リンネは魔法を使わない

ことは

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7 落としたジュエル

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 マリナと別れ、リンネは足元を見つめながら一人で歩いていた。

(マリナちゃんの話、本当かなあ)

 ジュエルに魂を抜かれたというマリナの親友。魂を抜かれたというのは、ただの噂かもしれないが、学校に来ていないのは本当だろう。

 だが、リンネは実際にその子を知っているわけではないから、実感がわかない。

 だけど、それがナナの身に起きたら? こんなに冷静でいられる?

 ナナが、ジュエルに魂を抜かれる? 魂を抜かれるなんて言いすぎだとしても、なにか悪いことが起きたらどうする? 

 ジュエルのせいで、やる気がなくなる? あんなに情熱を注いでいたダンスもやる気をなくしてしまう? 本当に? 

 リンネは勢いよく頭を振った。そんなのいやだ。

 だが、せっかく手に入れたジュエルを、ナナは簡単には手放さないだろう。

 願いをかけるなと言われて、素直にそうするとは思えない。言葉で説得することができないなら、やっぱり魔法の力で気持ちを……。

(ちょっと待って)

 リンネは悪い考えに思い当って、心臓がキュッと縮んだような気がした。

(その前に……わたしはどうなるの?)

 リンネは立ち止まり、手の平を広げてジュエルを見つめた。

「願い、かけちゃったし。しかも叶っちゃったし」

(やだ、怖い)

 腕に鳥肌が立つ。

「よぉ、リンネ」

 突然、勢いのある声が飛んできた。

 リンネは驚いて肩を震わせた。その瞬間、ジュエルを落としてしまった。

 ジュエルが手をすり抜け、アスファルトに落ちる。そのまま勢いよく跳ねながら転がっていく。歩道から車道に。

 ジュエルを追いかけ、つい、車道に足を踏み出しそうになる。けたたましいクラクションの音。電流が走ったみたいに、全身がしびれる。リンネは、反射的に足を引いた。

「あっ」

 声を上げた時には、ジュエルの上をトラックが通過していた。

 トラックは、黒い排気ガスを大量に吐き出していく。リンネはゴホゴホとむせながら辺りを見渡したが、ジュエルがどこに行ってしまったかわからない。

「せっかく取ったのに」

 残念な気持ちと、ほっとした気持ちが入り混じる。もうジュエルに頼ることはできないが、余計な心配もしなくていい。

「リンネ、なにか落とした?」

 声をかけてきたのは、幼なじみの桃井春人だった。

「えーっと、このくらいの小さなムーンストーン。願いを叶えてくれるジュエルらしいんだけど……」

 リンネは指で小さな丸を作った。

「なんだそりゃ。願いが叶う? 女子ってそういうの好きだよなー」

「あーもう、絶対にばかにしてるし」

 リンネが頬を膨らませると、ハルトが両手を振った。

「いや、そんなこと、ないない。ごめんな。オレが急に声かけて驚かせたせいだろ? 落としたの。一緒に探そうか?」

 近づいてくるハルトに、
「いいの、いいの。どうせ捨てようと思っていたものだったから」
とリンネは一息に言った。

「でも……」

 ハルトは困ったような顔をしている。責任を感じているのかもしれない。

「ハルトは、店のお手伝い?」

 ハルトは青いエプロンをしていた。この頃ぐんと背が伸びたハルトは、お店のエプロンをしているとちょっとだけ大人っぽく見える。

「まったく、いやになっちゃうよなぁ」

 ハルトが、手に持った空っぽのジョウロを振る。

 風が吹いて、ふわっと花の甘い香りがただよってきた。

 ハルトの足元には、色とりどりの鉢植えの花があふれている。

 ハルトの向こう側にはガラスの扉。そこには『フラワーショップ MOMOI』と淡いピンクの文字で書かれている。

 店の奥で、ハルトのお父さんが花束のアレンジメントを作っているのが見えた。お母さんはにこにこしながら、お客さんと話をしている。

 ハルトは花屋の一人息子。自宅はリンネの家の近所だが、花屋は駅前にある。

「サッカーは?」

「今日は練習休みだから、店を手伝えってさ。うちの親、鬼だよ」

 その言葉ほどには、ハルトは嫌そうな顔をしていない。むしろ、生き生きとしている。

「でも、サッカーと同じくらい、ハルトは花が好きなんだよね」

「まぁ、嫌いじゃないけど」

 照れくさそうに言うハルトに、リンネはクスリと笑った。

「そうだ、ちょっと待ってて」

 ハルトはそう言い残して、店の奥に入っていった。
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