演じる家族

ことは

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1地雷

1-7

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 春子が布団から顔を出した。

「未来ちゃん、平気? なんともない? 気持ち悪いとか、お腹痛いとか」

「大丈夫だよ。おじや、おいしかったよ」

「そう。今日は、毒、入れてなかったんだ」

 春子は、起き上がってベッドに腰掛けた。おじやをすくって一口食べる。

「彼女がね、教えてくれたの。お母さんがわたしの食事に毒を入れているって」

「彼女って?」

「幽霊だよ。いつも来る、わたしたちと同じ年の女の子。未来ちゃんも、知っているでしょ?」

「あぁ。あの子のこと」

 未来は、春子に話を合わせた。

 もちろん、未来は女の子の幽霊を見たことはない。

「今もいるの?」

「ううん。今はいないよ。今いるのは、死んだおじいちゃんだけ。ほら、笑ってこっちを見てる。ドアのところ」

 未来はドアの方へ視線をやったが、そこには誰もいない。

「うん。いるような……」

「未来ちゃん、見えないの?」

 未来は首を縦にふった。

「どうして未来ちゃんには見えないのかな。やっぱりわたし、もうすぐ死ぬのかな。死に近いから、幽霊とか、見えちゃうのかな」

「そんなことないよ! ハルちゃんは死んだりしないよ」

 しばらく、沈黙が続いた。

「ねぇ、わたし、ガンなの?」

 ひとり言のように、春子がつぶやいた。

「どうしてそういう発想になるの? ハルちゃんは昔から、少し体が弱いだけ。お母さんにもそう言われているでしょ?」

 それから唐突に、春子が、
「今日、何日だっけ?」
と聞いた。

「12月5日だよ」

 そう、と春子はつぶやいて、おじやをすくって口に入れた。

「ねぇ、ハルちゃん。わたしに何かしてほしいこと、ない? ハルちゃんのために、何かできることあったら言って」

 未来は、思いきって聞いてみた。何かしてあげたい、そう思っても何も思いつかなかった。

 それなら、本人に聞くのが一番だと思った。たとえ、今日のように忘れられてしまっても。

「友だちがほしい」

「友だち?」

「そう。わたし、学校行ってないでしょ。外にも出られないから、わたしには家族しかいない。未来ちゃんの学校の友だち、家に連れてきて」

 未来は、すぐに返事ができなかった。何でもしてあげようと思っていたのに、正直な話、それは少し困る、と思った。

「だめ? もしかして、わたしなんかに、友だち会わせるの、いや?」

 本当のところをつかれて、未来は胸の真ん中がチクチクした。

「そんなことないよ。わかった。今度、友だち、連れてくるよ」

 未来は、春子がこの約束を忘れてくれればいいと思った。

 だが、忘れてほしいことに限って、いつまでも春子は覚えている。

「やった。わたし、楽しみにしているから。忘れないように、ノートに書いておこう。未来ちゃん、そのノート返して」

 未来は、春子にノートを差し出した。春子が、手を伸ばした。

「ちょっと、離して」

「あ、ごめん」

 未来は、ノートをつかんだままの手を、ようやく離した。

「わたしも、お昼、食べてくる」

 部屋を出て行こうとする未来に、春子が聞いた。

「今日、何日だっけ?」

「12月5日だよ」

 ドアノブに手をかけたところで、また後ろから、
「今日、何日だっけ?」
と、春子の声が追いかけてきた。

 未来は、振り返った。

 春子がまっすぐな視線で、こっちを見つめている。

 だから、と未来は心の中だけで苛ついて、穏やかな声で答えた。

「12月5日だよ」
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