【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

２７

「殺す？」
「ええ、番なのですか？」
「違う」

　ルノーも驚いたが、認める気はない。シエルは分かっていて、問うているのだ。シエルへの番への嫌悪は私以上だとは感じていたが、生易しいものではない。

「違うそうですよ？」
「いや、だって、あの…なぜ殺すなどと…」
「番に選ばれたらの話ですから、違うならば関係ありませんでしょう？驚きましたわ。子どもの親を殺さなくてはなりませんもの。そうでしょう？」

　ルノーは子どもの父親だから殺すなどとは使わなかった、子どももいない状態で言っていたら、殺されるとは思わなかっただろうが、殺意を向けられていたかもしれないと感じた。

　それほどまでにシエルの瞳は偽りを持たないかのように、澄んでいた。

「だが、ルノーはそれでいいのか？結婚しなくても」
「だからそう言っている！」
「本当にいいのか…結婚して、友人の延長でもいい、家族になる方法だってあるんじゃないか。本音を言う権利はあるんじゃないのか」

　殺すと言う言葉で冷静になったのか、マリオスは淡々と話し始めた。

「本音をどうぞ」
「いいのか？」
「ええ、どうぞ」
「夫婦じゃなくてもいい、一緒に暮らしたい…」

　ルノーはこれが最後かもしれないと思いながら、震える声で言った。

「どうだろうか、シエル嬢？」
「では、選択してください」
「選択？」
「ひとつ、このまま。ひとつ、契約結婚で別居もあり。ひとつ、結婚せずに親として同居」
「シエル、いいの？」
「ええ、構わないわ。子どもね、双子なのよ」
「っえ、聞いてないわよ」

　ルノーもマリオスも驚いたが、それどころでもない。でもルノーは、初めてシエルが歩み寄ってくれた気がした。

「余計に心配すると思って、だから人手は確かに欲しいわ。でも私がルノーの自由を奪わない様に、私の自由も奪われたくないの。だから選べるのはこの３つの内、ひとつ。子どものことはあるけど、どれも自由が保障されているでしょう？」

　ルノーの行いによって未来が決まったと言うべきだろう。契約結婚も、親というだけの存在も、番ではなく、本当の夫婦でもない…。

「ルノーは結婚すれば、自由にする気はない。そうだろう？」
「そろそろ黙って」

　さすがのシエルもマリオスにピシャリと言い切り、マリオスは純粋に驚いた。

「えっ？」
「選ぶのはあなたではないわ、しゃしゃり出るのも大概にしなさい。後、マイニーとはこれからも変わらず会いますけど、マリオス・サンドール様とは、今日で私的なお付き合いは終了です」
「え？」
「そうよ、当たり前だわ。あなたはすべて裏目に出ていると思った方がいいわ。正直、ガッカリよ」
「マイニー…そんな…」

　マイニーもシエルのことは心配だったが、万が一、番だったとしたら、シエルは子どもの親だから、なかったことにしたいのではないかと思った。だからこそ、今となってはマリオスに嫌悪すらしている。

「異動は大丈夫なの？」
「ええ、まだ正式決定ではないから、変更出来るわ」

　未婚の者は地方勤務を打診されるが、正式決定は異動の２ヶ月前と決まっており、まだ変更が可能である。特にシエルは妊娠したことを伝えているので、事情が変わったと言えばいい。

「さあ、どうする？」
「契約結婚は、結婚するということになるんだよな？」
「そうね」
「別居になる？」
「生活が合わなければそうなるわね」

　表向きは結婚して、夫婦になれる。子どももウィロー伯爵家の子になる。

「結婚せずに同居は、親だから一緒に住むということか？」
「ええ、親としては一緒にいるけど、未婚のまま」
「別居にはならない？」
「ルームシェアだと思えばいいわ」
「子どもは？」
「あなたが養子縁組をするか、必要ならフロランツア侯爵家に頼んでもいい」

　夫婦にはなれないけど一緒にいることは出来る、子どもも養子にすればいい。俺が言ったこととしては、こちらが近い条件となる。

「俺は…」