演じる家族

ことは

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3幼なじみ

3-2

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 翌日。ホームルームが終わると、未来と美波と恵理はすぐに教室を出た。翔太のクラスへ向かう。

「よかった。まだ、いるね」

 美波が、後ろの窓から教室を覗いて言った。

「美波がそんなに覗きこんだら、目立っちゃうよ。ほら、男子がみんな振り返って美波の方見てる」

 未来は、美波の袖をひっぱった。

「じゃ、わたしが代わりに……」

そう言って恵理が、教室を覗く。

「あっ。もう出てくるよ。小田君と一緒だ」

「学年一かっこいいコンビじゃん」

 美波が嬉しそうに声を弾ませる。

「えっ。どうしよう」

 できれば他の人には話を聞かれたくない。一人のところを狙いたかったが、無理なようだ。

 未来がオロオロしていると、美波が、
「声かけないなら、わたしが行くよ」
と、未来の耳元で言った。

「だめ。それは絶対だめ。美波が声かけたりしたら、関係ない人にも注目されちゃう」

 翔太が教室から出てきた。髪はくしゃくしゃっと無造作に、だが計算しつくされたように決まっている。切れ長の目は涼しげで、大人びて見えた。

 未来は知らない人を見ているような気がした。

 一瞬、翔太と目が合ったような気がしたが、瞬きをした次の瞬間には、小田俊介の方を見て楽しそうに話している。

 俊介はゆるい天然パーマが、洋風の顔立ちによく似合っている。

 廊下の窓から差し込む日差しが、二人のためのスポットライトのように輝いている。

 未来は、映画のワンシーンを見ているような気分だった。傍観者になったまま、自分がここに何をしに来たのか忘れそうになった。

 翔太が、未来たちの前を通り過ぎようとした。

 美波が、未来の背中を強く押した。未来はよろけて、翔太と俊介の前に飛び出した。

 未来はバランスを崩して前かがみの体勢になったまま、翔太と俊介の4本の足が歩みを止めるのを見た。

「あっ、ごめんなさい」

 未来が姿勢を正すと、思った以上にすぐ近くに翔太の学ランがあった。見あげると、不機嫌そうな翔太の顔。

(翔君、こんなに背が高かったっけ?)

 未来は、ドキリとした。

 翔太は、何も言わずに未来をよけて通り過ぎようとする。

「未来!」

 美波が強い調子でささやく。

 未来は、大きく息を吸った。

「待って。翔君」

 翔太が、一拍おいてから振り返った。

「俺、先、練習行ってるから」

 俊介が前を向いたまま手を振る。

「あ、俺も行くって」

「いいのいいの、女泣かせんなよー」

「っんだよ、それっ」

 翔太が俊介の背中にドスの効いた声を投げつける。

「何か用?」

 翔太はチラっと美波と恵理の方を見てから、明らかに迷惑そうな顔で、未来に聞いた。

 未来は何から話していいのか、翔太とどんな距離感で話したらいいのかわからなくてとまどった。

 前はどういう風に翔太と話していたのか、未来は思い出せなかった。

「時間、ないんだけど」

 翔太の苛立ったような言い方に、未来は気が動転してしまった。

「翔君、久しぶりに家に遊びに来ない?」

 何の説明もなしに、いきなり、誘ってしまった。

「は? 何で、俺がおまえんちに行かなくちゃいけないの?」

 翔太は、未来のことを以前のように「未来ちゃん」とは呼ばなかった。

「だって、前はよく来てくれたでしょ?」

「何言ってんの? そんなガキの頃の話。俺、これから部活だから」

「サッカー部、練習、厳しいもんね」

「そういうことだから。じゃあな」

 そう言いながらも、翔太はすぐには立ち去ろうとしなかった。

「未来、あきらめるの? 話だけでも聞いてもらいなよ」

 美波が、未来の背中を小突いてきた。

「いいよ、もう……」

 未来は、翔太が以前のように親しく話してくれると期待していた。それなのに、これ以上冷たくあしらわれたら、立ち直れそうになかった。

「何、ごちゃごちゃ言ってんの? 俺、もう本当に行くからな」

 翔太は、小走りで行ってしまった。
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