【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
158 / 196

不愉快な王女、再び

しおりを挟む
「はあ…追加で手紙を書かなくては…はあ…」
「あんな王女だったのですね…」
「私も知らなかったが、あれが本性なのだろうな…だから関わるなと言っただろう」
「申し訳ございません」

 バトワスは苛立ったが、オークリーに現実を見させるためには、良かったかとだけは思った。

「おそらく、オルタナ王国でのことで縁談もないのではないか?」
「まさか」
「アマリリスのような王女だったとは…お前が婚約などと言っていたら、責任を取らされていたのではないか?案内して貰って、結婚を持ち出された可能性もある」
「…あ」
「早く婚約者を決めろと言っただろう!問題児を引き取る余裕などない」
「はい…」

 ようやく、淡い想いの消えたオークリーは、比較的裕福な伯爵家の令嬢を婚約者に選んだ。

 王宮を出たメーリンは、苛立っており、このまま帰るなんてと、最後にフォンターナ家があった場所にだけ行きたいと言い、見るだけなら大丈夫だろうと、フォンターナ家の跡地を調べて馬車を向かわせることにした。

 窓から見ていると、邸は既に壊された様子で、なくなっていた。

 だが、そこにはフォンターナ家で見た、レオラッド大公閣下の息子がいるのが見えた。馬車が着くと、メーリンは制止も聞かずに飛び出し、エノンの元へ向かって走り出し、目の前に立った。

 護衛は前に出ようとしたが、エノンが大丈夫だと告げた。

「あなた!私のこと、覚えているでしょう!」

 エノンは視線を移したが、何の反応もしなかった。

「何をしているの!」
「…」
「恥ずかしくて話せないの?情けないわね」

 さすがに年下だろうと、年上のお姉さんに、慣れていないのだろうと思い、ふふっと自意識過剰に微笑んだ。

 後ろの護衛は殺気立ったが、メーリンは気付くことなく、エノンも首を振ったので、成り行きを見ていた。

「仕方ないわね、人と話す時はね、恥ずかしくても目を見て話すのよ。そんなことをしていたら、女の子にも逃げられてしまうわよ」
「…」
「婚約者はいるの?」
「…」
「婚約者がいるとは言ってなかったわよね?」
「…」
「そうよ、私、あなたと結婚してあげてもいいわ。そうすれば、私が研究をすればいいのだし、そうよ、良い考えじゃない」

 ひとりでベラベラと話し続ける様に、エノンは愚かだなとしか思わなかった。

 そして、エノンの腕を掴んで、胸を押し付けて来て、限界に達し、強く振り払い、メーリンは尻もちをついた。

「っな!恥ずかしいからって痛いじゃない!」
「はっ!どうして不愉快な王女と結婚しないといけないの?罰ゲーム?」
「は?光栄なことでしょう!私は王族なのよ!」

 メーリンが喚いていると、エルムの父で、オズワルド・フォンターナが現れた。

「エノン?」
「お祖父様、この人、気色悪いよ」

 エノンはオズワルドに駆け寄り、メーリンを指差した。

「誰だ?」
「伯父様とお父様を怒らせたハビット王国の王女だよ」
「ああ、あれか」
「私は何も言っていないのに、私と結婚してあげてもいいなんて言うんだよ?胸を押し付けて来て…気持ち悪いよ」
「何だと!」

 オズワルドは、凄まじい力で、メーリンと、遅れてやって来た侍女と護衛たちを纏めて睨み付けた。

「この人、確か24歳だよ。大昔ならあり得るかもしれないけど、あり得ないよね」
「ああ、そういった趣味の者を捕まえたことがある。捕まえるか」
「でも、ここ…」
「構わない。取り締まらなければ、被害者を守れないからな。この国で起きたことは、ここの王家に連れて行けばいい」
「大丈夫?」
「ああ、問題ない」

 エノンとオズワルドは、エノンがアジェル王国のフォンターナ家だった場所を見たいと言ったので、忙しい両親に代わって、オズワルドに連れて来て貰っていた。

 オズワルドは解体された邸の跡を見に、エノンから離れている状況であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...