【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【テイラー】お墓1

 マークはお時間を取っていただき、ありがとうございましたと深く頭を下げて、二十年振りのデリア侯爵家を後にした。

「カイラーがきっと三人を、駄目な父親と違って、守っていてくれるさ」
「駄目な兄もです」
「駄目な義姉もですわ」

 三人はテイラーの葬儀が終わっても、皇帝陛下が亡くなっても、発表がされても、死をなかなか受け止め切れず、デリア侯爵家は悲しみに包まれていた。

 だが、最期まで子どもを守ろうとしたアイルーン、最期まで生きようとしたテイラーに恥じないように生きようと、どうにか奮い立たせている。

 それでも、ふと悲しみに飲み込まれそうになる。

 そういった時は、お墓のある場所に向かい、お墓の見えるベンチに座っているということもある。それだけで、三人の名前が並ぶ姿に、救われる気持ちになる。

 自邸に戻ったマークは、私室でようやく肩の力を抜くことができた。昨日は眠れず、向かう時も心臓の音が聞こえるのではないかと思うほど、音を立てていた。

 だが、ルーベンス、ベルサート、ナナリーの顔を見ると、しっかりしなければと気を引き締めた。

 そこへ執事がお茶を用意してくれて、声を掛けた。

「いかがでございましたか?」
「ああ、真摯に対応してくださった。有難かった……」
「さようでございましたか、ようございました」

 ずっとマークを支えて来た執事は、緊張しながら帰りを待っていた。

「お墓にも許可を得たから、明日伺わせてもらおうと思っている」
「ご準備いたします」
「カーネーションを用意してもらえるか」
「はい、色は赤でよろしいですか?」

 執事も何度もアイルーンのために、カーネーションを用意したことがあった。違う色のカーネーションを用意したこともあったが、やはり赤が一番嬉しそうだったと聞いたこともあった。

「白も二つ用意してもらえるか」
「承知いたしました」

 翌日、マークと執事はカーネーションの花束を持って、アイルーンのお墓に向かった。変わらず、見晴らしの良い、静かな場所だった。

 何度もカイラーのお墓に、アイルーンと一緒に来た場所だった。

 あの時は隣に、カーネーションを持つアイルーンがいたはずだった。それなのに隣には誰もおらず、カイラー・デリアの隣に、アイルーン・デリア、テイラーの名前が書かれたお墓が並んでいる。

 当然だが、最後に来た時にはなかった。

 頭ではもう随分前に亡くなっていると分かっているのに、どうしてアイルーンのお墓があるのだろうかと、目にすると堪らない気持ちになった。

「どうして、お墓があるんだろうな……」
「マーク様、私も同じ気持ちにございます」

 二人は苦しくなって、茫然とし、立ち尽くしてしまった。

 マークはどこか懐かしいような、まだアイルーンと学園に通っている頃のままのような、自分はここにいるのに、どうしてアイルーンはいないのだろうか。

 自分だけ置き去りにされたような気持ちになった。

「どんな気持ちになるかと思っていたが、こんなに苦しいのだな」
「さようでございますね」

 ナナリーに言われたこともあったのか、背筋を伸ばしたくなる気持ちになったが、すぐさまに膝をつき、両手を地面に付けた。

「傷付けて、本当に申し訳なかった」

 執事も止めることはせず、同じように膝をついて、頭を下げた。誰もいなかったが、誰かが見ていたら、驚くような光景だろう。

 だが、嫌われた方がいい、避けてくれた方がいいと、ちゃんと謝罪をしないまま別れたことを、ずっと後悔していた。

 いつか、遠い未来で会うことがあったら、話せる機会があったら、今と同じように謝ろうと思っていた。

 時間が解決してくれるとは思っていないが、これで良かったんだとお互いに思えるのではないかと、願いにも似たような気持ちで生きて来た。

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