177 / 196
アゲイン
しおりを挟む
エルムは結局、絶対に付いて行くと言ったメイリクスと、エストはエノンが嫌な目に遭ったから行きたくないと言い、二人でアジェル王国に行くことになった。
泊まる気はないので、エノンの時の同じように日帰りで、フォンターナ家とアニバーサリーの跡地を見るには、朝から出れば十分な時間がある。
「気分が悪くなったら言うんだよ」
「大丈夫よ」
侍女や護衛もいるのだが、無表情で甲斐甲斐しくエルムを心配しているのは、勿論メイリクスである。
船で行くために、すぐにアジェル王国に到着することが出来る。
エルムは二度と来ることはないと離れた日に思ったが、懐かしさもあったが、木や植物すらなく、建物もどこか寂れていて、活気のないアジェル王国に変わっていた。
「変わってしまったのね」
「時間も経ったからね」
大きな船から降り立ったメイリクスとエルムは一応、お忍びという体ではあるが目立っており、だが二人の顔を知る者の方が少なく、観光ではないだろうから、たまたま寄ったのかなという程度である。
先にアニバーサリーのあった場所に、行くことになった。
「あら?」
ジェラルドから別の商会が入っていると聞いていたが、営んでいるように見えず、覗いてみるとやはり空き物件になっていた。
棚などは残っているようだったが、がらんとしており、アニバーサリーは撤退時に全て運び出したので、次か、最近まであった商会の物だろうと思った。
「ここなのか?」
「ええ、建物は同じだわ。ここで母の手伝いをしていたの」
「きっと可愛かったんだろうな」
「もう、何を言っているの」
いつものことではあるが、エルムは表情が変わらないのだから、言葉で伝えなければというメイリクスの気持ちは嬉しいが、何年経っても褒められることに慣れることは出来なかった。
「事実を言っただけだよ」
「もう」
そんな言い合いをしていると、エルムを意味深に見つめる姿があったが、気付かなかった―――。
二人はフォンターナ家の跡地に移動し、エノンから聞いていたが、そこにあったのだという土台のような物しか残されていなかった。
でも、それでいいと思った。変わらずそこにあるより、廃墟のようになっているより、他の誰かが住んでいるより、余程、すっきりとした気分であった。
「悲しいか?」
「いいえ、逆よ。なくなって良かったと思っていたの」
「そういうものかい?」
「分からないけど、私はこれが正解だったと思うわ」
フォンターナ邸がないことで、この目で見に来て良かったと感じていた。
「それなら良かった」
「でも、新しい邸が建っていても良かったとは思うわ」
「そうなのか?」
「ええ、前に進んでいる気がするわ」
だが、メイリクスはこの大きな敷地に邸を建てる余裕のある家は、アジェル王国にあるとは思えないと考えていた。
「義父上が足元さえ気を付ければ、近付いても大丈夫だと言っていたよ。行ってみるかい?」
「そうね、近寄ってみたいわ」
「転んだら支えるからね」
「転ばないわよ、私は運動は出来るのよ」
エルムはさすがオズワルドの娘というべきか、実はジェラルドよりも運動神経はいい。だからこそ危なっかしいところがあり、メイリクスは心配でならない。
「分かっているさ、でもヒールがあるだろう」
結局、メイリクスにガッチリと支えられるような形で、侍女も護衛もいつものことなので、エルムのことはメイリクスに任せるのが一番と心得ている。
「邸がなくなると、こんなに広かったと感じるのかと思っていたのだけど、そうではないのね…」
「そんなものかな?でも大きかったんだろう?」
「ええ、そんなに大きくなかったのねと思ってしまうわ」
勿論、フォンターナ家の邸はレオラッド大公家にも、現在のフォンターナ家にも負けないほど、大きく立派であった。
「エ、エルムさん!」
そんな話をしていると誰かが、エルムを呼ぶ声がした。
泊まる気はないので、エノンの時の同じように日帰りで、フォンターナ家とアニバーサリーの跡地を見るには、朝から出れば十分な時間がある。
「気分が悪くなったら言うんだよ」
「大丈夫よ」
侍女や護衛もいるのだが、無表情で甲斐甲斐しくエルムを心配しているのは、勿論メイリクスである。
船で行くために、すぐにアジェル王国に到着することが出来る。
エルムは二度と来ることはないと離れた日に思ったが、懐かしさもあったが、木や植物すらなく、建物もどこか寂れていて、活気のないアジェル王国に変わっていた。
「変わってしまったのね」
「時間も経ったからね」
大きな船から降り立ったメイリクスとエルムは一応、お忍びという体ではあるが目立っており、だが二人の顔を知る者の方が少なく、観光ではないだろうから、たまたま寄ったのかなという程度である。
先にアニバーサリーのあった場所に、行くことになった。
「あら?」
ジェラルドから別の商会が入っていると聞いていたが、営んでいるように見えず、覗いてみるとやはり空き物件になっていた。
棚などは残っているようだったが、がらんとしており、アニバーサリーは撤退時に全て運び出したので、次か、最近まであった商会の物だろうと思った。
「ここなのか?」
「ええ、建物は同じだわ。ここで母の手伝いをしていたの」
「きっと可愛かったんだろうな」
「もう、何を言っているの」
いつものことではあるが、エルムは表情が変わらないのだから、言葉で伝えなければというメイリクスの気持ちは嬉しいが、何年経っても褒められることに慣れることは出来なかった。
「事実を言っただけだよ」
「もう」
そんな言い合いをしていると、エルムを意味深に見つめる姿があったが、気付かなかった―――。
二人はフォンターナ家の跡地に移動し、エノンから聞いていたが、そこにあったのだという土台のような物しか残されていなかった。
でも、それでいいと思った。変わらずそこにあるより、廃墟のようになっているより、他の誰かが住んでいるより、余程、すっきりとした気分であった。
「悲しいか?」
「いいえ、逆よ。なくなって良かったと思っていたの」
「そういうものかい?」
「分からないけど、私はこれが正解だったと思うわ」
フォンターナ邸がないことで、この目で見に来て良かったと感じていた。
「それなら良かった」
「でも、新しい邸が建っていても良かったとは思うわ」
「そうなのか?」
「ええ、前に進んでいる気がするわ」
だが、メイリクスはこの大きな敷地に邸を建てる余裕のある家は、アジェル王国にあるとは思えないと考えていた。
「義父上が足元さえ気を付ければ、近付いても大丈夫だと言っていたよ。行ってみるかい?」
「そうね、近寄ってみたいわ」
「転んだら支えるからね」
「転ばないわよ、私は運動は出来るのよ」
エルムはさすがオズワルドの娘というべきか、実はジェラルドよりも運動神経はいい。だからこそ危なっかしいところがあり、メイリクスは心配でならない。
「分かっているさ、でもヒールがあるだろう」
結局、メイリクスにガッチリと支えられるような形で、侍女も護衛もいつものことなので、エルムのことはメイリクスに任せるのが一番と心得ている。
「邸がなくなると、こんなに広かったと感じるのかと思っていたのだけど、そうではないのね…」
「そんなものかな?でも大きかったんだろう?」
「ええ、そんなに大きくなかったのねと思ってしまうわ」
勿論、フォンターナ家の邸はレオラッド大公家にも、現在のフォンターナ家にも負けないほど、大きく立派であった。
「エ、エルムさん!」
そんな話をしていると誰かが、エルムを呼ぶ声がした。
3,444
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる