47 / 70
いなくなった世界1
しおりを挟む
なかった世界でも、詠のいなくなった世界を知っている。それでも、詠が桐人に思っていたように、生きていてくれればいいと思っていた。
詠のことは好きだったが、詠以外、愛せないなどと大層なことを思っていたわけではない。
でも、頼がいて、詠との思い出があれば、忙しかったこともあるが、生きて来れた。どこかで詠が幸せではないということが、お互い辛いのだからという気持ちがあったのかもしれない。
戻された世界で、詠から話を聞かされて、記憶を戻された時は信じられなかったが、頭に蘇ったのだから、信じるしかなかった。
あの時、最期の見たのは叫ぶ詠の顔だった。
押さえつけられた詠はグチャグチャになって、やめてやめてと叫び続けていた。頼だけは守ろうと抱きかかえていたが、先に殺されたのは桐人だったのだろう。
そして、頼もその後で殺されたのである。
『そうだったのか』
桐人もそうなったのではないかと思い、記憶の中でも許せなかった。それでなくとも、頼は母親を奪われて、会うこともできなかった。
お母さんと呼ぶ相手が物心ついた時にはいなかったのだ。
『どうしても許せない。殺しても意味がない。絶望を一生味わわせるしかない』
『だが』
桐人もなかったことになっても、殺してやりたいと思ったが、それ以上に詠の怒りのおかげで、冷静になれた。
『ごめんね、勝手に決めたの。なかった世界で、私が生きれた時間。本当はあった時間だけは、一緒にいたいの』
本来、手にすることができた時間を最大限、受け取りたかった。だから、入れ替えを提案した。
『理解はできる、だが身勝手だな』
『桐人と頼は幸せに生きることがあいつらへの復讐だから、身勝手な妻で母親でごめんね』
そう言いながら、悲しそうに笑っていた。
それでも、その日が来るまで詠は精一杯生き、桐人と頼との時間を何よりも大事にした。悲しい顔をすることはなかったが、頼がランドセルを選ぶ時は、泣きそうになっていることが分かった。
見れなかった姿を見たことを、突きつけられ、終わりが見えて来たのだろうと、桐人は何も言えなかった。
詠のすることを納得したわけではない。文句だって何度も言っていた。そして、今でも納得していない。
だが、未来は決まっているのなら、受け入れるしかない。
詠は揺るがないように、終わりを決めたと言った。
頼のそばにいたかっただろう。どんな大人になるか見たかっただろう。でも、自分がいることが迷惑になると思っているのは言わなくても、分かった。
英仁を殺しても、そのことで他の妖に恨まれることになるだろう。
ならば、自分が消えるしかない……そんな風に思っている、そんな風に考える人だということは、付き合いが長い分、良く知っていた。
ありきたりだが、詠の分まで生きていきたいと思っている。思っているが、それでも辛く悲しい。きっとこれは変わることはないだろう。
「寂しいな……本当にもうどこにもいなのかな……どこかから、笑いながら出て来て欲しいな」
いくら経験したことでも、悲しみは変わらなかった。
詠の死を知らされた親族も、英仁も何も考えられなかった。
お通夜も葬儀も終わったが、それでも詠が亡くなった事実を、どう捉えたらいいのか分からなかった。
葬儀の場ではどうしてなんだと声を上げた者もいたが、桐人側の親族がいることもあって、大きな声で問うことはできなかった。
誠一は皆に問われることになったが、誠一だって分からない。
「どうして亡くなったのよ!おかしいでしょう」
「分からないと言っているだろう!」
「警察は?」
「聞きに行ったさ、それでも事故だったと」
「自殺したってことなのか……?」
そう言ったのは則人であったが、誰も答えることはできなかった。
詠のことは好きだったが、詠以外、愛せないなどと大層なことを思っていたわけではない。
でも、頼がいて、詠との思い出があれば、忙しかったこともあるが、生きて来れた。どこかで詠が幸せではないということが、お互い辛いのだからという気持ちがあったのかもしれない。
戻された世界で、詠から話を聞かされて、記憶を戻された時は信じられなかったが、頭に蘇ったのだから、信じるしかなかった。
あの時、最期の見たのは叫ぶ詠の顔だった。
押さえつけられた詠はグチャグチャになって、やめてやめてと叫び続けていた。頼だけは守ろうと抱きかかえていたが、先に殺されたのは桐人だったのだろう。
そして、頼もその後で殺されたのである。
『そうだったのか』
桐人もそうなったのではないかと思い、記憶の中でも許せなかった。それでなくとも、頼は母親を奪われて、会うこともできなかった。
お母さんと呼ぶ相手が物心ついた時にはいなかったのだ。
『どうしても許せない。殺しても意味がない。絶望を一生味わわせるしかない』
『だが』
桐人もなかったことになっても、殺してやりたいと思ったが、それ以上に詠の怒りのおかげで、冷静になれた。
『ごめんね、勝手に決めたの。なかった世界で、私が生きれた時間。本当はあった時間だけは、一緒にいたいの』
本来、手にすることができた時間を最大限、受け取りたかった。だから、入れ替えを提案した。
『理解はできる、だが身勝手だな』
『桐人と頼は幸せに生きることがあいつらへの復讐だから、身勝手な妻で母親でごめんね』
そう言いながら、悲しそうに笑っていた。
それでも、その日が来るまで詠は精一杯生き、桐人と頼との時間を何よりも大事にした。悲しい顔をすることはなかったが、頼がランドセルを選ぶ時は、泣きそうになっていることが分かった。
見れなかった姿を見たことを、突きつけられ、終わりが見えて来たのだろうと、桐人は何も言えなかった。
詠のすることを納得したわけではない。文句だって何度も言っていた。そして、今でも納得していない。
だが、未来は決まっているのなら、受け入れるしかない。
詠は揺るがないように、終わりを決めたと言った。
頼のそばにいたかっただろう。どんな大人になるか見たかっただろう。でも、自分がいることが迷惑になると思っているのは言わなくても、分かった。
英仁を殺しても、そのことで他の妖に恨まれることになるだろう。
ならば、自分が消えるしかない……そんな風に思っている、そんな風に考える人だということは、付き合いが長い分、良く知っていた。
ありきたりだが、詠の分まで生きていきたいと思っている。思っているが、それでも辛く悲しい。きっとこれは変わることはないだろう。
「寂しいな……本当にもうどこにもいなのかな……どこかから、笑いながら出て来て欲しいな」
いくら経験したことでも、悲しみは変わらなかった。
詠の死を知らされた親族も、英仁も何も考えられなかった。
お通夜も葬儀も終わったが、それでも詠が亡くなった事実を、どう捉えたらいいのか分からなかった。
葬儀の場ではどうしてなんだと声を上げた者もいたが、桐人側の親族がいることもあって、大きな声で問うことはできなかった。
誠一は皆に問われることになったが、誠一だって分からない。
「どうして亡くなったのよ!おかしいでしょう」
「分からないと言っているだろう!」
「警察は?」
「聞きに行ったさ、それでも事故だったと」
「自殺したってことなのか……?」
そう言ったのは則人であったが、誰も答えることはできなかった。
951
あなたにおすすめの小説
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
でも、、そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、私は、私に告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
三年目の離婚から始まる二度目の人生
あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。
三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。
理由はただ一つ。
“飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。
女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。
店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。
だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。
(あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……)
そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。
これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。
今度こそ、自分の人生を選び取るために。
ーーー
不定期更新になります。
全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる