【完結】悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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アゲイン

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 エルムは結局、絶対に付いて行くと言ったメイリクスと、エストはエノンが嫌な目に遭ったから行きたくないと言い、二人でアジェル王国に行くことになった。

 泊まる気はないので、エノンの時の同じように日帰りで、フォンターナ家とアニバーサリーの跡地を見るには、朝から出れば十分な時間がある。

「気分が悪くなったら言うんだよ」
「大丈夫よ」

 侍女や護衛もいるのだが、無表情で甲斐甲斐しくエルムを心配しているのは、勿論メイリクスである。

 船で行くために、すぐにアジェル王国に到着することが出来る。

 エルムは二度と来ることはないと離れた日に思ったが、懐かしさもあったが、木や植物すらなく、建物もどこか寂れていて、活気のないアジェル王国に変わっていた。

「変わってしまったのね」
「時間も経ったからね」

 大きな船から降り立ったメイリクスとエルムは一応、お忍びという体ではあるが目立っており、だが二人の顔を知る者の方が少なく、観光ではないだろうから、たまたま寄ったのかなという程度である。

 先にアニバーサリーのあった場所に、行くことになった。

「あら?」

 ジェラルドから別の商会が入っていると聞いていたが、営んでいるように見えず、覗いてみるとやはり空き物件になっていた。

 棚などは残っているようだったが、がらんとしており、アニバーサリーは撤退時に全て運び出したので、次か、最近まであった商会の物だろうと思った。

「ここなのか?」
「ええ、建物は同じだわ。ここで母の手伝いをしていたの」
「きっと可愛かったんだろうな」
「もう、何を言っているの」

 いつものことではあるが、エルムは表情が変わらないのだから、言葉で伝えなければというメイリクスの気持ちは嬉しいが、何年経っても褒められることに慣れることは出来なかった。

「事実を言っただけだよ」
「もう」

 そんな言い合いをしていると、エルムを意味深に見つめる姿があったが、気付かなかった―――。

 二人はフォンターナ家の跡地に移動し、エノンから聞いていたが、そこにあったのだという土台のような物しか残されていなかった。

 でも、それでいいと思った。変わらずそこにあるより、廃墟のようになっているより、他の誰かが住んでいるより、余程、すっきりとした気分であった。

「悲しいか?」
「いいえ、逆よ。なくなって良かったと思っていたの」
「そういうものかい?」
「分からないけど、私はこれが正解だったと思うわ」

 フォンターナ邸がないことで、この目で見に来て良かったと感じていた。

「それなら良かった」
「でも、新しい邸が建っていても良かったとは思うわ」
「そうなのか?」
「ええ、前に進んでいる気がするわ」

 だが、メイリクスはこの大きな敷地に邸を建てる余裕のある家は、アジェル王国にあるとは思えないと考えていた。

「義父上が足元さえ気を付ければ、近付いても大丈夫だと言っていたよ。行ってみるかい?」
「そうね、近寄ってみたいわ」
「転んだら支えるからね」
「転ばないわよ、私は運動は出来るのよ」

 エルムはさすがオズワルドの娘というべきか、実はジェラルドよりも運動神経はいい。だからこそ危なっかしいところがあり、メイリクスは心配でならない。

「分かっているさ、でもヒールがあるだろう」

 結局、メイリクスにガッチリと支えられるような形で、侍女も護衛もいつものことなので、エルムのことはメイリクスに任せるのが一番と心得ている。

「邸がなくなると、こんなに広かったと感じるのかと思っていたのだけど、そうではないのね…」
「そんなものかな?でも大きかったんだろう?」
「ええ、そんなに大きくなかったのねと思ってしまうわ」

 勿論、フォンターナ家の邸はレオラッド大公家にも、現在のフォンターナ家にも負けないほど、大きく立派であった。

「エ、エルムさん!」

 そんな話をしていると誰かが、エルムを呼ぶ声がした。
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