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二十三、報せ
しおりを挟む夏も終盤。
その報せは、涼しい秋を感じさせる風と共にもたらせられた。
ユイジット王国が、選定に失敗した。
代々教皇を生み出し、教皇の権威に守られてきたユイジット王国の醜聞は瞬く間に広がっていく。
嘲笑、嘲りを多分に含んで。
ユイジット王国は驕っていたわけではなかった。
ただ一つのきっかけが、彼らを歪めた。
そして、現教皇の苦悩、ユイジットの末姫の境遇、それにより資格を失った様を嗤ったのだ。
何より敬愛せし教皇を苦しめたことは、同じ神を信じる国々にとって許し難いことであった。
執務室で報告を受けたウィザンドリーは、ため息をついた。
「報告が遅かったな。ユイジットは隠していたのか?」
「いえ、選定の失敗を認めたくなかったようです。王女に何度か選定をやり直させたそうですよ」
「無駄なことを……」
報告したジューリスも同感だとばかりに、頷いた。
そして、報告書の束を捲る。
「それと、先日のことですが、ユイジット王国との国境で侵入しようとした者がいるそうです」
「そうか」
「賊は、警備兵をナイフのようなもので切りつけましたが、難なく捕縛したと。切りつけた警備兵に対して、狼狽えていたとか」
「毒でも塗ってあったんだろうな」
ヴィザンドリーは苦笑した。
ナイフには即効性の毒が塗られていたのだろう。
なのに、ただの警備役であるはずの警備兵はびくともしなかった。
さぞかし驚いたことだろう。
「我が国は、精霊王に見守られし魔術の国ですから」
「毒など、物語でしか知らない民もいるぐらいだ」
デイグレード帝国は精霊王の加護により、毒物が消失するのだ。
精霊王の強力な祝福は、毒という概念すら消した。
食べ物の食べ合わせ、大量に摂取して起こる中毒すらないのだ。
まるで夢物語のようなことだが、それゆえに山々に潜む魔物に集中できるという利点がある。
魔物には、毒性の強い種が多い。
ただ、難点もあるのだ。
毒は使いようによっては、薬となる。
そういった有用な毒も無効化するので、デイグレード帝国は治癒の魔術を極めなければならなかった。
どうしても必要な場合は、出来上がった物を外から取り寄せるしかないのが現状だ。
化粧品や薬品などがそれに当たる。
デイグレード帝国が頻繁に他国に治癒魔術師団を派遣するのは、そういった品々を安く手に入れる目的があった。
ヴィザンドリーが皇太子時代に他国を回っていたのは、皇族自ら魔術の有用性を理解してもらうという背景があったのだ。
そうした行動の先に、幼いユリーシアとの出会いがあったのだから、縁とはわからないものである。
「国境からということは、既に賊の素性は割れているな」
「ええ。早馬が出ているかと」
「……やっと動いたんだ。手は抜かない」
ヴィザンドリーは冷たい目で微笑んだ。
今更ユイジットの王族が出張るようなことは、許しはしない。
「今日はオムレツ!」
「とろとろねえ!」
昼食は、ユリーシアの部屋で。
それがアインの希望だった。
昼は、父も母も忙しくて一緒に食べられない。
ならば、せめて姉と過ごしたい。
幼いアインの可愛い頼みごとに、ユリーシアは笑顔になってしまう。
「はわあ、美味しいぃ!」
「はふはふ」
出来たての温かい料理に舌鼓を打つ二人。
料理長の腕は今日も神業を繰り出していた。
「にゃあ! 何という歯応え! 染みる魚の風味! 美味いにゃあああ!」
シルクも絶好調だ。
「今日はカボチャのスープ?」
「甘くて、幸せえええ」
宮廷にも後宮にも、毒見役はいない。
今日も出来たての熱々料理に、幸せな悲鳴があがる。
オムレツにグリンピースが混ぜてあったが、アインは笑顔で食べていく。
ユリーシアも、舌に染み入る味に、ひとくちひとくち噛み締めた。
今夜は、何が出るのか。
明日の朝は、何だろう。
ささやかだけれど、日々の活力に繋がる幸せな思考。
ユリーシアは音を鳴らさずに、幸せを味わった。
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