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番外編1
グリズナー・トラス3
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「バリミューア島での交流会と言えば分かるわね?」
「っあ…」
結局、バリミューア島の交流会も欠席し、誕生祭も出席することはなかったが、なかったことにはなっていないだろうと思っていた。
「それでフェアリーは同級生に聞かれたそうなの、フェアリーのお母様は代理に指名された凄い人なんだろうと。妃殿下に指名されるくらいだから、何ヶ国語が話せるのかと、悪意があったわけじゃないそうよ」
「それは…」
「出席者の名前が記載されるそうだから、交流会の関係者にお知り合いでもいたかもしれないわね。ずっと妃殿下だけが参加していたのに、突如として現れたあなたの名前に興味津々だったそうよ。しかもあなたは参加せず、その後で追放になっているから、ジャックも何度か訊ねれたそうよ」
ジャックはグリズナーの弟で、子爵家の当主である。伯爵家に謝罪に訪れた際に、『家族としてではなく、人として軽蔑する』と吐き捨てるように言われた。
「ジャックが?」
「ええ、ジャックは大口を叩いて誤解されたんでしょう、愚かな姉ですと言っていたそうだけど。伯爵様も聞かれたでしょうね…」
「ああ…」
ジャックが聞かれて、夫が聞かれないはずがない。何と言われていたとしても、私には傷付く資格もない。
「病気だという建前で、あなたが姿を現さなくなって、ますます興味を引いたのね。そこへ娘が現れた」
「フェアリーは…」
「答えられなかったそうよ」
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「どういえば良かったのかと、塞ぎ込むようになってしまって、だからあなたをこちらに戻すように、私が伯爵様に言ったの」
「ありがとう、お母様…」
バリミューア島での交流会の記録にグリズナー・トラスという名前だけ残っており、生涯辱めを受けて続けている。
その後、フェアリーは父と兄、祖母の支えもあって、正直に母親は精神的な病気で、一緒に暮らしていないから分からないと言えるようになった。
月日は経ち、クレインもフェアリーも無事に結婚し、グリズナーは参加することはなかったが、写真を貰うことが出来た。感謝して、静かに祝福をし、読むのは自由だと、祝福と反省し続けることを書き記した、最初で最後の手紙を渡して貰った。
返事が来ることはなかったが、孫も生まれて、また写真を貰い、ただただ涙を流した。クレインは仕方ないとしても、フェアリーも会いたいと望むことはなかった。
そして、サリー妃殿下が亡くなったと聞かされた瞬間に涙が流れていた。いくら人の命は平等だとしても、多くの人に必要とされる人なのに、どうしてこんなに早くと思うと、涙が出ていた。
「どうして、妃殿下が…私が死ねばいいのに、ああああああああああああ」
「グリズナー」
私が求められていたのは一刻の身体だけ、私ではなくても良かった。私が断っていたら、別の誰がが指南しただけだ。でも妃殿下は妃殿下でなくてはならず、生きていることを求められている存在であったのに。
母は黙って、私を抱きしめてくれて、口にすることはなかったが、ようやく母にだけは許して貰えたような気がした。
妃殿下が亡くなった日が終わるまで、グリズナーは一人、部屋で膝をつき、反省と謝罪を捧げ続けた。
早くお迎えが来ればいいと思いながら、生きていたが、両親が亡くなり、夫も亡くなったと知らされ、弟も亡くなり、皮肉にも業を背負っているせいか、八十五歳でようやく永い眠りについた。
家族にはただただ、最期まで厄介な存在だっただろう。
フェアリーは、クレインと共に、葬儀に参列し、無言の対面を果たすことになった。母に何かあったことは子どもながらに理解していた、理由を聞いて、母を恨み、自身を嫌にもなり、傷付くこともあったが、父と兄、祖母が必ず寄り添ってくれた。ただ愚かだとしか思えなかった。
こっそり会いに行くことはいくらでも出来た、でも許すことは、唯一血の繋がった私だからこそ絶対に出来ないと思った。それだけは譲れなかった。
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お読みいただきありがとうございます。
