【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
181 / 344

【テイラー】手紙(シュアリア王妃陛下)1

しおりを挟む
「デリア侯爵邸では、こらえたのですが……申し訳ございません」

 エレサーレは口にすると、苦しさが限界だった。

「誰も望んでいない結末よ……どうして……」

 シュアリアもギリシスの妻である以上、無理もない、仕方ないという言葉をエレサーレに使うわけにはいかなかった。

「ひとりで死なせなかっただけでも……」

 医師も付いていただろうが、デリア侯爵家の方たちが、そばにいただろう。

 良かったという言葉は続けられなかったが、小刻みにそう言いながら、頷くしかなかった。

「デリア侯爵に何かあれば、王家で対応すると伝えてあります」
「ええ、もちろんよ」
「ホテル側やエイク子爵も、こちらで対応した方がいいのではないかと思いまして」
「そうね、デリア侯爵がどう考えるかにも寄りますが、その方がいいのであれば、そのようにしましょう」
「はい」

 ホテル側も、エイク子爵もデリア侯爵が話を付けても納得するだろう。だが、王家から話すことも可能である。

「テイラー嬢の母上宛ての手紙をデリア侯爵が取りに行かせて、預かって来ました」
「分かりました」

 エレサーレが手紙を差し出すと、シュアリアはエレサーレが大事そうに抱えていることには気付いていたために、こんな形で読みたくなかったと思いながらも、両手でしっかりと受け取った。

 辛そうな顔をしているエレサーレも座らせて、その前で読むことにした。


 ―シュアリア王妃陛下

 私に何かあった時にのために、恐れながら、気持ちを残させてください。

 私は今、どのような状況でしょうか。

 もしかしたら、ミリオン王国にはいないかもしれませんが、頼らせていただくことをお許しください。

 犯罪に巻き込まれた、犯罪を犯した、ミリオン王国からいなくなって行方不明など、私の身に何かあった場合は、如何なる場合でも、ありのままの平民のテイラーとして扱ってください。

 私は生まれてから、ずっと違和感がありました。そして、物心つく頃にはアイルーンの記憶を理解しました。

 それからは、殺されたアイルーンとお腹の子の使者のような気持ちでした。

 幸運と言っていいのかは分かりませんが、事件のことを暴くチャンスが巡って来ました。こんな日が来ることは決まっていたのかもしれません。

 事件のことが裁かれたことで、どこか成し遂げたような気分でした。

 だからと言って、テイラーの人生を歩むことが嫌だったわけではありません。ホテルの仕事も好きでした。ですが、アイルーンの皮を被ったテイラーのような気持ちはいつまで経っても抜けませんでした。

 どちらでもある、どちらでもないような、答えが出ないままです。

 ですが、不幸だと感じていたわけではありません。

 あの子に恥じないように、生きていこうと思っています。

 私がどのような状況か分かりませんが、アイルーンの記憶のことも、ディオエル皇帝陛下の番であることも、必要があれば公にしてください。

 エイク子爵家のことも、問題になるようなことがあれば、配慮などは希望しません。正しく判断してください。

 こんなにも書き記しておいて、気持ちを書いただけで、全て叶えて欲しいということではありません。

 私は子爵家から籍を抜いたただの平民です。

 ただ、万が一にも再び理不尽な目に遭うことがあれば、アイルーンの時のように、何も言えないまま消えることだけはもうしたくなかったのです。

 恨みながら終えることは、二度としたくなかったのです。

 ですので、王妃陛下とデリア侯爵へ託させていただきます。

 立場も弁えず平民の私が、このようなことを王妃陛下に頼り、大変失礼だと理解しておりますが、どうかよろしくお願いいたします。

 エレサーレ王太子殿下にも、ありがとうございましたとお伝えください。

 王妃陛下のご健康とご多幸をお祈りいたします。

 ―テイラー


 読み終えると、シュアリアは耐えられず涙を零していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...