたします。
あなたにおすすめの小説
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
妹に奪われた婚約者は、私を壊す災厄でした
あう
恋愛
伯爵家の長女セレナは、侯爵令息の婚約者として家を支え、妹のわがままにも耐え続けてきた。
しかし妹ミレイユは、“可哀想な妹”を演じて姉の婚約者を奪い、ついに婚約破棄へ持ち込んでしまう。
すべてを奪われた――そう思われたセレナだったが、伯爵家を離れたことで見えてきたのは、自分を縛っていた歪な家族と婚約の真実だった。
そして、奪ったはずの妹のほうもまた、望んだ未来とは違う現実へ追い詰められていく。
奪い返さない。縋らない。
静かに手放した令嬢が、自分の人生を取り戻していくざまぁ恋愛譚。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
旦那様から出て行ってほしいと言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙が届きました
伊久留りさ
恋愛
北辺の国境を守る小さな領地、ヴァルドリア。その城館の一室で、若き領主の妻アリシアは、夫レオンハルトの言葉に静かに耳を傾けていた。
「アリシア、君にはもう少し、この城から離れてもらいたい」
レオンハルトの声は、いつものように低く、落ち着いていた。しかし、その言葉の意味は、アリシアにとってあまりにも唐突で、あまりにも冷たいものだった。
「……離れる、とはどういう意味でございますか」
「つまり、この城にいないでほしい、ということだ。しばらくの間、君には別の場所で暮らしてもらいたい」
アリシアは、ゆっくりと目を閉じた。指先がわずかに震えるのを、彼女は必死に抑えていた。この男の前で、自分が動揺している姿を見せたくなかったからだ。
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・