【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

２１

「誰なんだ！私がまとめてやる！」
「壊すことは出来ない相手だよ、言う気はない」
「結婚しているのか…ああ、何てことだ…可哀想に」

　四人は大袈裟ではないかというほど、辛そうにしており、シエルは結婚はしていないが、そう思って貰って差し支えない。

　リリオンが言わなければ、誰もシエルが相手だと思うことはないだろう。

「ルノー、辛かったわね。でも結婚していても、もしかしたら上手くいくってこともあるかもしれないのよ？」
「そうだぞ、番だとは言ったのか？」
「言えば喜んでくれるに違いない！サンドール侯爵家も便宜を図ろう」

　番主義の言いそうな言葉を並べてくれるものだと感心する。相手の事情や相手の伴侶のことを、一切考えていない証拠だろう。

「相手の幸せを壊せと言うのか？」

　シエルは結婚していないが、もし結婚後に分かっていたら、同じことである。

「でも、番は特別だから、説得して理解して貰うってことも…」
「そうだ、奪おうとしているわけではない。こちらの事情を話してだな」
「それを奪うって言うんだよ！」
「だから話せばわかる人かもしれないじゃない」
「諦めてはいけない」

　両親たちも言ったように葛藤はあっただろう。嫉妬したり、早く気付いていればと嘆き、子どものことは大事だとは一応言っていたらしい。

　だが、四人だからこそ世界で成り立っているが、そこに一人でも別の者がいたら、成り立っていない。

　成り立っていないだけで、シエルの家のようになっていたのだろう。

「言っただろう？本人に断られているんだ」
「そんな！」
「優生者ではないんだな？」
「ああ、そうだよ」
「それでも惹かれ合うはずだがな…」
「どうしてだ？そんなに自分たちのことを正当化したいのか？それで、次期当主になる俺に優遇させようという魂胆か？」
「違う！」
「そんなに大事な番なら、本来は幸せを祈るべきではないか？違うか？」

　大事な相手なら尚更、幸せを願うべきだろう。この四人には出来なかったことだ、何か言い返せるのか？

「だが、お前の手で幸せに出来ないんだぞ？」

　そう来たかと思った、どうして番こそが幸せだと思えるのだろうか。そう思わないと、この歪な関係を維持できないからだろうか。

「どうして番だからと幸せに出来ると思っているんだ？相手のことは一切考えていないじゃないか」
「そ、それは…」
「当たり前だからじゃない！惹かれあう二人が一緒にならないなんて」

　会話に入って来なかったマリアは、優生者であるため、母・ソフィーよりも番への執着が強い。

「幸せにしていても？」
「それは番の幸せを知らないから」
「幸せを踏み付けてまで、その上の幸せがあるというのですか？」
「番の幸せは特別よ」
「あなたにとってはそうなんでしょうね、私は違うというだけです」
「尻尾を撒いて逃げるのね」
「ええ、そうです。私は幸せを願って、去ることにしました」

　俺みたいなのが幸せに出来るとは思えないことは一番分かっている。子どもが無事生まれて、シエルが誰かと結婚したとしても、きっと俺よりマシだ、誠実な人と結婚したいと言っていた、希望を叶えてもらえばいい。

「ですので番、番と言うのは今後止めてください！俺が手に入れらることはない」
「そんな…」
「だが…」
「帰ってくれ、不愉快だよ！」

　意気揚々とやって来た時とは打って変わって、四人は落ち込んだ様子で帰って行った。自分たちの自分たちだけの世界に戻ればいい。

　シエルには両親たちに番に振られたと言ったことを、伝えておかなければならないと思っていたが、シエルも窮地に陥っていた。