【完結】君のために生きる時間

野村にれ

文字の大きさ
2 / 11

出会い

しおりを挟む
 私はクレノ医師の手伝いをすることとなった。毎日、死にたくてたまらないことを見抜いていたからだ。

 しかし、半年が経つ辺りで、クレノ医師は腰痛が悪化し、息子夫婦のところに行くことになり、医院を閉めることになった。クレノ医師は随分心配して、一緒に行こうとまで言ってくれたが、前に医院に来た傭兵の伝手で、傭兵となった。女だと馬鹿にする者もいたが、気にはならなかった。

 ある日、隣国のグランド王国で、ひと仕事を終え、森を歩いている時のことだった。目の前に大きな影が通り過ぎ、咄嗟に身構えたが、殺気は感じられず、その影は人型となって目の前に跪いた。

 グランド王国はカペルル王国にもいないわけではないが、王族が竜人であるため、獣人が多く住まう国である。

「番だ」
「番?ああ、獣人か」
「竜族だ」
「そうか」
「私の名はサリス。愛しき番、どうか私と結婚して欲しい」
「私が番なのか」
「そうだ、間違いない」
「私の願いを叶えてくれるなら結婚してもいい」
「ああ、何でも言ってくれ」



「何を言ってる!」
「死にたいんだ、ずっと。やっと殺してくれそうなのが見付かった。良かった」
「殺せるわけがないだろう。食べる物がないのか?酷い目に遭っているのか?それなら大丈夫だ」
「は?」
「番を殺す奴なんていない」
「そうか、なら結婚はできない」
「この国では番は一緒にならなければいけないんだ。結婚、しているのか」

 竜人や獣人に番が見付かった場合は、相手がいない場合に限り、身分や人種を問わず、番になることを優先されるのだ。

 既婚者や婚約者がいる場合は、竜人や獣人側が、番失くしという薬を使って、番を認識させない身体にすることになる。三ヶ月ほど掛かるが、愛する気持ちを失わせることが出来る。

 番側がどうしても嫌だったとしても、断ったとなれば、相手は番失くしをすることになる、非難されることは明らかとなる。

 しかし、これでも昔に比べればいい方である。竜人や獣人側が勝手に連れ去るなど、悲惨な事件が起きてから、互いのために定められたものである。

「私はこの国の者ではない」
「どこの国だ?友好国なら同じことだ」

 友好国で見付かった場合も、同じ条件で番になることを認められている。

「さあ、どこだろうな」
「名前は何という?」
「アップルパイ」
「アップルパイという名なのか」
「妹の好物だ」
「どこか座って話そう」

 腕を取ろうとしたが、さらりと避けられて、彼女は剣を抜き、自分の首に当てた。

「疲れているのだ、去らぬのならここで首を切ってもいい」

 既に剣先が当たっているようで、血が流れている。分かった、どこに泊まっているのかだけ聞き出し、今日は帰ると、立ち去るしかなかった。彼女は伝えた宿屋に入って行くのを確認した。

 サリスはグランド王国の王太子であった。

 両親に番が見付かったが、拒絶されたことを両親である両陛下に話すと、人族なら仕方ないことだと皆に慰められた。結婚していないのなら、ゆっくりと時間を掛けるんだと諭されるほどであった。

「元気がないな、拒絶されたからか?」

 訊ねているのは叔父であるカインドール。父の弟である。

「…殺して欲しいと言われて」
「は?」
「父上たちには言えなかった。どうも死にたいそうなんです。どうしたらいいか分からなくて」
「そう言われたのか」
「はい、食べる物に困っているのか、酷い目に遭っているのかと聞いても、とにかく死にたいと。名前も教えてもらえませんでした」
「自殺願望があるのか?」
「分かりません、でも自殺願望があるなら死んでいるんじゃないですか。首元に剣先を当てるのも躊躇がなかった」
「…そうか、生きる意味を与えればいいのではないか、私の愛しい番も辛い目に遭っていた。でも今は幸せだろう?」
「はい、叔父上たちほど仲の良い夫婦を知りません」

 カインドールと妻であるラズリーは番で、出会った時、妻は既婚者ではあったが、伯父が不遇な目に遭っているところを助け出し、二人は結婚し、息子を出産、さらに現在第二子を妊娠中だ。いつも一緒で非常に仲が良い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が1人なんて…誰が決めたの?

月樹《つき》
恋愛
私達、鳥族では大抵一夫一妻で生涯を通して同じ伴侶と協力し、子育てをしてその生涯を終える。 雌はより優秀な遺伝子を持つ雄を伴侶とし、優秀な子を育てる。社交的で美しい夫と、家庭的で慎ましい妻。 夫はその美しい羽を見せびらかし、うっとりするような美声で社交界を飛び回る。 夫は『心配しないで…僕達は唯一無二の番だよ?』と言うけれど… このお話は小説家になろう様でも掲載しております。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。

藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。 ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。 目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。 気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。 それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。 ……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。 絶対に同じ間違いはしない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全四話で完結になります。

処理中です...