リンネは魔法を使わない

ことは

文字の大きさ
2 / 14

2 危険な本物

しおりを挟む
 ゲームセンターは、ショッピングモールの5階にある。

「あまり時間がないから、急いでね」

 リンネのお母さんがエスカレーターを目指し、先を歩いていく。ナナとリンネはそれに続いて、早足で歩いた。

 リンネは歩きながら、通路の右前方にある子ども服のお店に目を止めた。ダンスをやっている子に人気のあるお店で、ナナもよく、ここの服を着ている。

 店先で洋服を見ている女の子がいる。後ろ姿しか見えないが、すごくおしゃれな感じの子だ。

 女の子が、体の向きを変えた。横顔が見えて、リンネはドキッとした。

「あれ、ステップの中川麻里奈ちゃんじゃない?」

 リンネはナナの肩を叩いた。

 ステップというのは、リンネとナナが通うダンススクールの名前だ。マリナは同じ5年生だが、通っている小学校が違う。

「やっぱり遠くからでも目立つね、マリナちゃん。オーラが違う」

 黄色い華やかなワンピースを着ているマリナは、小柄であるにもかかわらず、人を惹きつけるパワーにあふれている。

「そうかな」

 ナナの表情が固い。将来ダンサーになりたいというナナは、マリナのことを勝手にライバル視しているのだ。

 マリナはこっちに気がつく様子はない。お母さんらしき人と一緒に、洋服を選んでいるようだ。もし気がついたとしても、この場で話をすることはないだろう。

 リンネは、本当はマリナと友達になりたかったが、ナナに遠慮してほとんど話したことがない。たまに挨拶をする程度だ。

 二人はマリナの横を黙って通り過ぎた。

 通り過ぎてから一度、リンネはマリナの方を振り返った。

 マリナはロゴの入ったTシャツを胸に当てて、お母さんと何か話している。視線に気がついたのか、マリナがこっちを見た。リンネと目が合う。

 あわてて視線をそらそうとした瞬間、マリナがにこっと笑いかけてきた。リンネも思わず微笑み返す。胸の中がぽっと温かくなった。

 前に向き直ると、二人のやりとりに、ナナが気づいている様子はない。悪いことをしているわけではないのに、なんだかナナに悪いな、と思ってしまう。

 リンネはもう一度振り返った。店先にはもう、マリナの姿はなかった。

「リンネ、遅いわよ」

 お母さんとナナが、エスカレーターの前でこっちを見ていた。

 いつのまに二人に遅れていたのだろう。リンネは小走りで二人に追いついた。

   ◇

「買い物したらすぐに戻るから、先に二人で遊んでいてね」

 そう言い残して、お母さんはゲームセンターを出て行った。

「もう、保護者同伴じゃなくちゃいけないのに。すぐ戻るって言いながら、結構時間かかると思うよ」

 リンネはナナの耳元で大きな声を出した。

 さまざまなゲームの効果音が入り混じり、店内は耳をふさぎたくなるほどうるさい。だから、自然と声が大きくなってしまう。

「うちのお母さんも一緒だよ」

 ナナが大声で返しながら、ゲームセンターの奥へ向かう。

「あっ、これ、これ」

 クレーンゲーム機の本体に張り付けられた紙には『本物の宝石のきらめき。願いを叶えるジュエルに、あなたは何を願う?』と、ポップな字体で書かれている。

 透明ガラスの向こうには、黒くて丸いカプセルが山積みになっていた。

「あのカプセルの中に入っているの?」

「うん。どんなジュエルが入っているかは取ってからのお楽しみだって。先にやってもいい?」

「いいよ。わたし、300円しかないから。ナナがやるのを見て、どうやったら取れるか研究してからにする」

 ナナがさっそく100円玉を投入口に入れる。

 唐突に、軽快な音楽が流れ出した。ナナがボタンを押すと、ゲーム機の天井から吊るされたクレーンが動き出す。

「この辺かな~」

 クレーンのアームが開き、カプセルをすくう動きにうつる。アームの先についた銀色の3本のかぎ爪が、一つのカプセルをとらえる。

 リンネには、すごく簡単なように見えた。

「ナナ、すごいじゃん!」
 リンネが言い終わるか言い終わらないうちに、
「あ~ぁ!」
とナナががっかりした声を上げる。

 アームが獲得口に戻る前に、カプセルは転がり落ちてしまった。カプセルは数回バウンドし、奥の方に行ってしまう。

「なに、今の? そんなのあり?」

「だよねー?」

 ナナが続けて100円玉を入れる。

「あっ、来たかも」

