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1 願いを叶えるジュエル
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「ほしくない?」
水沢奈々にそう聞かれて、藤崎凛音は返事に困った。
「なにが?」
他に答えようがない。
もったいぶっているのか、ナナからは答えが返ってこない。
リンネは運動場にある時計を見た。あと5分で昼休みが終わる。
ナナとはクラスが違うから、昼休みが終わればなかなか話す時間がない。
「ねぇ、なんのこと?」
リンネはブランコの上に立ち上がった。
膝を曲げ、立ったまま勢いをつけてこぐ。青い空がぐんと近づく。
6月の中旬頃から毎日雨ばかりだったから、久しぶりの青空だ。
水色のキュロットスカートが、空気をふくんで風船のように膨らむ。肩まで伸ばした髪が、風に飛ばされて気持ちよかった。
「だから、願いを叶えるジュエルだよ」
ナナも、隣のブランコに立ち上ちがった。ナナのブランコが、大きく揺れる。
「だからっていうけど、今、初めて聞いたしっ」
リンネは頬をふくらませて、ナナを見た。
背中の真ん中くらいまである、つやつやのロングヘアー。半そでの黒いワンピースからは、すらりとした手足が伸びている。
切れ長の目にすっと通った鼻筋が大人っぽくて、リンネと同じ小学5年生には見えない。
ただブランコをこいでいるだけなのに、ナナの動きは、まるで踊っているみたいに優雅だ。
運動場を走る子どもたちの、にぎやかな声。ブランコが風を切る音。なんでもない日常の音が、ナナのための音楽に変わる。
ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー。軽快なリズムが聞こえてきそうだ。
(わたしも、あんなふうに……)
そこまで考えたとき、リンネははっとした。
「えっ、願いを叶えるジュエル?」
リンネの声が裏返った。
「反応、おそーい」
ナナが、笑いながら軽やかにブランコから飛び降りた。思わず拍手をしたくなるような、きれいな着地だった。
リンネはブランコをこぐのをやめた。
ブランコに座り、つま先で地面をこすって勢いを止める。黒いスニーカーに砂ぼこりがついて白くなった。
「ジュエルって宝石のこと?」
リンネは、スニーカーについた砂を手で払いながら聞いた。
ナナが、こっくりとうなずく。
「いとこに聞いたんだけど、今、すごい噂になってるんだって」
ナナの声が、ナイショ話をするみたいに小さくなる。
「いとこって、桜田小に行ってる、わたしたちと同じ5年生の子? ナツキちゃんだっけ?」
リンネもつられて小声で話す。桜田小学校は、リンネたちが通っている緑ヶ丘小学校の、隣の学区にある。
ナナがにっこりとうなずく。
「ジュエルを手に入れた桜田小の子がね、次々と願いが叶っちゃってすごいんだって」
「どんな願いが叶ったの?」
すかさず質問するリンネに、ナナが首をかしげた。
「テストで100点取ったとか、運動会でリレーの選手に選ばれたとかじゃない?」
「それだけ?」
「えーっと、人気雑誌の読者モデルになっちゃったとか、好きな人と両思いになれたとか……もあるかも……多分」
ナナの声が、自信なさそうに途切れ途切れになっていく。
「多分?」
リンネが聞くと、ナナが肩をすくめた。
「くわしくは知らないんだ。いとこも直接その子と友達じゃないみたいだし」
「な~んだ。それって本当かあやしくない?」
リンネはブランコに腰かけたまま、ナナを見上げた。
「でも、本当に願いが叶うなら、ほしくない? そのジュエル」
ナナが中腰になって、リンネの顔をのぞきこんできた。
「ほしいけど……わたし今、おこづかい300円しか残ってないんだよね。300円じゃ買えないよね」
「買えなくはないよ」
ナナが真顔で答える。
「えっ、そんなに安いの? どこに売ってるの?」
リンネは、早口で聞いた。
簡単に手に入るものなら、ほしいに決まっている。
占いとかおまじないとかそういう不思議な力に、リンネは興味がある。
願いが叶うジュエルなんて、すごく魅力的だ。もしそのジュエルの力がニセモノだとしても、300円で買えるなら、試してみる価値はある。
「それが問題なんだ」
ナナが大きくため息をついて、隣のブランコに腰かけた。
「売ってるんじゃなくて、クレーンゲームで取らなくちゃなんだよね。そのジュエル」
「クレーンゲームって、ゲームセンターにある?」
「そう。駅前のショッピングモールに入っているゲーセンにあるんだ」
リンネは思わず立ち上がった。
「それ、一緒に取りに行こうよ」
「それがね、わたし、この前の日曜日に3千円も使っちゃったんだけど、結局一つも取れなかったの」
「3千円も?」
リンネは目を丸くした。
「お金の無駄だから、お母さんにもうやっちゃダメって禁止されたんだ。だから連れて行ってもらえないの」
「そうかぁ」
ナナは、ちらちらと横目でリンネのことを見てくる。ナナには、なにか他に言いたいことがあるようだ。
「ほら、学校の規則で、保護者が一緒じゃないとゲームセンターに入れないでしょ?」
「そうだね」
「でも、明日のダンスレッスンまでに、絶対に手に入れたいんだよね、わたし」
ナナは幼稚園の頃から、ガールズヒップホップを習っている。
ナナに誘われて、リンネも4年生からダンススクールに通い始めた。今はリンネも、ダンスを踊るのが楽しくてたまらない。
「じゃぁ、わたしのお母さんに連れて行ってもらおうよ。ちょうど駅前のショッピングモールで買いたいものがあるって言ってたから、連れて行ってもらえるかも」
「本当? いいの?」
ナナが目を輝かせた。
