【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

トドック男爵家

「違うのよ、悪い話ではないの」

　王家から呼出など受けたことのない、父であるベクターとは違い、オマリーは既に落ち着いていた。

　ヨルレアンに言われた時はどういう意味なのかと、動揺してしまったが、結局は何も起きないことで、両親に話してすらいなかった。

　翌日、既に帰っていたエルドールに相談しようと思っていたが、その夜一人で考えた結果、手伝いのことをヨルレアンに伝えたことで、そのような令嬢だったのかと驚き、国王陛下に伝え、呼び出されることを想定したのである。

　だが、何も連絡がないことで、何なのよとすら思っていた。

「そうなのか？」
「ええ、実は『振り返る女』の解読を私もお手伝いしたの」
「は？本当なのか？」

　ベクターも『振り返る女』走っており、モデルが判明したことに驚いた一人で、娘が手伝ったなどすぐには信じられなかった。

「ええ、伝えていなくて、ごめんなさい。とは言っても資料を作っただけなのだけど、あまり公にしてはいけなかったのよ」
「それで、どうして呼び出される？」
「公にしてもいいかってことじゃないかしら？親の許可もいるのかもしれないわ」

　オマリーは今でも、自分が嘘を言っている自覚もなかった。ヨルレアンが怒っていたことも気付かず、呼び出されるのも評価されるのだと、ポジティブに捉えていた。

「本当か？」
「本当よ！」
「学園から令嬢教育を受けているのかと、問い合わせがあったんだ」

　王立学園は王侯貴族しか通うことは出来ず、入学に関して令息・令嬢教育を受けることを義務付けられており、オマリーも勿論、家庭教師を雇って受けていた。

　ベクターは受けていると書いて、送り返していた。

　何らかの理由で受けていない者は入学を遅らせて、受けることとされており、入学後にまだ理解していないなどということはいいわけにはならず、学園の判断で休学となり、大体が留年することになる。

　ならば、入学を遅らせる方が留年するよりもまだいいとされているので、きちんと受けてから入学することが常識である。

　これは過去にまだ慣れていないという令嬢たちが、風紀を乱すようなことが起こったからである。

　ある娘は親の再婚で貴族令嬢となったが、これから貴族として生きて行くのなら失格であり、平民として生きて行くのならば通う必要はないと、どちらかを選択することになった。

　その令嬢は貴族令嬢として生きて行くと決めたが、休学して学び終えてから試験をパスすれば復学となったが、パスすることは出来ず、復学は出来なかった。

　他の学校を探して入学したが、王立学園をパス出来なかったことは明らかであるために、平民として生きて行くしかなかった。

　ある令嬢は取り繕って、何とか試験はパスしたが、風紀を乱すことは止めなかった。そうなれば、まだ理解していないといういいわけは出来ず、わざと行っていると、完全に退学となった。

「え？どうして？」
「それは私が聞きたい。心当たりがないのか？」
「ないわ」

　ボディタッチのことを注意されたのは何ヶ月も前で、気を付ける様にしていたから、関係ないと判断していた。

「何か問題を起こしたわけではないのだな？」
「当たり前じゃない！私は生徒会の書記なのよ？それに学園で問題を起こしたなら、学園から呼び出されるでしょう？」

　学園を飛び越えていることなど想定していないオマリーは、自信満々に答えた。

「それは、そうだが…」
「お父様、心配しないで。私は優秀なのよ？知っているでしょう？」
「ああ…そうだな」

　ベクターも母・ジュディーも、オマリーが成績優秀者に入っていることは、何よりの自慢であった。不安は残るものの、納得するしかなかった。

　呼び出し当日。オマリーは前日からタウンハウスに戻り、ベクターとジュディーと一緒に、王宮に向かった。

　これから終わりだというのに、オマリーは解読を手伝ったことが、きちんと公表されて、注目される人生を思い描いていた。