【完結】本音を言えば婚約破棄したい

野村にれ

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避暑

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 カナンの目の前でリファは机に伏している。朝一番にキャスティンは妊娠していなかったことだけは聞いていた。そして現在、いつもの昼食の個室である。

「出来ていなかったとは…」
「不幸な子どもが出来ていなくて、良かったというべきかしら」
「詐欺だと牢に入れられて、罰金刑だから肉体労働か、娼館行きでしょうね」

 キャスティンは不規則な生活で、生理周期が狂っていただけだった。妊娠していると騒げば保護して貰えて、今よりもいい生活が送れると思っていたが、待っていたのは入院生活であった。

 そして妊娠していなかったことが分かり、詐欺だと牢に入れられ、罰金刑となった。グラフォード侯爵家には全てが終わって説明があった。

「自業自得ね、でもビター侯爵家がさらにごねるのではない?」
「アルームは子どもは出来ていなかったから、元通りだと思っているみたい」
「元通りって言葉の意味を知らないの?」
「知らないんじゃない?サマーパーティーに誘って来るから、カナンに先に予定を入れて貰って良かったわ。リッツソード前侯爵夫妻の誘いなんて、強過ぎる手札だもの。すごすご去って行ったわ」

 カナンは夏季休暇の際に毎年、一人で祖父母のいる領地に避暑に行くのだが、リファの状況が状況のため、一緒に行かないかと誘い、祖母からも是非一緒にとグラフォード侯爵に文も出して貰っていた。

 カナンの祖父母であるリッツソード前侯爵夫妻は、祖父である前侯爵も騎士団長をだったこともあるが、祖母がモンタナ王国の第2王女であったことが大きい。

 モンタナ王国は広い国土に、穀物の輸入先として欠かせない相手である。

 祖父が祖母に惚れ込み、祖母も好意を持ったが、自由恋愛の影響で王から反対を受けるも、祖父は自由恋愛をしたこともなく、これからもする気もないと、命を懸けてもいいと言い切り、2人は結ばれた。

 非常にいい話なのだが、ペリラール王国では美談をして扱うことは出来ない。だが、精悍な祖父に愛される祖母は令嬢の憧れの存在であった。

 ゆえに、祖母を怒らせることは厳禁、もちろん祖父を怒らせても同じことである。

 ならば、カナンも祖父母に言って婚約解消出来そうなものだが、立ちはだかるのが2人の息子の父である。

「うちにも来たわよ、アランズ公爵令息が」
「げ、会うの久しぶりだったんじゃないの?」
「そういえば、そうね」
「またあの蚊の鳴くような声で?」
「ええ、勿論よ」

 ある日の休日。カナンは身体を動かして一汗かき、自室で休憩をしていた。

「カナンお嬢様、アランズ公爵令息がいらしてます」
「は?連絡あったかしら?」
「ございません。応接室で待たれるそうです。お茶だけは出しております」
「準備に2時間掛かると伝えると言うのは」
「2時間…そのままの君に会いたいなどとおっしゃる可能性は」
「レモ、あなたの恋人のようにポエマーではないはずよ」

 レモの恋人は詩人ではない。幼なじみの騎士であるが、ポエマーである。だが、自由恋愛はしていない、誠実な男性である。

「申し訳ございません」
「早く会って返す方がいいわね」
「賢明でしょう」

 カナンは死んだ目で、身支度だけして応接室に向かい、リファの言ったいつもの蚊の鳴くような声である。

  「ごきげんよう。何か御用でございましょうか」
「ああ、すまない。サマーパーティーなんだが」

 若夫婦や若者で賑わうサマーパーティーは、とても人気がある。去年、カナンは友人と参加しており、ルーフランは今年もするのかと聞きたくて訊ねて来たのだ。

  「何でしょうか」
「参加するのか」

  「しません」
「え?」

 カナンは声が小さくて聞こえないことが多く、しっかり耳を研ぎ澄ませる必要があるが、どうしても聞き返すことが多くなってしまう。

  「しません」
「そうか」

  「もうよろしいですか」
「ああ、いや、なぜ参加しないんだ?」

  「祖父母のところに行く予定になっているからです」
「そうか、邪魔して悪かった」

 王都でサマーパーティーが行われている頃、リファと祖父母のいる領地で楽しく過ごしていた。特にカナンは水を得た魚のようであったという。
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