私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
139 / 752

末っ子

しおりを挟む
「はい、お元気です」
「良かったです」
「はあ…良かった…大丈夫だったんだな」

 皆に本当の安堵が広がった。

「はい、ソアリス様は痛みを思い出したようで、やはりしんどいとおっしゃっていましたが、通じたのかスルスルとお産が進みまして、一気にお産みになりました」
「それは、良かった」
「ただ、既に限界だと言って眠られております」
「そ、そうか…」

 お疲れ様と言いたかったが、起こしてまで言うことではない。再び怒られることも目に見えている。

「改めまして、おめでとうございます。今、片付けをしておりますので、もうしばらくお待ちください。終わりましたら、お迎えに伺います」

 現在、ソアリスが眠る中、セミや鳥で起きないと分かっているので、皆がお構いなしに片づけを行っている。

「弟だったの?妹だったの?」
「申し訳ございません。お伝えしておりませんでしたね、王女様でございます」
「妹…私、お兄ちゃん」
「はい、お兄様でございます」

 カイルスも今日で末っ子は卒業となり、今日からお兄ちゃんである。

「妹か…」

 子どもも生まれたというのに、ユリウスとマイノスも妹なら山ほどいるのに、嬉しそうにまだ見ぬ妹にソワソワしてしまっている。

 生命の誕生というのは、やはり素晴らしいことだとアンセムは実感した。

 そして、片付けが終わって、説明があった通りにソアリスは眠ってしまっているが、第7子、第四王女がいる部屋に入った。

 まずは皆で、寝ている王妃を見て、一度目の安堵。

 カイルスはいつも通りにソアリスに近付き、寝顔を嬉しそうに見つめた。

「お母様、お疲れ様です。ゆっくり休んでくださいね」

 その姿に、それはアンセムが言うべきだったのではないかと思ったが、アンセムもハッとしており、起こしてはならぬという思いが強かった自分を反省していた。

 すっかり良いところをカイルスに取られたが、気を利かせたロペス医師が第四王女の元へ案内した。

「少し、お小さいですが、問題のない体重です」

 アンセムは小さく頷き、ベビーベットに向かった。

 寝かされた小さな、小さな、娘であり、妹であり、姪っ子。こちらも眠っているようだが、ふにゃふにゃと動いている。第7子でも最初に抱き上げるのは緊張する。

「可愛い…おじ、間違えた、お父さんだよ」

 アンセムと最近は、おじいちゃんだよということが多いので、ソアリス同様に間違えてしまった。

「ソアリスに似ているような?どこか違うような…」

 皆もその言葉に、年の離れた妹の姿を見ようと、近付いて覗き込んだ。

「やった、やったわ、私と同じ髪色だわ」

 どんどん声を大きくしながら、喜びを爆発させたのは、ミフル。第四王女はプラチナブロンドであった。

「本当ね、綺麗な色だわ」
「顔もミフルに似ているんじゃない?」
「そうかもしれない、母と祖父、ミランお祖母様に似ているのではないか?もちろん、ミフルにも」
「凄く嬉しい…」
「ミフルだけ色味が違うのを気にしていたんだな…」
「ミランお祖母様がいた頃は良かったけど、私だけ違うんだもの」

 ミフル以外が同じ髪色ではないのだが、密かに気にしていた。

「アークスお祖父様が見たら、喜びそうね」
「本当ね」

 皆、アークスの顔を思い出し、微笑み合った。

 嫁たちもそっと近づき、義理の妹を見つめた。

「可愛いわ…エミリーっていう遊び相手も待っているからね」
「ミオスもいるわ」

 ルルエとエクシアーヌは、グズグズと泣いてしまっており、自分たちと重ねながらも、無事生まれたことに感激していた。

 きょうだいたちは泣くまではいかなかったが、誰しもが最悪の事態も想像しなかったわけではなく、母子ともに健康なことに心から感謝した。

「名前はあのぐーぐー寝ている母が目覚めてからですね」

 ソアリスは騒がしいのに、起きる様子もなく、疲れ切っているのか全く動かない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ
恋愛
転生してざまぁする。 後日談もあり。

妹は奪わない

緑谷めい
恋愛
 妹はいつも奪っていく。私のお気に入りのモノを……  私は伯爵家の長女パニーラ。2つ年下の妹アリスは、幼い頃から私のお気に入りのモノを必ず欲しがり、奪っていく――――――な~んてね!?

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

出戻り娘と乗っ取り娘

瑞多美音
恋愛
望まれて嫁いだはずが……  「お前は誰だっ!とっとと出て行け!」 追い返され、家にUターンすると見知らぬ娘が自分になっていました。どうやら、魔法か何かを使いわたくしはすべてを乗っ取られたようです。  

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

【完結】手紙

325号室の住人
恋愛
☆全3話 完結済 俺は今、大事な手紙を探している。 婚約者…いや、元婚約者の兄から預かった、《確かに婚約解消を認める》という内容の手紙だ。 アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。 父に言われたのだ。 「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」 と。 ※当主を《兄》で統一しました。紛らわしくて申し訳ありませんでした。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

処理中です...