【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

２９

　夜会に向かう馬車内で支度に疲れたシエルと、夜会の苦手なルノーは、既に一仕事終えたような顔をしていた。

「面倒ね…」
「そうだな、ある程度終わったら帰ろう」
「そうね…」

　ルノーとシエルは友人に戻ったような生活を送っていた。シエルは抑制剤を欠かさず、ルノーも子どもが生まれたおかげか、欲望が溢れるようなこともなかった。

　平坦ではあるかもしれないが、二人は毎日を過ごしていた。

　夜会が始まり、一通り挨拶を済ませ、労いの一杯を飲んでいると、ある女性がやって来た。シエルはルノーの関係者かしら、あからさまには一目があるけど、少し席をはずそうかと考えていた。

「お義姉様？」

　シエルは妹と認識している者は、叔父の息子で、従弟のオールの婚約者のハニー・リベラコーツ侯爵令嬢しかいない。

「ルノー、知り合い？」
「いや、知らない」

　そこでようやく、シエルは異母妹がいることを思い出した。シエルも見たことがあったが、幼い頃で、今前にいるのは縦より横に広がった女性。肩幅もあるのだろうが、全体的に体の幅が広い。

　正直、覚えたくもなかったので、名前すら記憶していなかった。

「もしかして、パリム子爵令嬢かしら？」

　ルノーはえっと声を漏らしたが、それはあまりに二人が全く似ているところなかったからであった。シエルはピンクの髪にアンバーの瞳、前の令嬢は深いブラウンの髪にブラックの瞳、シエルが珍しいのもあるが、接点がない。

　顔立ちもソフィアが間違ったくらいであるため、母君に似ているのだろうとは思っていたが、姉妹と言われても頭が拒否するくらいだ。

「そうですわ」
「成長されて変わられていたので、気付きませんでしたわ」

　前妻の子と後妻の子、いい関係ではないのは前提であるが、子どもには罪はないとも冷静に対応しようかと思ったが、美しくとも醜くとも取れる言い方にした。

「お義姉様、結婚されたんでしょう？番ではない方と」

　だが、馬鹿にしたような言い方に、好意的に声を掛けたのではないと判断した。

「何か用かしら？」
「番が見付けてもらえなくて、結婚したんでしょう？可哀想だと思って、声を掛けたの。そちらの方？あっ、どこかで…見たような」

　ルノーはさてどうしようか、夫として挨拶すべきか、考えていた。

「パーティーで見たことある…番のパーティーにいたわよね？えっ、番じゃなくて、お義姉様を選んだの？ええ、それって。しかもよく見ると、顔は結構美しいじゃない？私、キューミュア・パリムって言います」

　シエルはそうだ、泣き声みたいな名前だったなと思い出していた。

「もしかして、私が番だったらどうしよう。そうなったら、親子揃って奪ってしまうことになるわね、ふふ」

　シエルとルノーは一人で話し続けるキューミュアにげんなりした。

「お義姉様、もしかして、パーティーのこと知らなかった？ショックだったら、ごめんなさいね」
「あなたは番が見付かっていないの？もう２０歳は超えているでしょう？」

　おそらく両親から、番は素晴らしいと教え込まれて、生きて来たのではないかという言い方であった。父と後妻はそう言わなければ、自分たちを正当化出来ない。

「年齢なんて関係ないわ。私には素敵な方が、必ず見付けてくれるって決まっているの、だって番同士の子だもの」
「いつまでも待ち続けるの？」

　優生者ではないため、相手が気付いてくれるのを待っているのだろう。

「当たり前じゃない！お義姉様には分からないことよね、ふふ」
「分からなくて結構よ、それよりさすがに太り過ぎじゃない？」

　姉扱いするならば言っていいだろうと、率直に指摘した。ルノーは横で驚いたが、シエルが淡々と受け答えしているので、敢えて口を挟まないことに決めた。

「っな、太っているんじゃないわ、そう見えるだけよ」