【完結】本音を言えば婚約破棄したい

野村にれ

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暗き未来

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「解消が出来なかったら、白い結婚と別居を勝ち取るわよ。カナンもでしょう」
「当たり前じゃない、子どもが可哀想じゃない」

 離婚できない期間が設けられるため、身分はそのままに貴族社会から離脱することが多い。王都から離れ、ひっそりと過ごす、2人はそんな生活に憧れている。

「その子どもも、自由恋愛になると思ったら、産めないわよね」
「それよ、男でも女でも同じよね。こうなったら、自分の子じゃないということくらいしか逃げ場なんてないでしょう」

 この国は後継者が庶子ということはあり得るのだ。婚約を解消しても続けても、未来は暗い。そんな空気を砕くように扉が開かれた。

「リファ、婚約解消なんて嘘だろう」
「出た、パパがこんなところで、どうされたの?」

 リファの婚約者であるアルーム・ビター侯爵令息である。私たちは昼食は個室を借りているので、他に人はいない。

「パ、パパなんてあり得ない」
「あり得ることをしたんでしょう?」
「皆、しているじゃないか」
「あなたが選んで行っただけでしょう?人のせいにするものじゃないわ」
「だが、まだ出来ているか分からない」

 婚約者以外に子どもが出来ても、その相手が格上でもない限り、婚約を解消して、責任を取って結婚することはまずない。

 では母子はどうなるのか。婚約者同士でも、先に子どもが出来ることは、良いこととされない。しかも自由恋愛の影響から、托卵を疑われてしまう。

 それが妻の子ではないとなれば、庶子の待遇も余程でない限りはいいとは言えない。それでも子がおらず、別に養子を取る者が多いが、後継者になれる場合がある、だが後継者になる条件として、母親は切り捨てられることが多い。

「まあ、酷い話ね、親になるというのに」
「だから子どもが出来ているとも、私の子どもだとも決まったわけではない」

 あの元貴族の平民は、カナンとリファより2つ年上のキャスティン・ビーガンという男爵令嬢であったが、自由恋愛で自国ではなく、他国の貴族とは知らずに関係を持って、高額の慰謝料を請求され、男爵家は没落した。

 借金はなかったが、両親も弟も去って行き、キャスティンは一人になった。酒場で働いている際に、アルームを見付けて、言い寄って関係を持った。

 リファは邸に来た際にどこかで見たようなと思っていたが、名前を聞いて、ああと思ったという。

 男爵令嬢時代、キャスティンは婚約者はおらず、自由恋愛に託けて、高位貴族を狙っていたが、身体だけで、結婚はおろか愛人にもなれなかった。

 キャスティンはアルームを知っていたが、アルームはキャスティンを知らず、たまたま誘われたから手を出しただけであった。リファが婚約者だったことを知っていたために、グランフォード邸に押し掛けた。

 あわよくば妻に、愛人にはなれると思っただろうが、まだ妊娠しているか分からないようで、現在侯爵家の手配で病院に入院して、監視されている。妊娠していなかったら、貴族相手の詐欺となり、妊娠していても、托卵の可能性が消えていない。

 せめて身分が貴族ならば、子が出来ていれば、愛人という扱いになっただろうが、さすがに平民は何の後ろ盾もない。文句など言えばどうなるか分からない。あまりに危険な賭けにどうして挑んだのか。

 平民になっても考えは貴族のままで、子どもを作ってしまえば、自身をどこかの養子にしてもらって、貴族に戻れるとでも思っていたのだろう。

「父親になるのですから、喜ばしいことではありませんか。お幸せに」
「待ってくれ、リファが許せば解消はされないと聞いている」

 リファは顔を歪ませた、父がリファが許すのであればと言った可能性はある。
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