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もう二度と
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「これは…」
トップスも立ち上がって見に行くと、その様に驚いた。間違いなく覚えているミファラの字だった。
「彼女には燃やして欲しいと言われていました、でも私にその愛は燃やせない…一通だけでも持っていてはくれませんか」
「僕に?」
「ええ、彼女なりのあなたへの愛です。他の引き出しにも入っているはずです」
「全て、持って帰ります。いいですか、父さん」
「ああ、そうしなさい」
「ありがとうございます。彼女が出掛けるのは、レターセットを買いに行く時だけでした。全て自分で稼いだお金で買ったものです。何が書いてあるかも知りません、知っていいのはアデル殿だけでしょう」
手紙を詰め込む箱を用意させて、丁寧に詰め込んだ。
「彼女の翻訳した絵本や小説を読ませていたんですよ」
「本当に?」
「はい、会わせるのは難しかったので、せめてもと思いまして」
シュアンは我慢していた、涙を流した。
「え?どうして…え?」
「彼女はもしかしたら、一冊くらいはアデル殿が読んでくれるかもしれないと思って、ずっと翻訳していたのです」
「そうだったのですか」
本屋でミファラの名前を見掛けたのは偶然だった。妻には反対されたが、会わせない約束は守っているだろうと言って、アデルに読んでやっていた。
その後もミファラの翻訳の作品はすべて買い与えた。
「良かった、本当に…」
「あの、これは…」
アデルが差し出した一通の手紙には、アークス様と書かれていた。
「どうして…」
トップスとアデルは、アークスは養子の名前だろうと知っていたので、驚くシュアンに首を傾けた。
「息子に会っていただけますか…?」
シュアンはアークスを紹介するべきか迷っていた、このままミファラはアデルを愛していたと、それだけでいいのではないかと思っていたからだ。
「ええ、もちろんです」
「アデル殿の弟です」
「え?養子だと伺っていましたが…」
「養子であることは間違いありません。母親が彼女であることも抹消してあります」
「なぜ!」
トップスは離縁しておいて、どこか裏切られたような気持ちになった。子どもを作るようなことをしているんじゃないかと、思ってしまったのだ。
だが、番だったのだから当然かと冷静になった。
「彼女は産むことすら望まなかった、そのまま死んでしまいそうだった」
「え?」
アデルはミファラの不安定さをまだ説明されていないので、驚いた。
「アデル殿、君の母は私のせいで、非常に不安定で、何度も自殺をしようとしているんだ。君のいない人生に意味を見出せなかった」
「でも弟がいるなら」
「私は罪を犯したから、子どもに背負わせたくないと、母親は死に養子であるとしたのです。10歳になりますが、関わりは皆無でした…出産もアデル殿に謝罪しながら行い、一度も抱くこともなく、その後は同じ邸にいるだけの存在でした」
「そんな」
声を上げたのはトップスだった。親の事情にアデルが関係ないように、子どもには関係ないだろう。アデルを愛していたのならば、なぜ分からなかったのだろうか。結局、二人を不幸にしているだけじゃないか。
「そうすることで、子どもに触れることも許されない存在になろうとしたのです…きっと一度愛してしまえば、アデル殿と過ごした半年をすぐに超えてしまうから。おかしいと思うのでしょうが、私は壊れてしまった姿しか知らないのです」
ミファラの歪んだ贖罪だったのだろうが、壊れてしまったのならば、もはやミファラではなくなっていたのだろう。騒がしい人ではなかったが、よく笑っていた。
「ご子息には?」
「亡くなる間際に話しました…彼女には亡くなったら好きにしたらいいと言われていたのですが」
「会わせてください!」
「アデル?」
「会ってみたいです」
シュアンはアークスを呼びに行き、説明をして、連れて来た。
「アークス・ロークロアです」
初めて対面したのは母親の亡骸の前だったが、二人は同じ瞳の色をしていた。
トップスも立ち上がって見に行くと、その様に驚いた。間違いなく覚えているミファラの字だった。
「彼女には燃やして欲しいと言われていました、でも私にその愛は燃やせない…一通だけでも持っていてはくれませんか」
「僕に?」
「ええ、彼女なりのあなたへの愛です。他の引き出しにも入っているはずです」
「全て、持って帰ります。いいですか、父さん」
「ああ、そうしなさい」
「ありがとうございます。彼女が出掛けるのは、レターセットを買いに行く時だけでした。全て自分で稼いだお金で買ったものです。何が書いてあるかも知りません、知っていいのはアデル殿だけでしょう」
手紙を詰め込む箱を用意させて、丁寧に詰め込んだ。
「彼女の翻訳した絵本や小説を読ませていたんですよ」
「本当に?」
「はい、会わせるのは難しかったので、せめてもと思いまして」
シュアンは我慢していた、涙を流した。
「え?どうして…え?」
「彼女はもしかしたら、一冊くらいはアデル殿が読んでくれるかもしれないと思って、ずっと翻訳していたのです」
「そうだったのですか」
本屋でミファラの名前を見掛けたのは偶然だった。妻には反対されたが、会わせない約束は守っているだろうと言って、アデルに読んでやっていた。
その後もミファラの翻訳の作品はすべて買い与えた。
「良かった、本当に…」
「あの、これは…」
アデルが差し出した一通の手紙には、アークス様と書かれていた。
「どうして…」
トップスとアデルは、アークスは養子の名前だろうと知っていたので、驚くシュアンに首を傾けた。
「息子に会っていただけますか…?」
シュアンはアークスを紹介するべきか迷っていた、このままミファラはアデルを愛していたと、それだけでいいのではないかと思っていたからだ。
「ええ、もちろんです」
「アデル殿の弟です」
「え?養子だと伺っていましたが…」
「養子であることは間違いありません。母親が彼女であることも抹消してあります」
「なぜ!」
トップスは離縁しておいて、どこか裏切られたような気持ちになった。子どもを作るようなことをしているんじゃないかと、思ってしまったのだ。
だが、番だったのだから当然かと冷静になった。
「彼女は産むことすら望まなかった、そのまま死んでしまいそうだった」
「え?」
アデルはミファラの不安定さをまだ説明されていないので、驚いた。
「アデル殿、君の母は私のせいで、非常に不安定で、何度も自殺をしようとしているんだ。君のいない人生に意味を見出せなかった」
「でも弟がいるなら」
「私は罪を犯したから、子どもに背負わせたくないと、母親は死に養子であるとしたのです。10歳になりますが、関わりは皆無でした…出産もアデル殿に謝罪しながら行い、一度も抱くこともなく、その後は同じ邸にいるだけの存在でした」
「そんな」
声を上げたのはトップスだった。親の事情にアデルが関係ないように、子どもには関係ないだろう。アデルを愛していたのならば、なぜ分からなかったのだろうか。結局、二人を不幸にしているだけじゃないか。
「そうすることで、子どもに触れることも許されない存在になろうとしたのです…きっと一度愛してしまえば、アデル殿と過ごした半年をすぐに超えてしまうから。おかしいと思うのでしょうが、私は壊れてしまった姿しか知らないのです」
ミファラの歪んだ贖罪だったのだろうが、壊れてしまったのならば、もはやミファラではなくなっていたのだろう。騒がしい人ではなかったが、よく笑っていた。
「ご子息には?」
「亡くなる間際に話しました…彼女には亡くなったら好きにしたらいいと言われていたのですが」
「会わせてください!」
「アデル?」
「会ってみたいです」
シュアンはアークスを呼びに行き、説明をして、連れて来た。
「アークス・ロークロアです」
初めて対面したのは母親の亡骸の前だったが、二人は同じ瞳の色をしていた。
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