私のバラ色ではない人生

野村にれ

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狩猟の後始末1

「ようやく狩猟が終わったな」
「あら?私、猟師だったのね」

 一行が去って行くと、ソアリスはまた腕をぶん回しており、あの程度では発散できないのは分かっていたが、やれるのなら張り倒したかったのだろう。

「折角、猟師ならやっぱり武力行使に出れば良かったわ」
「脅してはいたではないか」
「あのくらいいでしょう?私、運動するつもりだったのよ?」
「そうだな」

 そんな話をしていると、可愛らしい王女様が、しばらく待たされているので、さすがに騒ぎ出した。

「おかあさま、おやつ!」
「そうよ!おやつ、おやつ、おやつ!」
「おやつ、おやつ、おやつ!」

 母娘が同じように弾みながら、歌いながら、おやつを食べるために廊下を歩いている後ろを、アンセムは微笑ましく付いて行った。

「もう何度言ったか分かりませんし、毎日言っているような気もしますが、そっくりですね」

 クイオもその姿を見て、言わずにはいられなかった。

「ああ、誰も驚かないほどになっているからな」
「皆、微笑ましいような顔をしていますよね」

 オーランも破天荒な二人を微笑ましい目、祖父母くらいの世代になると、王女なのに元気でよろしいと思われていることを知っている。

 しかも、顔はミランとミフルに似ているのだが、ソアリスとの共通点として、一見すると大人しそうに見える顔つきがある。

 ゆえに本性を知らなければ、いつまでも若々しい王妃、美しい王女に見える。

 どちらかと言うと、アンセムは精悍な顔立ちで、いい年の重ね方をしているのだが、気難しそうに見える。国王として威厳は必要であるために、良いことなのではあるが、横の妻が化け物だと気付きにくい。

 おかげでソアリスの悪い口は、一瞬、理解ができないのである。

「私もあの背中を見ていると、同じように思ってしまうほどだよ」
「ソアリス様の性格が王宮を変えましたね」

 王宮はソアリスの怒号が響き渡ることもあるが、良くも悪くも活気に溢れている。

 もはや、新人でもない限り、驚くこともない。

「あれは、変わらざる得ないだろう?嫁に来て、木に登っていたんだぞ?」
「そうでございました……」

 オーランもクイオも一緒に付いてきたために、目を疑い、身を反りそうになった。オーランは似ている方ですか?影武者を雇っているのですかと問いたくなった。

 穏やかな物言いではないが、気の強そうな話し方でもない。だが、口が異常に悪く、頭の回転も速いので、言葉に窮することはない。

 むしろ、黙るということで主導権を握るやり方は、誰でもできるものではない。

「お転婆、じゃじゃ馬、やんちゃ、わがまま、どれもどこか違うよな」
「はい……幼い頃でもソアリス様のことだったら、根底が色々覆りますし、簡単には使えませんよ」
「ああ、やはり陰の支配者、悪の親玉、逆鱗だったか?あれがピッタリだろう。さすが、三年間、見て来た者たちが付けただけある」

 お転婆、じゃじゃ馬、やんちゃ、わがまま、すべてを合わせても、足りない気がしていた。

「教師にも止められるほどですからね」
「ああ、教師に話を聞いてみたいと思ったくらいだよ。今日のようにネチネチ、ネチネチ追い詰めていたのだろうな……いびりに向いていると豪語するだけのことはある」
「ですが、いびるようなことはなさらないでしょう」
「そのような配偶者を子どもたちが選んでいないからだよ」
「失礼しました」

 結婚している子どもたちの伴侶は、ちゃんとした方である。ピュアジュエルを含めて、相手にすることなく、叩き出している。

「選ぶとは思えないし、選びたくもないだろうな。そんな相手を選んだら、孫攫い婆に追加でいびり姑、ソアリスならもっといい名前を付けるのだろうが……まあ、そのようなものが降臨するだろうな」

 アンセムはソアリスのように、ネーミングセンスはない。

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