都合のいい友だち

ことは

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15 あの子は誰

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(お母さん!)

 車から降りてくるお母さんに、さゆりは駆け寄った。

(ねえ、お母さんってば)

 どんなに頑張っても、声が出なかった。

 家族とは今まで普通に話せていたはずだ。学校で話せなくなってからも、家族と話せなくなるようなことはこれまで一度もなかった。

 お母さんが玄関ドアに鍵を差し込んで回した。

「あら、最初から鍵が開いていたのね。さゆり、閉め忘れたのかしら」

 お母さんが呟きながら、首をかしげる。

(お母さん、さゆりはここだよ)

 さゆりが話しかけようと近づいても、お母さんはさゆりの方を見向きもしない。

(どうして? どうしてお母さんにはわたしが見えないの?)

 お母さんが玄関ドアを大きく開けた。

(今だ!)

 さゆりは家の中に飛び込もうとした。だが、学校にいる時のように身体が硬直して動かなかった。

(お母さん、行かないで!)

 必死に叫ぼうとしたが、声が出ない。

(お母さん!)

 お母さんが、閉めようとしたドアをもう一度開いた。玄関の外をキョロキョロと見渡している。

(お母さん! さゆりはここだよ! ここにいる! お願いこっちを見て!)

 さゆりは身体を硬直させたまま、心の奥で叫んだ。動けない。声も出ない。どうやったら、お母さんに気がついてもらえるのだろうか。

「さゆ、り……?」

 お母さんが呟いた。

(そう、さゆりだよ。お母さん!)

 その時、家の中から大きな声がした。

「ねぇ、お母さーん、なにかおやつ買ってきたぁ?」

 ミサの声だ。

「買ってきたわよー、さゆりの好きなチョコ」

 お母さんはそう言いながら、バタンとドアを閉めた。

 夜になってお父さんも帰ってきたが、やはりさゆりの存在には全く気づかなかった。

   ◇

 夜は容赦なく更けていく。

 さゆりは玄関前に座り込み、寒さに耐えた。

 セーラー服一枚で、それ以上着るものも食べるものもない。

(ミサって何者なの? あの子は誰?)

 さゆりは体育座りをした膝を引き寄せた。そんなことをしても、ちっとも寒さはしのげない。

(イマジネーションフレンド? 都合のいい友だち?)

 さゆりはフッと笑った。

(ずいぶん都合の悪い友だちだったな)

 さゆりは首を横に振った。

 いや、友だちでもなんでもない。友だちがこんなことするわけがない。

(あいつは誰なんだ?)

 さゆりの部屋は1階にある。

 部屋の窓からは明かりがもれている。
 
 そこにいるのは誰? 誰なの?

 さゆりは朝まで、冷たく固いタイルの上で寒さに耐えなければならないのだろうか。

(明日は、朝一番に学校に行こう。絶対にあいつより早く行って、待ち伏せするんだ)

 薄暗い気持ちがふつふつと湧いてくる。

 さゆりの部屋の電気が消えた。

 辺りが一層暗くなり、寒さが倍増したように感じられる。

 この寒さの中、寝られるわけがない。

 あいつは今頃、さゆりの暖かいベッドの中でぬくぬくと寝ているのだろうか?

 一体、あいつは誰なんだ?

(絶対に許さない)

 シンとした静けさの中、猛烈な怒りが湧き上がってくる。

 さゆりは、自分の部屋の窓をにらみつけた。

 ザクッ。ザクッ。

 夜の静けさの中、石砂利を踏む音がひびく。

 ザクッ。ザクッ。ザクッ……。

 怒りを踏みしめるように、さゆりは一歩一歩近づいて行った。

 ザクッ。
 
 さゆりの部屋の前で立ち止まる。

「ウッ……ウッ……」

 さゆりは喉から声を絞り出した。まるで縄で首を絞められているみたいに苦しい。

 まるで自分の声ではないような、男のものか女のものかもわからないような声だった。

「ウッ……ウッ……ウォ、オ」

 喉が焼けるように熱かった。

 声にならない言葉が、喉で発火しているようだった。



 突然。



 叫び声が弾丸のように暗闇を切り裂いた。






「オマエハダレダアアアアアアアアア!」





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