リンネは魔法を使わない

ことは

文字の大きさ
1 / 14

1 願いを叶えるジュエル

しおりを挟む
「ほしくない?」

 水沢奈々にそう聞かれて、藤崎凛音は返事に困った。

「なにが?」

 他に答えようがない。

 もったいぶっているのか、ナナからは答えが返ってこない。

 リンネは運動場にある時計を見た。あと5分で昼休みが終わる。

 ナナとはクラスが違うから、昼休みが終わればなかなか話す時間がない。

「ねぇ、なんのこと?」

 リンネはブランコの上に立ち上がった。

 膝を曲げ、立ったまま勢いをつけてこぐ。青い空がぐんと近づく。

 6月の中旬頃から毎日雨ばかりだったから、久しぶりの青空だ。

 水色のキュロットスカートが、空気をふくんで風船のように膨らむ。肩まで伸ばした髪が、風に飛ばされて気持ちよかった。

「だから、願いを叶えるジュエルだよ」

 ナナも、隣のブランコに立ち上ちがった。ナナのブランコが、大きく揺れる。

「だからっていうけど、今、初めて聞いたしっ」

 リンネは頬をふくらませて、ナナを見た。

 背中の真ん中くらいまである、つやつやのロングヘアー。半そでの黒いワンピースからは、すらりとした手足が伸びている。

 切れ長の目にすっと通った鼻筋が大人っぽくて、リンネと同じ小学5年生には見えない。

 ただブランコをこいでいるだけなのに、ナナの動きは、まるで踊っているみたいに優雅だ。

 運動場を走る子どもたちの、にぎやかな声。ブランコが風を切る音。なんでもない日常の音が、ナナのための音楽に変わる。

 ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー。軽快なリズムが聞こえてきそうだ。

(わたしも、あんなふうに……)

 そこまで考えたとき、リンネははっとした。

「えっ、願いを叶えるジュエル?」

 リンネの声が裏返った。

「反応、おそーい」

 ナナが、笑いながら軽やかにブランコから飛び降りた。思わず拍手をしたくなるような、きれいな着地だった。

 リンネはブランコをこぐのをやめた。

 ブランコに座り、つま先で地面をこすって勢いを止める。黒いスニーカーに砂ぼこりがついて白くなった。

「ジュエルって宝石のこと?」

 リンネは、スニーカーについた砂を手で払いながら聞いた。

 ナナが、こっくりとうなずく。

「いとこに聞いたんだけど、今、すごい噂になってるんだって」

 ナナの声が、ナイショ話をするみたいに小さくなる。

「いとこって、桜田小に行ってる、わたしたちと同じ5年生の子? ナツキちゃんだっけ?」

 リンネもつられて小声で話す。桜田小学校は、リンネたちが通っている緑ヶ丘小学校の、隣の学区にある。

 ナナがにっこりとうなずく。

「ジュエルを手に入れた桜田小の子がね、次々と願いが叶っちゃってすごいんだって」

「どんな願いが叶ったの?」

 すかさず質問するリンネに、ナナが首をかしげた。

「テストで100点取ったとか、運動会でリレーの選手に選ばれたとかじゃない?」

「それだけ?」

「えーっと、人気雑誌の読者モデルになっちゃったとか、好きな人と両思いになれたとか……もあるかも……多分」

 ナナの声が、自信なさそうに途切れ途切れになっていく。

「多分?」

 リンネが聞くと、ナナが肩をすくめた。

「くわしくは知らないんだ。いとこも直接その子と友達じゃないみたいだし」

「な~んだ。それって本当かあやしくない?」

 リンネはブランコに腰かけたまま、ナナを見上げた。

「でも、本当に願いが叶うなら、ほしくない? そのジュエル」

 ナナが中腰になって、リンネの顔をのぞきこんできた。

「ほしいけど……わたし今、おこづかい300円しか残ってないんだよね。300円じゃ買えないよね」

「買えなくはないよ」

 ナナが真顔で答える。

「えっ、そんなに安いの? どこに売ってるの?」

 リンネは、早口で聞いた。

 簡単に手に入るものなら、ほしいに決まっている。

 占いとかおまじないとかそういう不思議な力に、リンネは興味がある。

 願いが叶うジュエルなんて、すごく魅力的だ。もしそのジュエルの力がニセモノだとしても、300円で買えるなら、試してみる価値はある。

「それが問題なんだ」

 ナナが大きくため息をついて、隣のブランコに腰かけた。

「売ってるんじゃなくて、クレーンゲームで取らなくちゃなんだよね。そのジュエル」

「クレーンゲームって、ゲームセンターにある?」

「そう。駅前のショッピングモールに入っているゲーセンにあるんだ」

 リンネは思わず立ち上がった。

「それ、一緒に取りに行こうよ」

「それがね、わたし、この前の日曜日に3千円も使っちゃったんだけど、結局一つも取れなかったの」

「3千円も?」

 リンネは目を丸くした。

「お金の無駄だから、お母さんにもうやっちゃダメって禁止されたんだ。だから連れて行ってもらえないの」

「そうかぁ」

 ナナは、ちらちらと横目でリンネのことを見てくる。ナナには、なにか他に言いたいことがあるようだ。

「ほら、学校の規則で、保護者が一緒じゃないとゲームセンターに入れないでしょ?」

「そうだね」

「でも、明日のダンスレッスンまでに、絶対に手に入れたいんだよね、わたし」

 ナナは幼稚園の頃から、ガールズヒップホップを習っている。

 ナナに誘われて、リンネも4年生からダンススクールに通い始めた。今はリンネも、ダンスを踊るのが楽しくてたまらない。

「じゃぁ、わたしのお母さんに連れて行ってもらおうよ。ちょうど駅前のショッピングモールで買いたいものがあるって言ってたから、連れて行ってもらえるかも」

「本当? いいの?」

 ナナが目を輝かせた。

「そのために、わたしにこの話をしたんでしょ?」

「ばれたか」

 ナナがペロッと舌を出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

処理中です...