【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

２８

　ルノーは契約結婚を選んだ。

　結婚なんてしたいと思っていなかったが、シエルと偽りでも夫婦でいたい思いが強かった。子どもたちのためにも、別居になっても、家族でいたい。

　マリオスは契約結婚には不服ではあったが、結婚することに関しては、マイニーにガッカリだったと言われたにも関わらず、自分の手柄だと思っていた。

　ルノーは祖父母に子どもが出来て結婚することになったと伝えると、驚かれはしたものの、孫も生まれることで、大変喜ばれることになった。

　そして、シエルが元はパリム子爵の娘で、番を嫌悪していることも話した。

「パリム子爵の…そうだったのか。それは辛い思いをしただろうな。あの両親たちには会わせなないようにしてやれ」
「そうよ、番だと何だの言い出すに決まっているわ」
「ああ、そのつもりだよ」

　祖父母にも番だということは言わなかった。両親には祖父母からから伝えて貰い、番だとは言っていないために、子どもが出来たからって結婚する必要があるのかと、不満を漏らしていたようだが、無視された。

　リリオンには事情を話したが、ルノーがそれでいいならと受け止めてくれた。シエルにはあれ以来、番のことは一切話していない。

　シエルも叔父夫妻に、契約結婚することにしたと言えば、渋い顔はされたものの、嫌になったら戻って来ると言えば、そうだなと認められることになった。

　契約結婚でも、離縁しないとは言っていない。

　地方勤務も変更を行って、王都勤務のまま、いずれ産休に入って、復職する予定になっている。

　ルノーの祖父母であるウィロー伯爵夫妻、シエルの叔父であるフロランツア侯爵夫妻の顔合わせも行い、二人は家族だけで、ささやかな結婚式を行って、結婚した。

　そこで、初めてシエルはルノーの両親、マリオスの両親に会った。

「シエルでございます。よろしくお願いいたします」

　形式上の挨拶だけで済ませるつもりだったが、ルノーの母、ソフィーがある名前を呼び、目に涙を溜めていた。

「シルフィー様…」
「母の名前です」
「そうでしたか…シルフィー様のお嬢様だったとは…ルノーをよろしくお願いいたします」

　ソフィーは不満げな３人をよそに深々と頭を下げ、ルノーもその様子に驚いたが、ソフィーが率先して、３人を遠ざけてくれた。

「母君の知り合いだったのだろうか？」
「さあ？結婚式にあなたのお相手が一人くらい乗り込んで来るかと思ったけど、来なかったわね」
「ははは」

　笑えない冗談ではあるが、笑うしかなかった。

　その後、シエルは産休に入るまで仕事を続け、双子を出産した。二卵性双生児だとは聞いていたが、男の子と女の子だった。

　顔はまだどちらに似ているか分からない状態ではあったが、髪色も瞳もシエルだった。ルノーは嬉しかったが、シエルは目立つのよねと少し渋い顔をしていたが、仲間が増えたと思うことにした。

　フロランツア侯爵もピンク髪の仲間が増えたと同じように喜んでおり、祖父母もこんな可愛い子は見たことがないと、デレデレであった。

　男の子はライン、女の子はシアと名付けられた。

　ルノーの契約結婚であるため、双子が最初で最後の子どもになることは分かっていた。それでも２人に出会わせてくれたシエルに感謝しかなかった。

　マイニーもお祝いに駆け付け、両親たちも押し掛けて来るかと思ったが、お祝いの品は届いたが、興味がないだけなのか、やって来ることはなかった。

　子どもたちはすくすくと育ち、１歳になるとシエルも時短勤務ではあるが、復職をして、働きながら子育てをすることになった。

　マイニーも妊娠し、二人はウィロー伯爵邸で会うか、外で会うようにしていたこと、マリオスが外出させてくれなくなったので、現在は文のやり取りをしている。

　そして、ルノーとシエルは夫婦として夜会に出席することになった。