【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ

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もう二度と

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 シュアンの両親は番だということもあったが、美形の父に、穏やかな母、本当に仲の良い夫婦だった。

 周りから見えれば理想の夫婦だっただろう。だが、理想の家族ではなかったように思う。夫は妻が優先、妻も夫を優先で、シュアンを放置するわけではないが、シュアンは二人の間にはいなかったように思う。

 子どもはシュアンしかおらず、出来なかったと言われているが、そうではなく二人の時間が奪われる、一人産んだからいいだろう、お産で死んでしまったらと作らなかったのではないかとも思う。

 だが、シュアンは両親について文句を言うことはなかった。シュアンはいつも「僕はいいから」と、微笑んでいた。

 その姿に大人たちはなんて出来た息子だと言ったが、子どもたちの目線ではシュアンはそうするしかない状況を、受け入れていただけのように見えた。

 ノラにとって、年下であることから妹のような存在とは言ったが、実際の気持ちとしてはお節介な姉のような感覚であった。

 自身が番であったなら、全力で幸せにしてあげたいと思っていた。だが、違うことは分かっていたので、幸せになって欲しい存在だった。

 シュアンの母親が亡くなって、父親も後を追う様に亡くなった。自害ではないとされているが、生きている意味がないと思っても差し支えない人だったと思う。

 シュアンは家族の中でずっとひとりだった、それが本当にひとりになってしまい、ノラも友人たちも心配した。

「番を探したら?」
「無理に探すことはしないよ」

 以前からそのように言っており、両親のことから番に対しては良い印象がないのか、強い欲望がないのか、投げやりにも感じていた。

「番でなくてもいいの?」

 シュアンも27歳で、番ではない令嬢と交際していたのかは分からないが、お付き合いがある時もあった。番には重きを置いていないのかとも思っていた。

「番だというくらいだ、きっと出会えるなら出会うはずだろう?」
「そうね、出会えるように願っておくわ」
「ありがとう」

 ノラはシュアンの願いが叶って欲しいと心から思っていた。

 だから番が見付かったと聞いた時は嬉しかった、でも相手の状況が悪かった。始めは結婚前に出会っていたら、いや、もっと早く出会っていたら、シュアンはひとりぼっちではなかったのにと思っていた。

 だからこそ、自分の世界に閉じこもったままのミファラが許せなかった。

 いくら嘆いても、戻れないなら、今の環境に順応することが番の務めとは言わないが、貴族の務めである。

 しかも番は男爵令嬢で、いくら離縁させられて、子どもも奪われてしまったけど、どうして公爵家に従わないのかという気持ちもあった。

 番だからと言えば、爵位の差は問題とされないが、爵位が関係なくなるわけではない。公爵家に従わない男爵家などいない。

 私は幼い頃からの遊び相手の一人なので、気兼ねなく話しているが、皆はそうではない。ノラも公式な場では、きちんと公爵として話す。

 話すなと言われたが、会ったらまた言ってしまいそうだとも思っている。どうしても、私は番よりも、シュアンの幸せを考えてしまう。

 シュアンが仕事に復帰して、数ヶ月が経った―――。

 友人で同期でもあるグルズ・クリーン侯爵令息は、急に帰ったり、見る限りは落ち込んだ様子のない、シュアンに声を掛けた。

「最近、彼女はどうだ?」
「随分、落ち着いては来たと思う。今は仕事もしているんだ」
「そうなのか、それは良かったな」

 頼んでいた翻訳の依頼があり、ミファラは何も聞かずに断ろうとしたが、その本は絵本だった。いくつかあった中から、アデルが読んでくれるかもしれないと思えるのではないかと、絵本を選んだのだ。

 ミファラも同様に感じたようで、やってみると言って、ミファラは絵本や児童書の翻訳を始めた。期限も長めの作品を選んだので、苦しくなっても、時間を取れる。

 酒を飲んでいることも変わらずあるが、彼女には必要な逃げであった。
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