【完結】メイド・マイ・デイ

野村にれ

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「タダでってこと?」
「そう、勝手にタダにしてもらっていたそうよ。あちらは不愉快だったでしょうね……でも天宮さんの手前、うやむやになっていただけでしょう」
「そんなことを……信じられない」
「少なからず、いい暮らしをしているのだからいいだろうと思うのよ」
「お姉ちゃんも?」
「多少はね、でも天宮グループほどではないわ」

 友人や元同僚と食事に行って、驕って欲しいような空気を出されたことは一度や二度ではない。

「あなたはいくら使っても大丈夫と思っていたのでしょう?」
「だって、お金はあったから」
「それはあなたのお金ではなかったでしょう?それをあなたもママも、友人も請求されたのよ」

 損害賠償請求をされたと聞いて、ようやく来たかとしか思えなかった。友人のことは知らなかったが、全員が自業自得である。

 選ばれたこともないから分からないが、妖の運命の相手とは絶対だと思ってはいたのだろう。自分のように何があるか分からないと思って生きていけば良かった。

「話を聞きに行くなら、連絡したら?」
「うん……」

 涼希も今は分かっている、だからこそ話を聞きに行こうと思ったのである。そして、連絡を取ると時間を指定されて会えることになった。

 弁護士事務所に行く日、家から出るのも怖かったが、実家から出ると意外と何も変わらなかった。

 事務所に着き、待っていると昂山という弁護士が現れた。

「五千万円なんて払えないんです……結婚してから働いていませんでしたし……」
「そうですか、ですがこちらとしては相応の額、むしろ安いくらいだと思っております」

 一億円でも十億円でもいいと思ったが、払えそうな額の方がいいだろうと判断した。

「何と聞いているのですか?」
「私も妖ですから、全てを聞いております」
「っえ……」

 美しい方だと思ったが、妖だとは思わなかった。

「きちんと弁護士の資格は有しております。あなたが何をしたか、すべて聞いております。そんな契約をし、運命の相手にすり替わろうなどと浅ましいと思っております」
「っ」

 目つきを鋭く、完全に自分は敵だと理解し、身体が震えた。

「しかも、本物の詠さんはお亡くなりになって、あなたは生きているのですよ。何をしてでも支払ってください。仕事がないのなら、こちらで割のいい仕事を紹介します。英仁様は許しても、妖は許しませんよ」
「英仁さんは……」
「あなたは関係のない立場です、名前を呼ぶ立場にないことも理解してください」
「……はい」

 確かに会うこともない相手で、だからこそ詠を羨ましいと思った。詠はもういないが、だからと言って自分が何か変わるわけがない。

「自己破産なんて考えないでくださいね」
「っ」
「自己破産すればいいと思っていたのでしょうけど、あなたは働けるのですから払っていただきますよ。それでどうしますか?サインするか、裁判をしますか?」
「もう少し待ってもらえますか……また連絡をします」
「分かりました、期限内にお願いいたします」
「はい」

 自己破産がどんなものかは分からなかったが、則人が言っていたことからできるだろうと思っていた。だが、払わせられるのだろうと怖くなった。

 詠だったら、いや、一生入れ替わったままだったら、皆が幸せだったのではないだろうか。

 英仁は子どもを望まず、涼希も半ば諦めていた。それでも幸せだった。詠だって夫と子どもがいて、亡くなることもなかったのではないか。

 運命の相手など、相性で選べばいいではないか。そんなことを考えながら帰っていると、声を掛けられることになった。

「涼希!」
「えっ」

 ズンズンと向かって来たのは友人の一人だったが、あの連絡をしてきた一人でもあった。

「ちょっと、どうして連絡くれないの?私、不当な請求をされたのよ!」
「で、でも私は何も聞いていないよ?」
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