私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
680 / 860

狩猟1

 部屋の前に着き、アンセムが先に入室したために、チェチリーとフェジェは笑顔で立ち上がった。だが、ソアリスの姿が見えた途端、チェチリーの顔色が悪くなった。

『ごきげんよう』

 ソアリスは孫攫い婆はできなくなったために、悪の親玉らしい含みのある笑顔で、共通語で挨拶を行った。

 アンセムはその言葉に、それでいくのかと思いながらも、目の前の獲物に不愉快な気持ちを隠さずに伝えた。

「突然来て、何の用事だろうか?話は済んだと思っていたが?」
「申し訳ございません。誤解を解いておきたいと思いまして、来させていただきました。こちらは私の実母で、フェジェでございます」
「フェジェ・カジスでございます」

 緊張した面持ちで、自己紹介をして、深く頭を下げた。

 フェジェは年老いたら、チェチリーがこうなるのだろうなという風貌をしており、二人は並んでいるために、よく似ていた。

「座ってくれ」

 アンセムとソアリスは、チェチリーとフェジェの前に座ると、二人も座った。

「それで、誤解とは何だろうか?特に誤解などなかったと思うが?」

 先触れについて非難しても良かったが、必要ならソアリスが糾弾するだろうと、面倒なので省くことにした。

「ピュアジュエルが健康ではないと、か弱いのではないかと、誤解されているのではないかと思ったのです」
「特に誤解はしていないが?」

 アンセムは何を言っているんだと思ったが、ソアリスを見るとゴゴゴゴゴと音がしそうな鋭い目をしているが、口元は微笑み、まさに悪の親玉であった。

「そ、そうですか……ですが、強くないことで、弱いと思われたのではないかと思い、これからのことにも関わりますので」
「そうですか」
「病弱というのは縁談にも関わりますでしょう?健康であることは重要ですから」
「誤解していないので、心配はいりませんよ」

 あっさり終わりそうで拍子抜けしているところもあったが、ソアリスのアンテナが働いているということは、きっと終わらないのだろうなとも覚悟もしていた。

「では、もう一度、カイルス殿下との縁談を考えてはいただけませんか?痩せているので、弱く見えてしまったわけではないのですよね?」

 アンセムがはさすが感度のいいアンテナに感心し、チェチリーに呆れ、溜息を付こうとした瞬間、ソアリスが狩猟を始めたようだと見守ることにした。

『そんな話してねぇだろう』

 チェチリーは発言を止め、目をパチパチしながら、ソアリスを見つめた。フェジェも同様であった。

 だが、ソアリスが見ていたのはチェチリーではなく、後ろの侍女と思われる、女性がビクリと動いたことであった。

『夫人の後ろのあなたは侍女かしら?あなたは共通語が分かるのね、なるほど、そういうことね』

 ソアリスは侍女がチェチリーのフォローに付けらているのだと理解し、彼女の立場を考えると、とても不愉快な気持ちになった。

『あなたも大変ね、発言を許すわ』
『はい。お初にお目にかかります。チェチリー大公夫人の侍女で、オレンジ・ヒューライと申します』
『まあ、可愛らしいお名前ね!瑞々しくて素敵』

 ソアリスが思わずにっこりと笑うと、オレンジは驚き、慌てて恐れ入りますと深く頭を下げた。

 オレンジはチェチリーより七歳年下で、生真面目な性格であった。

 前回、クロンデール王国に訪問した際は、オレンジはポシッジュがいたので、フォローは必要ないだろうと、外されていたのである。

『悪いようにはしないから答えて欲しいのだけど、私の前の親子が勝手に来たのかしら?大公は?』
『大公閣下は、ご存知ないと思います。大変申し訳ございません』
『いえ、あなたも止めるように言われていないということでしょう?それなら、いくらどうかと思っても、止められないわよね』
『はい……その通りにございます』

あなたにおすすめの小説

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。