また書き上げ次第、投稿させていただきます。
次は亡きマリーズ・ヒルダです。
よろしくお願いいたします。
「っあ…」
結局、バリミューア島の交流会も欠席し、誕生祭も出席することはなかったが、なかったことにはなっていないだろうと思っていた。
「それでフェアリーは同級生に聞かれたそうなの、フェアリーのお母様は代理に指名された凄い人なんだろうと。妃殿下に指名されるくらいだから、何ヶ国語が話せるのかと、悪意があったわけじゃないそうよ」
「それは…」
「出席者の名前が記載されるそうだから、交流会の関係者にお知り合いでもいたかもしれないわね。ずっと妃殿下だけが参加していたのに、突如として現れたあなたの名前に興味津々だったそうよ。しかもあなたは参加せず、その後で追放になっているから、ジャックも何度か訊ねれたそうよ」
ジャックはグリズナーの弟で、子爵家の当主である。伯爵家に謝罪に訪れた際に、『家族としてではなく、人として軽蔑する』と吐き捨てるように言われた。
「ジャックが?」
「ええ、ジャックは大口を叩いて誤解されたんでしょう、愚かな姉ですと言っていたそうだけど。伯爵様も聞かれたでしょうね…」
「ああ…」
ジャックが聞かれて、夫が聞かれないはずがない。何と言われていたとしても、私には傷付く資格もない。
「病気だという建前で、あなたが姿を現さなくなって、ますます興味を引いたのね。そこへ娘が現れた」
「フェアリーは…」
「答えられなかったそうよ」
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「どういえば良かったのかと、塞ぎ込むようになってしまって、だからあなたをこちらに戻すように、私が伯爵様に言ったの」
「ありがとう、お母様…」
バリミューア島での交流会の記録にグリズナー・トラスという名前だけ残っており、生涯辱めを受けて続けている。
その後、フェアリーは父と兄、祖母の支えもあって、正直に母親は精神的な病気で、一緒に暮らしていないから分からないと言えるようになった。
月日は経ち、クレインもフェアリーも無事に結婚し、グリズナーは参加することはなかったが、写真を貰うことが出来た。感謝して、静かに祝福をし、読むのは自由だと、祝福と反省し続けることを書き記した、最初で最後の手紙を渡して貰った。
返事が来ることはなかったが、孫も生まれて、また写真を貰い、ただただ涙を流した。クレインは仕方ないとしても、フェアリーも会いたいと望むことはなかった。
そして、サリー妃殿下が亡くなったと聞かされた瞬間に涙が流れていた。いくら人の命は平等だとしても、多くの人に必要とされる人なのに、どうしてこんなに早くと思うと、涙が出ていた。
「どうして、妃殿下が…私が死ねばいいのに、ああああああああああああ」
「グリズナー」
私が求められていたのは一刻の身体だけ、私ではなくても良かった。私が断っていたら、別の誰がが指南しただけだ。でも妃殿下は妃殿下でなくてはならず、生きていることを求められている存在であったのに。
母は黙って、私を抱きしめてくれて、口にすることはなかったが、ようやく母にだけは許して貰えたような気がした。
妃殿下が亡くなった日が終わるまで、グリズナーは一人、部屋で膝をつき、反省と謝罪を捧げ続けた。
早くお迎えが来ればいいと思いながら、生きていたが、両親が亡くなり、夫も亡くなったと知らされ、弟も亡くなり、皮肉にも業を背負っているせいか、八十五歳でようやく永い眠りについた。
家族にはただただ、最期まで厄介な存在だっただろう。
フェアリーは、クレインと共に、葬儀に参列し、無言の対面を果たすことになった。母に何かあったことは子どもながらに理解していた、理由を聞いて、母を恨み、自身を嫌にもなり、傷付くこともあったが、父と兄、祖母が必ず寄り添ってくれた。ただ愚かだとしか思えなかった。
こっそり会いに行くことはいくらでも出来た、でも許すことは、唯一血の繋がった私だからこそ絶対に出来ないと思った。それだけは譲れなかった。
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また書き上げ次第、投稿させていただきます。
次は亡きマリーズ・ヒルダです。
よろしくお願いいたします。
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