1 / 11
別れ
しおりを挟む
カペルル王国に住まう、ミルシュアとリズファンはとても仲のいい姉妹だった。
しかし、姉妹のアズライン伯爵家は酷いものだった。
父親は元々愛人がいたようだが、半年前くらいから、邸に愛人と愛人の子どもを招き入れて、大騒ぎしている。愛人たちは愛されなくて可哀想などと言って来ることはあったが、優しい父親ではなかったので、奪われた気持ちもなかった。
しかし邸の雰囲気が良くないことは父親に意見したが、怒鳴り散らされ、殴られただけであった。その様子を愛人がケラケラ笑いながら見ていた。
母親は部屋に籠るようになり、どうにかして欲しいと言っても、あんな人と結婚したばかりにと泣いてばかりで、実家を頼れないのか聞いても、恥ずかしくて言えないと言い、ミルシュアとリズファンはここを出て行くことだけを考えて、今は諦めて何も聞かないようにした。
姉妹のきずなは自ずと強くなり、妹は私が守るという姉と、姉のことは私が守るという妹であった。二人は同じ部屋でお互いを守るように生活していた。
「お姉ちゃんがいなかったら、私はもう生きていないわ」
「何を言うの、リズがいなかったら、私も生きていないわよ。いや、生きていたくないの間違いね」
「「ふふふ」」
「でもお姉ちゃん、もし私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「リズも、私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「「考えたくない」」
寝る前によくそんな話をした。それほどに姉妹の環境は悪かった。
あの日、確かにいつもより使用人の足音と、何を言っているか分からないが沢山の声、とにかくバタバタと煩かった。でも近頃はずっと煩かったので、ミルシュアはあまり気にしていなかった。
しかしリズファンが飲み物を取りに行って戻って来ないことで、何かあったのかと部屋の扉を開けると、父が誰かに怒っている声が聞こえ、また喧嘩しているのかなくらいにしか思っていなかったが、妹がエントランスに向かっていくのが見えた。そして次の瞬間、妹は叩き飛ばされてドアに当たり、驚いて慌てて飛び出した。
妹を抱き起すが、まだ父の怒鳴り声が聞こえ、誰かを呼ぼうにも人はいるがこちらを見ておらず、妹を抱きかかえて近くの倉庫に隠れた。妹の頭から流れる血はいくらハンカチで押さえても、止まってはくれなかった。
「…おねえ、ちゃん…」
「大丈夫よ」
先程、隙間から見えた母親は顔は見えなかったが、男性に寄り添っていた。そういうことなのだと察した。母親の方にも愛人が出来て、出て行くとでも言って、揉めているのだろうと思った。
ここにいては危険だと、いくら掛かるか分からないので、妹を寝かせて、父の執務室に入り、鞄に入るだけお金を入れた。馬に乗るために妹を背負い、その上から父のコートを着て、さらに紐で体に固定して邸を出た。これが正しいのか分からないが、医者を呼べる状況ではないことは確かだった。
とにかく早く医者に診せなければならない、妹に声を掛けながら、一番近い町の医院を目指した。
ようやく辿り着いた医院の老年のクレノ医師は、すぐにぐったりした妹を診てくれたが、打ち所が悪ければ、目を覚まさないまま助からないかもしれない、覚悟した方がいいと告げた。
妹は時折、苦しそうな表情をして、二日後に息を引き取った。まだ十三歳だった。
近くの墓地に埋葬しても、私の身体は宙に浮いたような気持ちのままであった。この世で一番の理解者で、愛しい可愛い妹はいなくなってしまった。
昨日まで部屋で寝転んで、夢を語り合ったあの凛々しくて可愛い笑顔はもう見れない。もう私の記憶にしかいない。
数日が経ち、私はまだ医院におり、新聞で伯爵邸では火事が起きて、遺体の確認ができた者の名前が書いてあり、そこには私たち姉妹の名前もあった。おそらく把握できていない愛人か、愛人の子が、私たちだと判断されたのだろう。
もうどうでもいい。何もいらない。
しかし、姉妹のアズライン伯爵家は酷いものだった。
父親は元々愛人がいたようだが、半年前くらいから、邸に愛人と愛人の子どもを招き入れて、大騒ぎしている。愛人たちは愛されなくて可哀想などと言って来ることはあったが、優しい父親ではなかったので、奪われた気持ちもなかった。
しかし邸の雰囲気が良くないことは父親に意見したが、怒鳴り散らされ、殴られただけであった。その様子を愛人がケラケラ笑いながら見ていた。
母親は部屋に籠るようになり、どうにかして欲しいと言っても、あんな人と結婚したばかりにと泣いてばかりで、実家を頼れないのか聞いても、恥ずかしくて言えないと言い、ミルシュアとリズファンはここを出て行くことだけを考えて、今は諦めて何も聞かないようにした。
