290 / 344
【テイラー】お墓1
マークはお時間を取っていただき、ありがとうございましたと深く頭を下げて、二十年振りのデリア侯爵家を後にした。
「カイラーがきっと三人を、駄目な父親と違って、守っていてくれるさ」
「駄目な兄もです」
「駄目な義姉もですわ」
三人はテイラーの葬儀が終わっても、皇帝陛下が亡くなっても、発表がされても、死をなかなか受け止め切れず、デリア侯爵家は悲しみに包まれていた。
だが、最期まで子どもを守ろうとしたアイルーン、最期まで生きようとしたテイラーに恥じないように生きようと、どうにか奮い立たせている。
それでも、ふと悲しみに飲み込まれそうになる。
そういった時は、お墓のある場所に向かい、お墓の見えるベンチに座っているということもある。それだけで、三人の名前が並ぶ姿に、救われる気持ちになる。
自邸に戻ったマークは、私室でようやく肩の力を抜くことができた。昨日は眠れず、向かう時も心臓の音が聞こえるのではないかと思うほど、音を立てていた。
だが、ルーベンス、ベルサート、ナナリーの顔を見ると、しっかりしなければと気を引き締めた。
そこへ執事がお茶を用意してくれて、声を掛けた。
「いかがでございましたか?」
「ああ、真摯に対応してくださった。有難かった……」
「さようでございましたか、ようございました」
ずっとマークを支えて来た執事は、緊張しながら帰りを待っていた。
「お墓にも許可を得たから、明日伺わせてもらおうと思っている」
「ご準備いたします」
「カーネーションを用意してもらえるか」
「はい、色は赤でよろしいですか?」
執事も何度もアイルーンのために、カーネーションを用意したことがあった。違う色のカーネーションを用意したこともあったが、やはり赤が一番嬉しそうだったと聞いたこともあった。
「白も二つ用意してもらえるか」
「承知いたしました」
翌日、マークと執事はカーネーションの花束を持って、アイルーンのお墓に向かった。変わらず、見晴らしの良い、静かな場所だった。
何度もカイラーのお墓に、アイルーンと一緒に来た場所だった。
あの時は隣に、カーネーションを持つアイルーンがいたはずだった。それなのに隣には誰もおらず、カイラー・デリアの隣に、アイルーン・デリア、テイラーの名前が書かれたお墓が並んでいる。
当然だが、最後に来た時にはなかった。
頭ではもう随分前に亡くなっていると分かっているのに、どうしてアイルーンのお墓があるのだろうかと、目にすると堪らない気持ちになった。
「どうして、お墓があるんだろうな……」
「マーク様、私も同じ気持ちにございます」
二人は苦しくなって、茫然とし、立ち尽くしてしまった。
マークはどこか懐かしいような、まだアイルーンと学園に通っている頃のままのような、自分はここにいるのに、どうしてアイルーンはいないのだろうか。
自分だけ置き去りにされたような気持ちになった。
「どんな気持ちになるかと思っていたが、こんなに苦しいのだな」
「さようでございますね」
ナナリーに言われたこともあったのか、背筋を伸ばしたくなる気持ちになったが、すぐさまに膝をつき、両手を地面に付けた。
「傷付けて、本当に申し訳なかった」
執事も止めることはせず、同じように膝をついて、頭を下げた。誰もいなかったが、誰かが見ていたら、驚くような光景だろう。
だが、嫌われた方がいい、避けてくれた方がいいと、ちゃんと謝罪をしないまま別れたことを、ずっと後悔していた。
いつか、遠い未来で会うことがあったら、話せる機会があったら、今と同じように謝ろうと思っていた。
時間が解決してくれるとは思っていないが、これで良かったんだとお互いに思えるのではないかと、願いにも似たような気持ちで生きて来た。
「カイラーがきっと三人を、駄目な父親と違って、守っていてくれるさ」
「駄目な兄もです」
「駄目な義姉もですわ」
三人はテイラーの葬儀が終わっても、皇帝陛下が亡くなっても、発表がされても、死をなかなか受け止め切れず、デリア侯爵家は悲しみに包まれていた。
だが、最期まで子どもを守ろうとしたアイルーン、最期まで生きようとしたテイラーに恥じないように生きようと、どうにか奮い立たせている。
それでも、ふと悲しみに飲み込まれそうになる。
そういった時は、お墓のある場所に向かい、お墓の見えるベンチに座っているということもある。それだけで、三人の名前が並ぶ姿に、救われる気持ちになる。
自邸に戻ったマークは、私室でようやく肩の力を抜くことができた。昨日は眠れず、向かう時も心臓の音が聞こえるのではないかと思うほど、音を立てていた。
だが、ルーベンス、ベルサート、ナナリーの顔を見ると、しっかりしなければと気を引き締めた。
そこへ執事がお茶を用意してくれて、声を掛けた。
「いかがでございましたか?」
「ああ、真摯に対応してくださった。有難かった……」
「さようでございましたか、ようございました」
ずっとマークを支えて来た執事は、緊張しながら帰りを待っていた。
「お墓にも許可を得たから、明日伺わせてもらおうと思っている」
「ご準備いたします」
「カーネーションを用意してもらえるか」
「はい、色は赤でよろしいですか?」
執事も何度もアイルーンのために、カーネーションを用意したことがあった。違う色のカーネーションを用意したこともあったが、やはり赤が一番嬉しそうだったと聞いたこともあった。
「白も二つ用意してもらえるか」
「承知いたしました」
翌日、マークと執事はカーネーションの花束を持って、アイルーンのお墓に向かった。変わらず、見晴らしの良い、静かな場所だった。
何度もカイラーのお墓に、アイルーンと一緒に来た場所だった。
あの時は隣に、カーネーションを持つアイルーンがいたはずだった。それなのに隣には誰もおらず、カイラー・デリアの隣に、アイルーン・デリア、テイラーの名前が書かれたお墓が並んでいる。
当然だが、最後に来た時にはなかった。
頭ではもう随分前に亡くなっていると分かっているのに、どうしてアイルーンのお墓があるのだろうかと、目にすると堪らない気持ちになった。
「どうして、お墓があるんだろうな……」
「マーク様、私も同じ気持ちにございます」
二人は苦しくなって、茫然とし、立ち尽くしてしまった。
マークはどこか懐かしいような、まだアイルーンと学園に通っている頃のままのような、自分はここにいるのに、どうしてアイルーンはいないのだろうか。
自分だけ置き去りにされたような気持ちになった。
「どんな気持ちになるかと思っていたが、こんなに苦しいのだな」
「さようでございますね」
ナナリーに言われたこともあったのか、背筋を伸ばしたくなる気持ちになったが、すぐさまに膝をつき、両手を地面に付けた。
「傷付けて、本当に申し訳なかった」
執事も止めることはせず、同じように膝をついて、頭を下げた。誰もいなかったが、誰かが見ていたら、驚くような光景だろう。
だが、嫌われた方がいい、避けてくれた方がいいと、ちゃんと謝罪をしないまま別れたことを、ずっと後悔していた。
いつか、遠い未来で会うことがあったら、話せる機会があったら、今と同じように謝ろうと思っていた。
時間が解決してくれるとは思っていないが、これで良かったんだとお互いに思えるのではないかと、願いにも似たような気持ちで生きて来た。
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします
柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。
正確には、忘れられたわけではない。
エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。
記念のディナーも、予約していた。
薔薇だって、一輪、用意していた。
ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。
「すぐ戻る」
彼が戻ったのは、三時間後だった。
蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。
それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。
「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」
完璧な微笑みで、完璧にそう言った。
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。