演じる家族

ことは

文字の大きさ
5 / 45
1地雷

1-4

しおりを挟む
 期待しないように。今日子の忠告を忘れて、未来は買い物に夢中になった。

 ホームセンターで、カーテンやベッドカバーなど大きな物を購入した後、駅前にあるお気に入りの雑貨屋に寄ってもらった。

 可愛い雑貨に囲まれていると、無意識にテンションが上がってしまう。

 ハート。うさぎ。いちご。ピンク。リボン。女の子の気持ちをぎゅっと掴んで離さない店だ。

 春子の為の買い物なのに、自分も欲しくなってしまう。

 忠義は、少し店を覗いただけで、車で待っているからと出て行った。明らかに店に不釣り合いな父の姿がいたたまれなくて、未来は忠義がいなくなってほっとした。

「未来みーっけ!」

 よく通る高い声に振り向くと、同じクラスで親友の川瀬美波が立っていた。

 透きとおるような白い肌。二重の大きな目は、いつも涙でうるんでいるかのようにキラキラしている。少し傾けた顔。ポニーテールの毛先が揺れている。

 美波の笑顔がまぶしすぎて、未来は目を細めたくなる。

 フードのついた白のダウン。イエローの花柄ミニワンピ。ロングブーツ。美波が身につけるだけで、何もかもが輝いて見える。

 美波は、その辺のアイドルなんかより、断然可愛い。自慢の親友だ。

「未来も買い物? なんか、めちゃめちゃいっぱい買ってんじゃん。金持ち~。」

 未来が抱えているクッションやフロアマットを、美波がうらやましそうに眺める。

「そんなことないよ。相変わらず金欠だよ。今日はちょっと特別なんだ。模様替えしようかと思って」

「未来、この間も部屋、模様替えしたとか言ってなかった?」

「ええっ! あっ、そうだった、かな?」

「やっぱり金持ちはやることが違うね~」

 美波が近所のオバサンがするみたいに、未来の肩をバンバンと叩いてくる。

「だからそんなことないって。模様替えするのは私の部屋じゃなくて……えっと」

「誰の部屋? まさか、未来のお母さんもこういう趣味? うちのおばさんとは違うなぁ。さすが未来のママだよ、若いね」

「じゃなくて、やっぱり私の部屋かも」

 未来の声はだんだんと小さくなっていく。

 美波の透きとおる大きな目から、視線をそらす。そらした視線は、手に持ったクッションから自分の足元へと泳いでいく。

 美波には春子の病気のことを話したことがない。話すつもりもない。

 だから話がややこしくなった。うまい嘘が見つからなくて、挙動不審になる。

「なんか今日の未来、変」

 まっすぐな美波の視線に、足がすくみそうになる。

「そ、そうかな」

「ま、いいや。模様替えしたら、今度見せてよ。遊びに行くから。ねっ!」

「うん。遊びに来て。じゃぁ、お父さんが駐車場で待っているから、私、行くね」

「お父さんと来てたんだ。車で送り迎えなんてやっぱりお嬢様じゃん」

「お嬢様なんかじゃないって」

「そっか、そっか、間違えました。お姫様だよね。未来姫、じゃあね。また明日学校でね」

「うん。美波姫、また明日。」

(遊びになんて来ないで)

 心でつぶやきながら、未来は小走りになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『大人の恋の歩き方』

設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 ――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...