【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
107 / 196

子爵夫妻5

しおりを挟む
「違うわ、シャーリンが支払うだけよ!あの子が悪いんだから」
「そうか…じゃあ、終わりだな」
「問題を起こしたのはシャーリンじゃないか!」
「そうだな」

 もうベリックは両親と、話し合う気も、言い合う気もなかった。あとは国王陛下と、レオラッド大公閣下に任せようと決めていた。

 カッシャーはベリックの様子に、ホッとすることもなく、さらに不安になった。

 しかも、諦めたように立ち去ったベリックと話している孫たちの目が、私たちを酷く軽蔑しているように見えた。

「あなた…大丈夫よね…?」
「分からない…」
「だって、悪いのはシャーリンじゃない」
「だが…シャーリンが嫁いだことで、マクローズ伯爵家から援助をして貰い、だからこそ…私たちの資金も出来たんだ…」

 どこから引退後の資金を作ったのかは、マクローズ伯爵家のおかげであった。

「そんなこと」
「ベリックは知っているはずだ。もしかしたら、陛下も…マクローズ伯爵家から聞いているかもしれない。私は間違えたのか…」
「でも、悪いのはシャーリン。そうでしょう?ベリックが払えばいいじゃない」
「だが、レオラッド大公閣下は両親と言ったんだ」

 自分よりも保身に走るマレーラに、カッシャーは少しずつ冷静になっていた。

「息子と孫たちを路頭に迷わせて、私たちだけが生きて行くのか…」
「それは…」

 お金には異常に執着していたが、可愛がってきた孫たちに、二人はさすがに心が痛んだ。

「支払おう、僅かしか残らないが…」
「だけど」
「私が働くよ…また後ろ指を差されながら、生きて行きたいか?」
「それは…」

 ジェフとシャーリンが結婚した時、王太子殿下の周りは祝福してくれたが、世代の違う者たちからは不貞を犯すような娘を育てるような親だと、白い目で見られた。

 それは騎士団長を、アニバーサリーを失かったことを恨む者もいた。

 通り過ぎる際や、直接ではなく回りくどく、『お前らが出て行けばよかっただろう』『騎士団長を返せ』『アニバーサリーがなくなったのはお前らのせいだ』といった内容を言われることも多かった。

 マレーラは友人たちにでさえ、茶会や夜会に呼ばれることもなくなった。

 しかも、友人には理由をハッキリ、シャーリンのせい、アニバーサリーが撤退した責任を取れるのかと言われたのだ。今でも交流も一切ない。

 その影響は事業にも出る様になり、でガルッツ子爵家と取引きをしたくないと、取引きがなくなり、その際からマクローズ伯爵家から援助をして貰うようになった。

 取引きよりも多くの金額も貰うようになり、無駄遣いはせずに貯め込み、ベリックに譲る際に引退後の資金だと、懐に入れた。

 マクローズ伯爵家から援助が厳しくなって、難しいと言われるまで、受け取り続けていたために、カッシャーはお金を持っていた。

 贅沢をしていたわけではない。だが、あのお金は私が貯めたもので、自分の物だという、強い執着を持っていた。だから、どうしても払いたくなかった。

「今から行って来る」
「…でも」
「孫に嫌われたくないだろう?」
「…それは、そうね」

 カッシャーは金庫から、500万円を取り出して、王宮に急ぎ、陛下に再度、謁見を申し込んだ。

「申し訳ございませんでした、お支払いいたします」
「あんなに渋っていたのに、気が変わったのか?」

 陛下は丁度、忌々しい気持ちで、レオラッド大公閣下への手紙を書いていたところであった。

「はい…皆を路頭に迷わせることは出来ません。申し訳ございませんでした」
「随分、冷静になったんだな」
「はい…お金に執着していたことは事実です。引退後は穏やかに暮らしたいと願っておりました。ですが、息子や孫を不幸にしては意味がないと気付きました…」
「遅いな、まあ返事を出す前で良かったな」

 戻って来るとは正直、思っていなかったが、決断力のない男なのだろう。

「はい…よろしくお願いいたします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...