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学園生活

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「大丈夫ですか」

 声を掛けるのは私を処刑した男。幾つになったのだろうか。憎しみというよりは、大きくなったなという印象しかない。

「ええ、大丈夫です。申し訳ございません」

 彼女の名前はリンだったけど、本当の名前も知らない。呼ぶこともないだろう。

 両親はアイレットの異質さに気付いてはいたが、3人の優秀さや華やかさに劣等感があるのだろうと思っており、特に何か意見を言うことはなかった。

 上の兄・ハービスから婚約者が決まり、下の兄・フィーストにも決まり、下の兄は婿養子ではなく、父の持っている伯爵位を継ぐ。姉は嫁ぐことになり、王家に出してもいい家柄ではあるが、年の合う王族はいないので、相手は貴族となる。近年は20歳前後で結婚が主流となっており、まだ慌てる時期ではない。

 姉・アデリーナが学園を卒業すると、アイレットが入学した。

「マスタールの名に、恥ずかしくない行動するように」
「アイレットは無理でしょう」「そうだ」「そうよ」
「いや、アイレットもマスタールなんだ。恥をかかせるな、分かったな?」
「…はい」

 3人の妹ということで始めは注目されたが、それだけであった。美しくはあるが、近寄りがたい雰囲気も相まって、誰も話し掛けることもなかった。

 しかし学園の試験の結果の日。アイレットは知らなかったが、順位が貼り出されて、やっぱりマスタールなのだと周りは思ったそうだ。1位のところにアイレットの名前があった。アイレットは貼り出されることも知らなければ、知っていても見に行くこともなかっただろう。

 アイレットは礼儀作法だけは人に教えて貰ったが、伯爵令嬢として基礎は覚えていたようで、侯爵家としても合格点を貰っていた。

 勉強は家庭教師を雇うと言われたが、人と関わるのが得意ではない、本を買って貰えれば、それで勉強すると父に言うと、アイレットはその方がいいかもしれないと許可を得て、ひとりで黙々と学び、試験もその延長線にあっただけである。

 邸でも特に変わりはなかった。その後の試験も、その後の試験も、ずっと同じであったが、周りも当たり前となり、わざわざ口にすることもなくなった。加えて、運動神経も良く、運動や乗馬も難なくこなした。ダンスだけは習うことがなかったので、平均点だったくらいだ。

 アイレットはマスタールの正義を振りかざして来ることもなければ、揉め事が起きても、見ているだけで、そもそも話し掛けてすら来ない。

 だが、嫌がらせを受けている子を見付ければ、状況を確認して、仲裁には入らないが、保健室に連れて行き、教師に報告するくらいは、マスタールとしてという部分を守るために行っていた。

 おかげで孤高の慈悲の才女と呼ばれるようになっていた。

 アイレットは本を読んでいたり、勉強をしていたり、眠っていたりと、皆は話し掛ければ、邪魔することになるため、ただ見るだけであった。

 父親は監査責任者として多忙で、同じ学園に通う他の貴族に娘さんは優秀ですねと言われても、姉の方だと思い、母親はその姉の婚約のことで、アイレットのことは気にしていなかった。

 アデリーナにフォリッチ公爵家との縁談があり、顔合わせが決まった。利益や事業のためにといった政略結婚もあるが、近年は幼い年ではなく、女は16~19歳頃に、男性はもう少し遅いことも多く、互いの爵位や相性を見てから婚約するという方が主流である。あまりに爵位が離れている関係は互いに苦労するので避けられるのは、昔から変わらない。

 政略結婚でも爵位が低いと断り辛いこともあったが、暴力や暴言、金銭の要求など、きちんとした理由があれば断ることも出来るようになっている。

 アデリーナはマスタールよりも裕福なフォリッチ公爵家に嫁げると大喜びである。マスタールとしても、いい縁組で、アデリーナが決まれば、3人の婚約が決まるため、両親もひとまず肩の荷を下ろせる。
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