私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
596 / 861

陰の支配者13

「ソアリス様には本当に感謝しかありませんので、これからも仲良くさせていただきたいと思います」
「ああ、そうしてくれ。二人のキューピットにしては、口が悪いが、ソアリスだったとはな」

 キューピットとソアリスがどうにも一致しないが、少し邪悪な表情にすれば、いたずらをしそうではあるが、なかなか似合うなと想像した。

「ソアリス様には彼と婚約を解消したくないという話は、していなかったのですが、後で聞くと『だって、あなた侯爵令嬢なんだから、破棄したければもうしているでしょ?』って、あっさりおっしゃられました」
「ああ、言いそうだな」
「先を見通すお力があるのかと思うほどでした」
「ああ」

 想像力が豊かという方が正しいが、否定できないところである。

「陰の支配者だということは、知っていたのか?」
「聞いてはおりました。ですが、身を持って知ったと言いますか、陛下もこれまで耳にされていなかったのですよね?」
「ああ」
「そういうことです、皆、知らないのです」

 ジュリーラも話は聞いており、偉そうで我儘な公爵令嬢なのだろうと思っていた。

 だが、偉そうではあったが、立場を思えば当然で、本当に立場は上なのである。しかも、我儘という言葉は、どうにも当てはまらない。

「伯爵も?」
「私は知りませんでしたが、母が聞いていたそうです」
「母君が?」
「はい、従姉妹の子どもが学園におりまして、ソアリス様は陰の支配者と呼ばれて、風紀を正していると聞いていたそうです」
「だから、ソアリスの嘘くさい泣き真似も怒らなかったんだな」

 やはりメディナ夫人が言うように、知っていたのだと納得した。

「はい、と言っては申し訳ない気持ちになりますが、ソアリス様の話すことに疑いを持たなかったのは事実です。ソアリス様には、何の得もありませんし、嘘は一つも言っておりませんから」
「そうか、ソアリスは妙なプレゼントを渡し、大袈裟にしただけで、嘘はないのか」
「はい、あの香水を付けて、森に放ってみようかと父は言っていたくらいです」

 温厚そうな伯爵がそこまで言うとは、本当に怒っていたのだろう。

 そして、それはソアリスの入れ知恵ではないかと思うほど、嬉々として考えそうなことでもあった。

「だが、連行したりしていたから見られてはいただろう?」
「それは生徒会や風紀委員の仕事だと思っておりました」
「なるほど……だから、陰の支配者」

 もう何度目か分からないが、ソアリスの恐ろしさを実感することになった。

 ジュリーラのことは氷山の一角にすぎず、このようなことがまだまだあるのではないかと思った。

「まだ他にもあるということだな?」
「私としては、勝手にお伝えできませんとしか申し上げられません」
「そうだな、これからもソアリスを頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 夫妻は深く頭を下げて、去って行った。

 ソアリスの話を聞いていたのには、興味もあったが、他にも理由があった。

 だが、ソアリスへではなく、今でもソアリスを大好きだと言って憚らないカイルスに、縁談を持ち掛けられているが、正直言って、アンセムも乗り気ではない。

「カイルスに縁談の申し込みがあった」
「縁談?」

 アンセムの表情から、ソアリスも良いものではないのだなと感じた。

「不満なのね?カイルスは?」
「カイルスにはまだ話していない」
「本人に聞いてみたらいいじゃない?他国なの?」
「ああ」

 その言葉にソアリスは、カイルスは他国に行くつもりはないだろうことは理解していた。

「どこの誰なの?」
「エクラオース王国の大公家だよ」

 エクラオース王国、小国であり、クロンデール王国からだと三日は掛かり、年間を通して高温多湿な気候である。

「ああ!陛下の嫌いな、ポンポリンとか、そんな名前だったわよね?」

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ

霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」 ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。 でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━ これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。 ※なろう様で投稿済みの作品です。 ※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。