演じる家族

ことは

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3幼なじみ

3-4

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 目を開けると、白い天井が見えた。

(ここ、どこだろう)

 ザッとカーテンの開く音がした。

「あ、気がついた? 具合はどうかしら?」

 白衣を着た女の人が、見おろしていた。

 未来はその顔に、全く見覚えがなかった。

「誰、ですか?」

 女の人が驚いたような顔をする。

「未来!」

「未来ちゃん」

 カーテンの向こうから、二人の女の子の声。バタバタと足音が聞こえる。

 女の人が、すばやくカーテンを閉める。顔だけカーテンの外に出して、
「もう少し、そっちで待っていて」
と、誰かに話している。

 そしてすぐにこっちに向き直った。

「養護教諭の宮下だけど、わたしのこと、わからないの?」

 首を縦に振った。

「あなた、自分の名前はわかる?」

 今度は首を横に振った。

(名前……わたしの名前は……)

 喉元まで出てきそうで出てこない。

 どうして自分の名前が思い出せないのか。得たいの知れない恐怖に襲われた。

 足元から世界が崩れ落ちるような感覚に、再び意識を失いそうになる。

 周りの景色から色彩が奪われ、光が奪われ、最後には自分自身が闇に飲まれて消えていく幻想に捉われた。

「怖い。わたし、怖いよ……」

 言いながら、唇が細かく震える。

 女の人に手を握られた。温かい。

「大丈夫よ。もうすぐお母さんが迎えにくるわ」

 手が、温かい。指先から血液が全身に巡ってくる。

 その時、突然夢から覚めたような感覚があった。

 色と光を失った周囲の景色が、絵の具をぶちまけたように彩を取り戻す。

「あ、思い出しました」

「え?」

 女の人の顔から、薄いベールがはがれていくようだった。現れたのは、よく見慣れた宮下教諭の顔。

「自分の名前、思い出しました。永野未来です。わたし、どうして保健室にいるんですか?」

「サッカーボールが頭に当たって、倒れたのよ」

 宮下教諭はクルリと背中を向けると、カーテンを20センチほど開けた。

「川瀬さん、渡辺さん。もう入ってきてもいいわ」

 美波と恵理が、心配そうな顔をしてやってきた。

「未来、大丈夫?」

「大丈夫だよ。もうなんともない」

 未来が起き上がろうとすると、
「もう少し横になっていた方がいいわ」
と、宮下教諭にベッドに寝かされた。

「ごめんね。わたしが無理やりあんな所まで連れて行ったから」

 美波が申し訳なさそうな顔をする。

「わたしの運が悪かっただけだよ」

 保健室のドアが、ガラガラと開けられる音がして、
「しつれいしまーす」
と、控えめな声がした。

「あら、中井君と小田君。来てくれたの。今、永野さん、目が覚めたところなの」
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