 ナナが胸の前で両手を握りしめる。

「あとちょっと。お願い」

 出口まであと少しというところで、カプセルが向こう側に転がってしまった。

 だが、出口の近くのカプセルの山は、今にも崩れ落ちそうになっている。これなら、次は簡単に取れそうだ。

「あー! おしかったね!」

「あと少しで落ちるんだけど、両替しないと100円玉がない。誰かに取られちゃうと嫌だから、リンネ、見張っていてくれない?」

 ナナが両手を顔の前で合わせて、立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 リンネはナナの腕をつかんだ。

「これ、やりたいって人が来ちゃったらどうするの?」

「今、友達がやってるから後にしてくださいって言えばいいんだよ」

 ナナは平気な顔をして言う。

「えー。そんなこと言うのはずかしいから、わたしがナナの代わりに両替してくるよ」

 リンネは手のひらを上に向けて、ナナの前に出した。

「じゃぁ、お願いね。なるべく早く戻ってきて」

 ナナが、千円札をリンネの手に置いた。

   ◇

 リンネが両替機から、500円玉を1枚と100円玉5枚を取り出した時だ。

「あれ、やめたほうがいいよ」

 聞いたことのある声がして、リンネは振り返った。

 そこにいたのは、さっき下の階で会ったマリナだった。

「えっ!?」

 マリナに声をかけられたことに驚いて、リンネはすっとんきょうな声をあげた。

「えっと、なにか、言った?」

 本当は聞こえてはいたが、マリナの言っていることの意味がわからなかった。

「願いを叶えるジュエル、取ろうとしているんでしょ?」

 マリナが上目遣いでリンネを見る。

 こうやって並んでみると、マリナはリンネよりもずっと背が低い。ふんわりとしたショートヘアは、少し茶色っぽい。黒目がちな目は丸っこくて、小動物みたいでかわいらしい。

「そうだけど」

 リンネは両替した硬貨をギュッとにぎりしめた。

 ナナが待っているから、早く戻らなければならない。

 だが、もっとマリナと話してみたかった。マリナとちゃんと話すのはこれが初めてだ。

 それに、マリナの話はまだ終わっていない。ここでナナのところに戻れば、話しかけてきたマリナを無視したみたいになってしまう。そんなの感じが悪い。

「さっき、リンネちゃんたちがエスカレーターを上っていくのを見て、もしかしたらって思って見に来たんだ。あれ、取らないほうがいいよ」

「なんで?」

「本物なの、あのジュエル。本当に願いが叶うから」

 マリナが真剣な顔で言う。

 だったら余計に欲しい。リンネには、マリナの言っていることの意味がさっぱりわからない。

「あっ」

 思わず大きな声が出て、リンネは口をふさいだ。

「マリナちゃんって、桜田小学校だっけ? 桜田小でこのジュエルのこと、すごい噂になってるんでしょ?」

 マリナが小さくうなずく。

「ナナちゃんにも言っておいて。ジュエルを取らないようにって」

 眉間にしわを寄せ、マリナが強い口調で言う。

「どうして……」 

 どうして取っちゃいけないの、と聞こうとしてリンネはハッとする。

(もしかして、ライバル視しているのはナナだけじゃないの? マリナちゃんもナナのこと……)

「ひょっとして、ナナに願いを叶えられたら、マリナちゃんが困るってこと?」

 リンネは自然と口調がきつくなってしまった。

 マリナの顔が、泣きそうにゆがむ。

 マリナが口を開きかけた時、
「マリナ!」
と女の人が駆け寄ってきた。

 きちんとお化粧をしていて、華やかな人。雰囲気がマリナにそっくりだ。

「あっ、お母さん」

「マリナ、探したのよ。早く帰らないと塾に遅刻しちゃうじゃない。もうすぐ5時よ」

「もうそんな時間?」

 マリナが慌てた様子で腕時計を見ている。

 だが、マリナはもっと話したそうにリンネの顔を見た。

「ほら、早く」

 マリナのお母さんに腕をつかまれ、マリナが歩き出した。

 リンネもナナのところに戻ろうと一歩踏み出した時、マリナが振り返った。マリナは怖いくらいに真剣な顔をしている。

「あのジュエルは危険なの。本当だよ」

 マリナの鋭い視線に、リンネの心臓がドクンと大きな音を立てた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

処理中です...