【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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諦めるしかない

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「頭の悪い王女だね…父上はうんざりしていたし、母様が戻る前に片付けるか」
「ですが」
「母様の手を煩わせるよりいいだろう?」

 まだ戻る時間ではないが、エルムはフォンターナ家に来ることになっている。

 エノンは祖父であるオズワルドに稽古をして貰うために来ていたのだが、エルムがこちらに来るので、一緒に帰ろうと思っていたのである。

「そうですが…」
「心配するな」
「はい」

 エノンは門に向かって歩き出し、門番は背にしていたが、メーリンもその姿を捉えていた。

「騒がしいようですが、どうかしましたか?」
「エノン様!」
「エノン様には関係のない方です」

 門番はエノンに関わらせてはならないと、慌てることになった。

 メーリンは長身で、銀髪の綺麗な青年だと思ったが、それよりも邸の中にいるということは、フォンターナ家の関係者だと思い、話し掛けることにした。

「フォンターナ家の方?」
「いいえ、レオラッド大公家の者です」
「大公閣下のご子息?」
「ええ、そうです」
「私はハビット王国の王女で、メーリンと申します!是非、フォンターナ家の方に、今一度お話をお聞かせいただきたいのです!母君でも、前当主でも構いません。どうか、お取次ぎいただけませんか、お願いです」

 メーリンは門に近付き、エノンに訴え掛けることにした。

 これでも美しさから、幾人の男性を魅了をし、婚約の打診も受けていたメーリンは、このようなやり方はしたくなかったが、年頃の男性ならば話を聞こうと思うだろうと、涙目で悲痛な顔を見せた。

「既にお断りしております」
「でしたら、騎士団に通報してはいかがですか?」
「そうですね」
「えっ」

 メーリンは表情は変わらないが、穏やかな口調で、思ってもいなかったことを言われて、理解が出来なかった。

「邸の前で騒ぎを起こせば、当然のことです。通報いたしますので、そのままお待ちください」
「いえ、私は騒ぎなど…」
「邸の前で、約束もないのに、騒ぎ立てるような方が来られたら、王女殿下はどうぞどうぞと入れるのですか?」
「私は、そのような方とは違います」
「やっていることは同じではありませんか?」
「いえ、違います」

 エノンはやり取りに、これは父がうんざりしただろうなと理解した。

 ハビット王国という随分前から力のない国でも、王女という立場が自分は特別だと信じているのだろうと、呆れるしかなかった。

 王女でも、国によってそれなりの格がある。

 まあ、格のある王女でも、フォンターナ家に入れるわけにはいかない。

「では立場を考えて、帰られてはいかがですか?王女なのでしょう?騎士団に連行されては、美しき経歴に傷がつくのではありませんか?」
「それは…」

 さすがのメーリンも騎士団を呼ばれれば、誤解だったとしても、昨日のこともあるために、諦めるしかないとようやく考えた。

「ご家族も、ご婚約者の方も悲しむことになりますよ?よろしいのですか?」
「…分かりました、申し訳ございませんでした」

 今更謝っても、既に遅いのだが、帰ってくれるのならどうでもいい。

「でも、私は婚約者はおりません」

 最後にわざわざ自分が行き遅れである言葉を、なぜ伝えたのかは分からなかったが、メーリンたちはようやくハビット王国へ帰って行った。

「エノン様、申し訳ございません。まさか今日も来るとは」
「頭の悪い、礼儀のなっていない、小さな城の中で育てられた王女だろうからね」
「はい…」
「騎士団を呼べば、父上やお祖父様に迷惑が掛かると思ったのでしょう?」

 門番たちが騎士団のことを気付かないはずがない。意図的に呼ぶつもりはなく、その理由は父に連絡が行き、祖父は現在も騎士団の相談役になっている。

「…はい」
「もう来ることはないだろうけど、また来たら呼べばいいよ」
「承知しました」

 エノンは颯爽と邸に入って行き、ハビット王国には王女が戻る前にオルタナ王国から抗議文が届いていた。


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本日もお読みいただきありがとうございます。

明日は12時と17時に1日2話、投稿いたします。

どうぞよろしくお願いいたします。
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