姉妹のきずなは自ずと強くなり、妹は私が守るという姉と、姉のことは私が守るという妹であった。二人は同じ部屋でお互いを守るように生活していた。
「お姉ちゃんがいなかったら、私はもう生きていないわ」
「何を言うの、リズがいなかったら、私も生きていないわよ。いや、生きていたくないの間違いね」
「「ふふふ」」
「でもお姉ちゃん、もし私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「リズも、私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「「考えたくない」」
寝る前によくそんな話をした。それほどに姉妹の環境は悪かった。
あの日、確かにいつもより使用人の足音と、何を言っているか分からないが沢山の声、とにかくバタバタと煩かった。でも近頃はずっと煩かったので、ミルシュアはあまり気にしていなかった。
しかしリズファンが飲み物を取りに行って戻って来ないことで、何かあったのかと部屋の扉を開けると、父が誰かに怒っている声が聞こえ、また喧嘩しているのかなくらいにしか思っていなかったが、妹がエントランスに向かっていくのが見えた。そして次の瞬間、妹は叩き飛ばされてドアに当たり、驚いて慌てて飛び出した。
妹を抱き起すが、まだ父の怒鳴り声が聞こえ、誰かを呼ぼうにも人はいるがこちらを見ておらず、妹を抱きかかえて近くの倉庫に隠れた。妹の頭から流れる血はいくらハンカチで押さえても、止まってはくれなかった。
「…おねえ、ちゃん…」
「大丈夫よ」
先程、隙間から見えた母親は顔は見えなかったが、男性に寄り添っていた。そういうことなのだと察した。母親の方にも愛人が出来て、出て行くとでも言って、揉めているのだろうと思った。
ここにいては危険だと、いくら掛かるか分からないので、妹を寝かせて、父の執務室に入り、鞄に入るだけお金を入れた。馬に乗るために妹を背負い、その上から父のコートを着て、さらに紐で体に固定して邸を出た。これが正しいのか分からないが、医者を呼べる状況ではないことは確かだった。
とにかく早く医者に診せなければならない、妹に声を掛けながら、一番近い町の医院を目指した。
ようやく辿り着いた医院の老年のクレノ医師は、すぐにぐったりした妹を診てくれたが、打ち所が悪ければ、目を覚まさないまま助からないかもしれない、覚悟した方がいいと告げた。
妹は時折、苦しそうな表情をして、二日後に息を引き取った。まだ十三歳だった。
近くの墓地に埋葬しても、私の身体は宙に浮いたような気持ちのままであった。この世で一番の理解者で、愛しい可愛い妹はいなくなってしまった。
昨日まで部屋で寝転んで、夢を語り合ったあの凛々しくて可愛い笑顔はもう見れない。もう私の記憶にしかいない。
数日が経ち、私はまだ医院におり、新聞で伯爵邸では火事が起きて、遺体の確認ができた者の名前が書いてあり、そこには私たち姉妹の名前もあった。おそらく把握できていない愛人か、愛人の子が、私たちだと判断されたのだろう。
もうどうでもいい。何もいらない。
854
あなたにおすすめの小説
番が1人なんて…誰が決めたの?
月樹《つき》
恋愛
私達、鳥族では大抵一夫一妻で生涯を通して同じ伴侶と協力し、子育てをしてその生涯を終える。
雌はより優秀な遺伝子を持つ雄を伴侶とし、優秀な子を育てる。社交的で美しい夫と、家庭的で慎ましい妻。
夫はその美しい羽を見せびらかし、うっとりするような美声で社交界を飛び回る。
夫は『心配しないで…僕達は唯一無二の番だよ?』と言うけれど…
このお話は小説家になろう様でも掲載しております。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。
藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。
目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。
気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。
それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。
……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。
絶対に同じ間違いはしない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全四話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる