演じる家族

ことは

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4幽霊

4-6

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「未来ちゃん、友だち連れて来てくれたの? 嬉しい」

 春子は今回もまた、美波と恵理のことを覚えていなかった。

 未来は、美波が演劇部だということを春子に知られない方がいいと思った。

 二人を簡単に紹介すると、部活の話になる前に、未来はすぐに本題に入った。

「あのね、ハルちゃん、女の子の幽霊に悩まされているでしょ?」

 未来が言うと、春子の顔が暗くなった。

「どうしてかな。忘れたくないことはすぐに忘れちゃうのに、忘れたいことは絶対に忘れることができない」

 春子が両手で顔を覆う。

「あの子、死神かもしれない。わたし、もうすぐ死んじゃうような気がするの。この頃、怖くてたまらないんだ」

「そのこと二人に話したらね、恵理ちゃんが、除霊したらいいんじゃないかって言うんだ」

「除霊? どうやって?」

 春子が興味を示した。顔を上げ、背筋をピンと伸ばしている。

「恵理ちゃんのこの格好、何か気がつかない?」

「巫女さんがいるなぁ、とは思っていたけど、それが何か?」

 全員が恵理に注目すると、恵理は目をキョロキョロさせてうつむいた。

「恵理ちゃん、除霊ができるんだよ」

 美波が、恵理の両肩に手を置いて春子の前に押し出すようにする。

「お父さんの職業なんだっけ?」

 美波が恵理の顔を覗きこむ。

「え? えっとぉ……」

 恵理が手をモジモジさせている。緊張しているのか、聞き取れないほど声が小さい。

「神主さんなんだよね?」

 未来が聞いても、恵理は声を出さずに頷いただけだった。

 美波が恵理の肩をポンポンと叩きながら続けて話す。

「恵理ちゃん、もう除霊モードに入っているみたい。除霊の前は、あまり口をきかなくなるんだ。そうだよね?」

 恵理は、う、と小さく声を漏らしただけで、すぐにうつむいた。

「お父さん、全国的にもすごーく有名な神主さんなんだよ。恵理ちゃんにはね、生まれつき不思議な力があるの。見えない物を透視したり、予知夢を見たり、空を飛んだり?」

 美波が自分の言っていることに、自分で首をかしげた。

 空は飛ばないでしょ、空は。と未来が美波の耳元でささやく。

「そ、空も飛べます!」

 恵理が突然大きな声を出した。

「えっ!」

 美波と未来が、恵理を同時に見る。

 未来が、春子の表情を盗み見ると、眉間に皺を寄せている。

 嘘がばれただろうか。この計画は失敗に終わるのだろうか。

「空を飛べるって……。つまり、幽体離脱ができるってこと?」

 春子が疑わしい目で恵理を見る。

「あ、まぁそんな所です……」

 恵理の声が小さくなっていく。

 そう、そう、と美波が声を重ねる。

「恵理ちゃんは、体から魂だけ抜け出すことができるのよ。魂だけになれば、空だって飛べる」

 美波が自信満々に説明すると、恵理ももっともらしく、首を縦に振っている。

 美波が声のトーンを落として、真面目な顔をして話す。

「それからね、魂だけの存在を呼び出して、誰かの体にのりうつらせることもできるの。今からやろうとしていることはそれ」

「魂だけの存在って幽霊のこと?」

 春子が身を乗り出すと、ゆっくりと美波がうなずいた。

「女の子の幽霊を、わたしの体に降霊させようとしているの。そしてどうしてハルちゃんの前に現れるのか話を聞きだして、最終的には除霊する」

 部屋が静まり返る。待機状態になっていたエアコンが、ゴーっと暖かい空気を吐き出す。

「ハルちゃん、恵理ちゃんに、お願い、してみない?」

 未来が、春子の気持ちを探るようにゆっくりと言った。

 春子が、未来を見つめる。顔を未来の方に向けたまま、恵理に視線を移す。

「信じてもいいの?」

 恵理の視線が一瞬泳ぐ。嘘をつくことにためらいを感じているのか、一度開いた口を閉じた。

 だが、次の瞬間、恵理は春子の目をまっすぐに見た。

「わたしの力を信じてください」

 春子が、ゆっくりと頷いた。
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