「そのために、わたしにこの話をしたんでしょ?」
「ばれたか」
ナナがペロッと舌を出した。
水沢奈々にそう聞かれて、藤崎凛音は返事に困った。
「なにが?」
他に答えようがない。
もったいぶっているのか、ナナからは答えが返ってこない。
リンネは運動場にある時計を見た。あと5分で昼休みが終わる。
ナナとはクラスが違うから、昼休みが終わればなかなか話す時間がない。
「ねぇ、なんのこと?」
リンネはブランコの上に立ち上がった。
膝を曲げ、立ったまま勢いをつけてこぐ。青い空がぐんと近づく。
6月の中旬頃から毎日雨ばかりだったから、久しぶりの青空だ。
水色のキュロットスカートが、空気をふくんで風船のように膨らむ。肩まで伸ばした髪が、風に飛ばされて気持ちよかった。
「だから、願いを叶えるジュエルだよ」
ナナも、隣のブランコに立ち上ちがった。ナナのブランコが、大きく揺れる。
「だからっていうけど、今、初めて聞いたしっ」
リンネは頬をふくらませて、ナナを見た。
背中の真ん中くらいまである、つやつやのロングヘアー。半そでの黒いワンピースからは、すらりとした手足が伸びている。
切れ長の目にすっと通った鼻筋が大人っぽくて、リンネと同じ小学5年生には見えない。
ただブランコをこいでいるだけなのに、ナナの動きは、まるで踊っているみたいに優雅だ。
運動場を走る子どもたちの、にぎやかな声。ブランコが風を切る音。なんでもない日常の音が、ナナのための音楽に変わる。
ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー。軽快なリズムが聞こえてきそうだ。
(わたしも、あんなふうに……)
そこまで考えたとき、リンネははっとした。
「えっ、願いを叶えるジュエル?」
リンネの声が裏返った。
「反応、おそーい」
ナナが、笑いながら軽やかにブランコから飛び降りた。思わず拍手をしたくなるような、きれいな着地だった。
リンネはブランコをこぐのをやめた。
ブランコに座り、つま先で地面をこすって勢いを止める。黒いスニーカーに砂ぼこりがついて白くなった。
「ジュエルって宝石のこと?」
リンネは、スニーカーについた砂を手で払いながら聞いた。
ナナが、こっくりとうなずく。
「いとこに聞いたんだけど、今、すごい噂になってるんだって」
ナナの声が、ナイショ話をするみたいに小さくなる。
「いとこって、桜田小に行ってる、わたしたちと同じ5年生の子? ナツキちゃんだっけ?」
リンネもつられて小声で話す。桜田小学校は、リンネたちが通っている緑ヶ丘小学校の、隣の学区にある。
ナナがにっこりとうなずく。
「ジュエルを手に入れた桜田小の子がね、次々と願いが叶っちゃってすごいんだって」
「どんな願いが叶ったの?」
すかさず質問するリンネに、ナナが首をかしげた。
「テストで100点取ったとか、運動会でリレーの選手に選ばれたとかじゃない?」
「それだけ?」
「えーっと、人気雑誌の読者モデルになっちゃったとか、好きな人と両思いになれたとか……もあるかも……多分」
ナナの声が、自信なさそうに途切れ途切れになっていく。
「多分?」
リンネが聞くと、ナナが肩をすくめた。
「くわしくは知らないんだ。いとこも直接その子と友達じゃないみたいだし」
「な~んだ。それって本当かあやしくない?」
リンネはブランコに腰かけたまま、ナナを見上げた。
「でも、本当に願いが叶うなら、ほしくない? そのジュエル」
ナナが中腰になって、リンネの顔をのぞきこんできた。
「ほしいけど……わたし今、おこづかい300円しか残ってないんだよね。300円じゃ買えないよね」
「買えなくはないよ」
ナナが真顔で答える。
「えっ、そんなに安いの? どこに売ってるの?」
リンネは、早口で聞いた。
簡単に手に入るものなら、ほしいに決まっている。
占いとかおまじないとかそういう不思議な力に、リンネは興味がある。
願いが叶うジュエルなんて、すごく魅力的だ。もしそのジュエルの力がニセモノだとしても、300円で買えるなら、試してみる価値はある。
「それが問題なんだ」
ナナが大きくため息をついて、隣のブランコに腰かけた。
「売ってるんじゃなくて、クレーンゲームで取らなくちゃなんだよね。そのジュエル」
「クレーンゲームって、ゲームセンターにある?」
「そう。駅前のショッピングモールに入っているゲーセンにあるんだ」
リンネは思わず立ち上がった。
「それ、一緒に取りに行こうよ」
「それがね、わたし、この前の日曜日に3千円も使っちゃったんだけど、結局一つも取れなかったの」
「3千円も?」
リンネは目を丸くした。
「お金の無駄だから、お母さんにもうやっちゃダメって禁止されたんだ。だから連れて行ってもらえないの」
「そうかぁ」
ナナは、ちらちらと横目でリンネのことを見てくる。ナナには、なにか他に言いたいことがあるようだ。
「ほら、学校の規則で、保護者が一緒じゃないとゲームセンターに入れないでしょ?」
「そうだね」
「でも、明日のダンスレッスンまでに、絶対に手に入れたいんだよね、わたし」
ナナは幼稚園の頃から、ガールズヒップホップを習っている。
ナナに誘われて、リンネも4年生からダンススクールに通い始めた。今はリンネも、ダンスを踊るのが楽しくてたまらない。
「じゃぁ、わたしのお母さんに連れて行ってもらおうよ。ちょうど駅前のショッピングモールで買いたいものがあるって言ってたから、連れて行ってもらえるかも」
「本当? いいの?」
ナナが目を輝かせた。
「そのために、わたしにこの話をしたんでしょ?」
「ばれたか」
ナナがペロッと舌を出した。
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