リンネは魔法を使わない

ことは

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6 大切な友だち

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「リンネちゃん」

 ナナが帰るのを見計らったように、マリナが声をかけてきた。

「ナナちゃんが持っていたのって、あのジュエルだよね?」

 マリナが思いつめた顔をしている。

「あ……、うん。まぁ、そうだけど」

 リンネは歯切れの悪い返事をした。

「取らないようにって、わたし、言ったよね?」

 リンネはマリナから目をそらし、水筒をリュックにしまった。

「もしかしてナナちゃん、もうジュエルに願いをかけたの?」

「……多分ね」

 どんな願いをかけたのか詳しくは聞いてないけど、おそらくダンスのことだ。

「ナナちゃんに、絶対にこれ以上、願いをかけないようにって言って」

「そんなこと、言えないよ。だってそれは、ナナの自由だもん」

(わたしだってもう、願いかけちゃったし)

 マリナには、自分もジュエルを持っていることを言わないほうがよさそうだ。

「リンネちゃんなら、ナナちゃんに言えるでしょ? 仲良しだもん。言えないなら、力ずくで奪うしかないよ、あのジュエル」

 マリナがリンネの腕をつかんできた。リンネはその手を振り払う。

「なんでそんな勝手なこと言うの? ナナがジュエルに願って、マリナちゃんよりダンスが上手になったら嫌だから?」

 リンネがにらみつけると、マリナはハッとした。

「ちがう。そんなつもりじゃないの」

 マリナが黙りこむ。

「ごめん。説明が足りなかったね」

 マリナが小さな声で言う。

「次のクラス始まるから、みんな早く片付けて帰ってねー」

 マキ先生が、残っている生徒に声をかけてきた。

「いけない、帰らなくちゃ」

 マリナが立ち上がる。

 リンネとマリナは一緒に、ダンススクールがある駅前のビルを出た。ビルを出たところで、なんとなく立ち止まる。

 午後5時を過ぎていたが、太陽はまだ高い位置にある。

「まだ明るいね」

 リンネがポツリと言ったが、マリナはなにも返してこない。

 二人とも黙ったまま、自動車が何台も目の前を通り過ぎていくのを見送った。

 排気ガスのにおいが充満していて、呼吸が苦しい。息がつまるのはそのせいだけじゃない。マリナにきついことを言ってしまったことを、リンネは気まずく思っていた。

 だが、マリナが理由を話さないのだから、謝ることだってできない。

「学校の友だちがね、あのジュエルを持っているの。本当に次々と願いが叶っちゃって……」

 マリナがうつむきがちに話し出した。

「その話、ナナから聞いた。ナナのいとこが桜田小なんだ。すごいよねー」

 マリナが顔をあげる。

「その続きの話、知らない子の方が多いんだよね」

 マリナがため息をついた。

「続きって?」

「その子、元々頭もいいし、運動神経抜群だし、ジュエルになんか願わなくたって勉強も運動もできる子なんだよ。それなのに……」

 マリナが涙ぐむ。

「ジュエルに願えばテストなんか簡単に100点取れるから、もう学校行く必要ないって、学校来なくなっちゃったんだよね」

「でも、学校って勉強以外にも楽しいこといろいろあるよ。友達と遊んだりとか、運動会とか音楽会とか」

「そういうの全部、なんていうかなぁ……やる気、みたいなものがなくなっちゃたんだよね、その子。それを知っている子たちは、願いを叶える代わりに、ジュエルに魂を吸い取られちゃったんじゃないかって噂しているの」

「その子、マリナちゃんと仲がいいの?」

 マリナはうなずいた。

「一番の親友なんだ」

「そっか、それで……」

 リンネはマリナの気持ちがわかってほっとした。意地悪で言ったのではない。ナナのことを思って言ってくれていたのだ。

「さっきは勘違いして、ひどいこと言ってごめんね」

「ううん。わたしが順序よく話さないから悪かったの」

 マリナがすまなそうな顔をする。

「ジュエルを手放すようにって、その子に言っているんだけど、全然聞いてくれなくて」

 マリナの顔が悲しそうにゆがむ。

(そうだ、いいこと思いついた)

 だが、そのことをマリナに伝えるかどうしようか、リンネは迷った。実際に話してみて、マリナはすごくいい子だとわかった。だからやっぱり、マリナに笑顔を取り戻してほしい。

 リンネは心を決めた。

 リュックを肩からおろし、ポケットのチャックを開けた。ポケットの中から、ムーンストーンを取り出す。

 手のひらに乗せたムーンストーンをマリナに見せた。

「実はわたしも取ったの、あのジュエル」

 マリナが息をのむ。

「これ、使っていいよ。その友だちが、ジュエルを手放して学校に行きたくなるように、マリナちゃんが願いをかければいい」

 リンネの思いに反して、マリナは首を横に振った。

「ジュエルの力で、友だちの気持ちを変えるのはいや。そんなの、本当のその子の気持ちじゃないもの」

「だけど、マリナちゃんの話、聞いてくれないんでしょ?」

「もう1回話してみるよ。ダメなら2回でも、3回でも、100回でも。ちゃんと自分の言葉で自分の気持ちを伝えたいの。大切な友だちだから」

「そっか、そうだよね」

 リンネはジュエルを持った手をおろした。

「リンネちゃんは、ジュエルに願い、かけてないよね?」

 マリナの問いに、リンネはドキッとした。

 マリナの真っ直ぐな視線に耐えられず、思わずうなずいてしまった。これ以上マリナの心配事を増やしたくなかった。

「あー、よかった」

 マリナが笑顔になる。

「これ以上ジュエルに願いをかけちゃダメだってこと、リンネちゃんもナナちゃんに話してみて。ジュエルの力に頼らずに、リンネちゃんの言葉でね」

「なんか、うちのお父さんみたいなこと言うなぁ……。魔法を使わずに、言葉でかぁ」

 思わずつぶやいてしまった。

「えっ、なに? 魔法って言った?」

「ううん、なんでもない」

 リンネの返事に、マリナが不思議そうな顔をする。

「ナナちゃんには、わたしが話しても聞いてもらえないと思うけど、リンネちゃんなら大丈夫だから。ナナちゃんの気持ちを変えること、リンネちゃんならきっとできるから」

 マリナが両手で、ぎゅっとリンネの手を握りしめてきた。
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