29 / 154
過去1
しおりを挟む
「ここに住んでいるのですか?」
「ああ、体を怪我をしてね、ここで治しているんだ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ドレスも綺麗にしているからね、貴族令嬢だろう?」
ドレスは先程の女性に渡して、スノーは大きなシャツを着せてもらっていた。
「はい…」
「ちゃんと家に送ってあげるから、心配しなくていいよ」
トイズは疑ったことを申し訳なかったほど、穏やかで、優しい人だった。
「…帰っても、いえ、多分いないことにも気付いていないと思います」
「まさか」
スノーは疎外感を感じながらも、誰にも言ったことはなかった。だが、その時、トイズについ話したくなってしまった。
非現実的な場所、知らない相手がそうさせたのかもしれない。
「本当です。誰も気付いていない。見に行かせてみますか?それとも、誘拐だとして身代金でも要求してみますか?出さないと思いますけど」
「そんなことは…」
「世間体を考えて出しますかね…死んだとなったら、良くないですから」
スノーは今までの鬱憤を吐き出すかのように、話し続けてしまった。
「虐待されているのか?」
「暴力を振るわれたりはないですけど、私は居なくてもいい、居ない者として扱われています。置き去りじゃなくて、捨てられたのかと思ったくらいです」
「そんなことはない!」
トイズは大きな声で強く否定した。
「すまない、大きな声を出して。だが、置いて行かれただけだろう?」
「今日も親が付き添うはずの茶会でした。でも始めから、私は一人で行かされることになっていて、ドレスも自分で着ました。茶会のことも、きっと忘れているのではないでしょうか」
子ども用のドレスだったので、脱ぎ着がしやすく、一人でも着れたので、一人で着て、迎えの馬車を一人で待って茶会に行った。
侍女もいなければ、手伝ってくれるメイドもいない生活だった。
「そうなのか…帰りたくないと思っているのか?」
「歩きながら、このまま消えたらどうなるかな…どこか違う場所に行ってみたいなとは考えていました」
スノーは恐怖もあったが、彷徨いながら、そんなことを考えていた。
「試してみるか?」
「え?」
「しばらくここにいたらいい」
「でもあなたに迷惑が掛かるのでは?」
「そんなことは心配しなくていい。お互い名前は知らないで置こうじゃないか。そうすれば、万が一何かあっても知らないから言えないだろう?」
まだ自分が人の顔を覚える力を持っていることに気付いていなかったので、その時はいい考えだとは思ったが、後から誰だったのだろうが付き纏うことになった。
「そうだ、私の話し相手になって貰えないか」
「ですが」
「君は私と似ているかもしれない」
「え?」
そう言ったトイズの目は憐れみではなく、酷く寂しげだった。
「私には優秀な兄がいてね、でも亡くなってしまったんだよ」
「そう、だったのですか」
「ああ、両親の落ち込みは酷くてね。私に直接言うことはないが、お前が代わりに死ねば良かったと言わんばかりだった」
「そんな…でも私も兄が死んだら、そうなると思います」
酷いと思ったが、私も兄が死んで、私が生き残ったら、間違いなく両親に言われるだろうと想像が出来た。
「ほら、やっぱり似ているだろう?」
「…はい」
「婚約者も居たんだがね、上手くいかなくなってしまってね。兄が亡くなったのは解消した後のことだった。彼女は何度も復縁を迫って来てね、家を継ぐことになったからかと思っていたんだけど…両親が絶対に許さないと言って、叶うことはなかったけどね。彼女の人生も狂わせてしまった…」
この邸は小さいが、立ち振る舞いや話し方から、トイズが貴族であることは何となく察していた。
その女性は嫡男の妻になりたかったのかなと思った。解消した後ならば、しなければ良かったと悔しい気持ちがあったのではないか、そう考えた。
「ああ、体を怪我をしてね、ここで治しているんだ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ドレスも綺麗にしているからね、貴族令嬢だろう?」
ドレスは先程の女性に渡して、スノーは大きなシャツを着せてもらっていた。
「はい…」
「ちゃんと家に送ってあげるから、心配しなくていいよ」
トイズは疑ったことを申し訳なかったほど、穏やかで、優しい人だった。
「…帰っても、いえ、多分いないことにも気付いていないと思います」
「まさか」
スノーは疎外感を感じながらも、誰にも言ったことはなかった。だが、その時、トイズについ話したくなってしまった。
非現実的な場所、知らない相手がそうさせたのかもしれない。
「本当です。誰も気付いていない。見に行かせてみますか?それとも、誘拐だとして身代金でも要求してみますか?出さないと思いますけど」
「そんなことは…」
「世間体を考えて出しますかね…死んだとなったら、良くないですから」
スノーは今までの鬱憤を吐き出すかのように、話し続けてしまった。
「虐待されているのか?」
「暴力を振るわれたりはないですけど、私は居なくてもいい、居ない者として扱われています。置き去りじゃなくて、捨てられたのかと思ったくらいです」
「そんなことはない!」
トイズは大きな声で強く否定した。
「すまない、大きな声を出して。だが、置いて行かれただけだろう?」
「今日も親が付き添うはずの茶会でした。でも始めから、私は一人で行かされることになっていて、ドレスも自分で着ました。茶会のことも、きっと忘れているのではないでしょうか」
子ども用のドレスだったので、脱ぎ着がしやすく、一人でも着れたので、一人で着て、迎えの馬車を一人で待って茶会に行った。
侍女もいなければ、手伝ってくれるメイドもいない生活だった。
「そうなのか…帰りたくないと思っているのか?」
「歩きながら、このまま消えたらどうなるかな…どこか違う場所に行ってみたいなとは考えていました」
スノーは恐怖もあったが、彷徨いながら、そんなことを考えていた。
「試してみるか?」
「え?」
「しばらくここにいたらいい」
「でもあなたに迷惑が掛かるのでは?」
「そんなことは心配しなくていい。お互い名前は知らないで置こうじゃないか。そうすれば、万が一何かあっても知らないから言えないだろう?」
まだ自分が人の顔を覚える力を持っていることに気付いていなかったので、その時はいい考えだとは思ったが、後から誰だったのだろうが付き纏うことになった。
「そうだ、私の話し相手になって貰えないか」
「ですが」
「君は私と似ているかもしれない」
「え?」
そう言ったトイズの目は憐れみではなく、酷く寂しげだった。
「私には優秀な兄がいてね、でも亡くなってしまったんだよ」
「そう、だったのですか」
「ああ、両親の落ち込みは酷くてね。私に直接言うことはないが、お前が代わりに死ねば良かったと言わんばかりだった」
「そんな…でも私も兄が死んだら、そうなると思います」
酷いと思ったが、私も兄が死んで、私が生き残ったら、間違いなく両親に言われるだろうと想像が出来た。
「ほら、やっぱり似ているだろう?」
「…はい」
「婚約者も居たんだがね、上手くいかなくなってしまってね。兄が亡くなったのは解消した後のことだった。彼女は何度も復縁を迫って来てね、家を継ぐことになったからかと思っていたんだけど…両親が絶対に許さないと言って、叶うことはなかったけどね。彼女の人生も狂わせてしまった…」
この邸は小さいが、立ち振る舞いや話し方から、トイズが貴族であることは何となく察していた。
その女性は嫡男の妻になりたかったのかなと思った。解消した後ならば、しなければ良かったと悔しい気持ちがあったのではないか、そう考えた。
2,325
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
二度目の人生は離脱を目指します
橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。
一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。
今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。
人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。
一度目の人生は何が起っていたのか。
今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる