【完結】あわよくば好きになって欲しい（短編集）

私の恋、あなたの愛

３５

「ルノーとシエルさんに迷惑を掛けるのは止めてください！」

　話をしに来ると言っていたので、ソフィーだけなら通してもいいと伝えてあったので、案内されてきたのだろう。

「ソフィー…」
「もう決まったことだと伝えたはずです」
「だけど、デビットが可哀想じゃない」
「それも何度も言いましたが、納得されています」

　ソフィーが言ったように、察していたようで、デビットは驚くほど、あっさりと分かったと言い、娘には会いたいということを伝えたそうだ。

「納得していないのは、あなたたち二人だけでしょう？二人は好きにしたらいいではありませんか！」

　ソフィー、デビット、ルリアーナ、マリオス、ルノー、そして娘であるソアラは納得している。

「でもデビットは…どうなるの」
「ルリアーナ様が二人目を出産されて、落ち着いたら侯爵になられるそうです。そうなれば、どこかに隠居されるのではないですか」

　祖父の体調が悪いままでも、ルリアーナがまだ継いでいなかったのは、出来れば子どもを産んでからと思っていたからである。歪んだ父親でも、使ってからにしようと、デビットも受け入れている。

「そんな！あなた、薄情じゃない！」
「結婚して離縁することもあるのですから、不思議なことではありません」
「でも番なのよ！」
「そうですね、でも番でも別れる、そんなこともあるでしょう？この世に必ずなんてないのです」

　シエルがちょっと質問いいですかと、手を挙げた。

「シエルは関わらなくていい」
「いえ、あれですよね？マリア夫人は、代理だとは聞いていますけど、表向きはサンドール侯爵夫人という立場も保持したいからですよね？」
「ああ…そういうことか」

　ルノーは一番必死になっているマリアに納得した、ソフィーは分かっていたようで、何も言わなかった。

「ルーカン様から番の愛だけでは、足りないと一番分かっているのですよね？」
「っちが」
「そうだな、父上はサンドール侯爵と違って、代理ですらないからな」

　ルーカンは祖父であるウィロー伯爵夫妻が元気であるため、代理ですらなく、次期伯爵と呼ばれていることもあるが、権限はない。

「デビット様が隠居されれば、社交界に出ることはない。自ずとマリア夫人も隠居することになる。ルーカン様と出るわけにも行かないし、伯爵家と侯爵家はやはり違いますからね」
「そうなのか？」
「ええ、扱いが違いますわね。一度味わって美味しいと思った方は、手放せないという方もいますから」
「勝手に知った風な口を聞かないで！私は、これまで通り四人でいれば幸せだって言っているの！番の価値もか分からない者が、偉そうに言っているんじゃないわよ！」
「おい！ふざけるなよ」「マリアさん！！」

　キレたのはルノーとソフィーであった。

「ふん！何よ」
「シエルさんのお母様は…」
「ソフィー様、いいわ」
「っあ、お母様はご不幸だったと思うけど…あの」

　頭に血が上ったマリアは、シエルの生い立ちのことをすっかり忘れていた。

「あなたたちは悲しむ人がいない、だからきっと運が良いと思ったのでしょう？でも本当に悲しむ人はいなかった？いたわよね？」
「ええ、子どもたちが犠牲になりました」

　ソフィーが悲痛な面持ちで応えた。

「ええ、子どもたちより、自分たちの欲望を優先した。そして、マリア夫人とルーカン様は、まだ優先しようとしている。母と私を捨てたパリム子爵家は、もう永くないでしょう。これまで持たせてあげたというべきかしら？番を選んだあの家は、番のせいで没落する。これも現実ですよ」

　パリム子爵は借金をして返済をしたが、借金を返せる当ては、それこそお金持ちの番にでも見初められない限りはないだろう。