【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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 まさか結婚したミフルが選ばれるとは思っていなかったが、獣人の血筋が関係する高位貴族とは違って、男爵家にとって番など関係のない世界であったが、番に選ばれることは名誉であり、何事にも変えられないと信じていた。

「親なら殺してよ!ねえ、ねえ、産んだんだから殺してくれるでしょう?ねえ」

 ミファラは立ち上がって、母親に凄まじい力で、両手で首元を締め付けながら、壁際に追い込んだ。

「ミファラ!」
「名前を呼ぶな!バケモンがぁぁああ!」

 そう言い放つと、目を回して、ミファラは失神してしまった。

 慌てて駆け寄り、そのままミファラは2日間、目を覚ますことはなかった。

 医師も立ち会っていたが、母親も恐怖を感じ、両親に会わせるのは危険かもしれないと、両親は旅費をもらって帰って行った。

 目覚めたミファラは必要であれば話すようにはなった。

 酒が飲みたいと言うと、色んな酒を用意してくれて、ミファラは強いわけではないが、毎日ずっと飲んでいる。酒ばかりでなく、食事をするように言われるが、酒がないなら、こんなところ出て行くと言えば、酒は出て来る。

 すっかり酒浸りとなって、昼に起きて、寝るまで酔っぱらっている。

 執事にもメイドにも鼻つまみ者扱いで、酒瓶片手の客人なんてもてなしたくもないだろう。そんな折、ミファラの前に妖艶な女性が現れた。

「私はノラよ、シュアンの妹のようなものよ」

 ノラ・マグナーは、シュアンの両親のいとこの子どもであった。

「…ひっく…ひっく…」
「私にとってシュアンはとても大事な存在なの。だからあなたにもシュアンのこと大事にしてもらいたいの」
「しゅ、あん?」
「シュアン・ロークロアよ」
「しりませんが…ひっく」
「名前も知らないの?あなたを世話してくれている人よ」
「ああ…」

 ミファラはバケモノだと言っていたので、名前すら知らなかった。名前なんて呼ばれるのも、呼ぶ気もないので、どうでもいい。

 シュアン・ロークロアは治癒術に長けた血筋を持ち、両親も番同士で、母親が亡くなって、父も亡くなってしまっているので、すでに公爵となっていた。

 あの日、ミファラの住んでいた町を訪れたのも治癒のためだった。

「シュアンがあなたにしたように、大事にしてくれたらいいのよ」
「…酒?…」
「酒じゃないわ、あなたが辛いのは分かるわ。でもいつまでもそうやって、うじうじ逃げていても仕方ないでしょう」
「…ひっく」
「自分だけが不幸みたいな顔しちゃって、恥ずかしくないの?」

 この妖艶な女性は、私を恥ずかしいと言っている。

「ずっとそうやっているつもり?優しくして貰って、全部やって貰って情けないとは思わない?私なら絶対嫌だわ。変わろうとする勇気もないの?あなたの価値は何?このままでは保護に甘える価値のない人間よ、よく考えてみてちょうだい」
「…変わるべきなのですか」

 情けない、変わらないといけない、価値がないと言っている。

「それはあなたの自由よ、うじうじしてたければしていればいい。でも皆、毎日必死で働いているの。酒ばかり飲んで、生きている意味があるの?」

 そんなものはどこにもないと遠回しに言っている。

「はああ、何を言っても無駄なのね。だったらうじうじして、過保護にしてもらったらいいわ。今は大切にされているだろうけど、ずっと続くと思わないことね」

 うじうじしていると言っている。

「終わるのですか…ひっく…」
「あなただったらどう?愛してもくれない相手とずっと一緒にいる?」
「…いない」

 終わるのならば、まだ死ななくてもいいのかもしれない。この妖艶な女性は、アドバイスにわざわざ来てくれたのか。

「そうでしょう」
「ありがとう、ございます」
「伝わったなら良かったわ、少しずつでいいから、頑張りなさい」
「はい」

 私がいなくなっても世界は続くが、私の世界はいつか終わる。それならばアデルに会って終わりたい。
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