【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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諦めが悪い

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「そうですね」
「お子さんかしら?えっ、あれって奥様?ということは、あの元伯爵令嬢よね?追いましょう」
「いえ、そのようなことは」
「お願いよ、女性同士なら話も出来るかもしれないわ」

 メーリンは王女だからということも、大いにあるだろうが、自国では貴族令嬢の友人も多かった。

 女性には好かれている自信もあったメーリンは、トーマスに必死で訴えた。

「失礼な態度はなさらないでくださいね」
「そんなことするわけないじゃない」

 当たり前ではないから言っているのだが、このような状態では聞く耳を持たないだろうと諦め、他の研究者に向かって首を小さく振った。

 メーリンは大公閣下家族の乗る馬車を追い掛けていると、JS(ジーズ)と書かれた大きな建物の前で停車したようであった。

 一階は商会のようで、買い物でもするのかと、メーリンは馬車から見ていたが、なかなか出て来ない。少し苛立ちを感じていると、窓が叩かれた。馬車が邪魔だったのかと思ったが、相手はレオラッド大公閣下であった。

 エルムに絶対零度と呼ばれる、何時にも増して、冷たい表情をしていた。

「何をしている!」
「あの!一緒にいらしたのは奥様ですよね!会わせていただけませんか」
「いい加減にしろ」
「奥様だったら、きっとじっくりお話が出来ると思うのです」
「妻は忙しいと言ったはずだ、話も聞いていないのか?」
「ですから」
「おい、そこの男!この無礼な王女を、連れて帰れ」

 メイリクスはトーマスを指差し、指示した。

「はい、承知いたしました」
「待って」
「無理だと申し上げたではありませんか、申し訳ございませんでした。すぐに」
「さっさと行け!」

 メーリンは見えていないのかと思うほどに、メイリクスの後ろには昨日、フォンターナ家にいたような筋肉隆々の騎士が睨み付けていたのである。

 御者に出してくださいと、滞在先のホテルに逃げ帰った。

「どうして従ったのよ」
「あのままではどうなったか分かりませんよ」

 さすがに切り殺されるようなことにはならないとは思ったが、切り殺されてもおかしくない佇まいであった。

「諦めきれないわ!そうでしょう?」
「ですが、そもそも抗議するとおっしゃっていたではありませんか。問題になったら、王女殿下でもどうなるか分かりませんよ」
「それはどうにでもなるわ!明日、もう一度、当主ではない方にでもお会いしないと…奥様がいいけど、大公閣下があれでは大公家は難しいでしょうし、もう一度フォンターナ家に行ってみましょう」
「それは…いけません」
「私が全ての責任を取るわ、一筆書くからお願いよ」

 メーリンは全ての責任は自分にあることを書いて、サインしてトーマスに渡し、トーマスも他の研究者も反論する気もなくなっていた。

 そして、性懲りもなく、メーリンはフォンターナ邸にやって来て、昨日とは違う筋肉隆々の門番二人に同じように挨拶をした。

「ハビット王国の第一王女で、メーリンと申します」
「昨日も、お断りしたはずです」
「ご当主にはお会いしたのです、ですので別の方にも話をお聞きしたいのです」

 メーリンも昨日のことからすんなりと押して貰えるとは思っていなかったが、当主に会ったことを言えば、検討して貰えるのではないかと考えていた。

「お約束のない方は、お通し出来ません」
「少しで良いのです」
「王宮にて少しでいいとおっしゃっていたのに、まだ聞きたいことがあると騒がれたと伺っております」
「っな」

 門番たちもメーリンたちのことは、情報共有されており、メーリンに動じることはないのだが、何やら騒がしい様子に気付いたのは、フォンターナ家に来ていたメイリクスとエノンの長男・エノンであった。

「何だ?」
「昨日の噂の王女ですよ」

 付いていた従者が、顔を顰めながら答えた。

「へえ、あれが?ふーん、本当に礼儀のなっていない王女のようだね」
「はい、その通りでございます」
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