9 / 14
9 オーディション
しおりを挟む
水曜日のダンスレッスン。
一度全員で踊った後、3人一組で順に踊っていくことになった。これは、オーディションのようなもの。マキ先生はいつもこのやり方で、全員の立ち位置を決める。
リンネは一組目に名前を呼ばれた。
他の小学校の4年生と5年生の子と一緒に踊る。
「トップバッターなんて、緊張するよー」
リンネが胸を押さえると、
「大丈夫だよ。楽しんで」
とナナが背中を優しく叩いてくれた。
「うん。そうだよね。楽しまなくちゃ」
リンネは立ち上がった。
フロアの真ん中に立ち、最初のポーズを取った。
足を少し開き、斜め下に視線を落とす。
(特別上手じゃなくてもいい。ダンスが好き! ダンスは楽しい! ってことを伝えるんだ)
肩の力が抜けると、体が自由に動いた。
音楽が全身をかけめぐる。
自分の中にあるすべてのエネルギーを爆発させる。ステップもジャンプもターンも、自分らしく軽やかに。大音量の音楽にリンネは身をゆだねた。
「リンネちゃん、すごく良くなったわ。笑顔が自然に出てた」
踊り終わると、マキ先生が肩を叩いてくれた。
いつも表情が固いと注意されていたのに、今日はほめられた。
(おまじないのせいかな)
リンネは髪にピンでとめた、青い一輪の花を触った。
ハルトからもらったデルフィニウム。幸福をふりまくおまじない。要は気持ちの問題。気持ちを高めるために、リンネが勝手に作ったおまじないだった。
あれから一週間、毎日こまめに水をかえて大切にした。それでもほとんどが枯れてしまったが、少しだけ生き残った花を髪にさしてきたのだ。
最後にナナとマリナが呼ばれた。
最後の一組は人数が足りなく、二人で踊ることになった。
リンネはスタジオの後ろの方に座り、二人を見守った。
二人がすっと最初のポーズを決める。
(立っているだけでかっこいい!)
リンネは興奮して、胸の前で手を組んだ。
ナナとマリナが踊り始める。
ナナのダンスにはいっさいの無駄がない。
スッと切れ味のあるターン。リズムと一体になったステップ。重力なんてまるで関係ないかのような軽やかなジャンプ。すべての動きが正確だった。
それに対して、マリナのダンスは躍動感が半端なかった。基本の動きからははみ出しているかもしれないが、情熱の塊のようなダンスに目がひきつけられる。
勢いが過ぎたのか、ロジャーラビットというステップでマリナがバランスを崩した。
ロジャーラビットは、片方の足を後ろから回し、前にある足を前方に跳ね上げるステップ。マリナが得意とするステップだ。失敗するなんて珍しい。
だが、マリナは崩した態勢を利用して、アレンジを加えて踊った。失敗がみごとにカバーされている。
「かっこいい」
見ている生徒のあちこちから、感嘆のため息がもれた。
全員が踊り終わると、マキ先生が次々と名前を呼んだ。マキ先生の指定した位置に、呼ばれた生徒が立っていく。
「マリナちゃんはここ」
前列中央の位置を、マキ先生が指さした。
マリナはにこっと笑い、そこに立つ。
「リンネちゃんはこの隣に」
センターのマリナの左隣を指定されて、リンネは驚いた。
去年の発表会では2列目だったのに、重要なポジションを指定されて、胸がドキドキする。
「ナナちゃんはここに来て」
ナナが不満そうな顔で、マリナの右隣に立った。
すべての生徒の立ち位置が決まった。
レッスンが終わると、ナナはマキ先生の元へ行った。
「どうしてマリナちゃんが、センターなんですか?」
挑発的な態度は、いつものナナらしくない。
マキ先生は少し驚いた顔をしたが、すぐににこやかな顔に戻った。
「ナナちゃんのダンスはすごく正確で、無駄な動きがいっさいなかったわ」
「じゃぁ、どうして」
「それも素晴らしいけど、今回の曲には、マリナちゃんの躍動感のあるダンスが合っているの。少しステップが違っていたっていいの。なにかを伝えたいという情熱が、マリナちゃんのダンスにはあると思ったから、彼女をセンターにしたのよ」
マキ先生が、ポンポンとナナの頭を叩く。
「ナナちゃんは、ダンスでなにを伝えたいの? 表現する力を身につければ、将来、きっといいダンサーになるわ」
近くで見ていたリンネに、マキ先生が向き直った。
「今日のリンネちゃんからは、ダンスの楽しさがすごく伝わってきたわ。頑張ってね」
リンネの肩を叩くと、マキ先生は荷物をまとめてスタジオを出て行った。
一度全員で踊った後、3人一組で順に踊っていくことになった。これは、オーディションのようなもの。マキ先生はいつもこのやり方で、全員の立ち位置を決める。
リンネは一組目に名前を呼ばれた。
他の小学校の4年生と5年生の子と一緒に踊る。
「トップバッターなんて、緊張するよー」
リンネが胸を押さえると、
「大丈夫だよ。楽しんで」
とナナが背中を優しく叩いてくれた。
「うん。そうだよね。楽しまなくちゃ」
リンネは立ち上がった。
フロアの真ん中に立ち、最初のポーズを取った。
足を少し開き、斜め下に視線を落とす。
(特別上手じゃなくてもいい。ダンスが好き! ダンスは楽しい! ってことを伝えるんだ)
肩の力が抜けると、体が自由に動いた。
音楽が全身をかけめぐる。
自分の中にあるすべてのエネルギーを爆発させる。ステップもジャンプもターンも、自分らしく軽やかに。大音量の音楽にリンネは身をゆだねた。
「リンネちゃん、すごく良くなったわ。笑顔が自然に出てた」
踊り終わると、マキ先生が肩を叩いてくれた。
いつも表情が固いと注意されていたのに、今日はほめられた。
(おまじないのせいかな)
リンネは髪にピンでとめた、青い一輪の花を触った。
ハルトからもらったデルフィニウム。幸福をふりまくおまじない。要は気持ちの問題。気持ちを高めるために、リンネが勝手に作ったおまじないだった。
あれから一週間、毎日こまめに水をかえて大切にした。それでもほとんどが枯れてしまったが、少しだけ生き残った花を髪にさしてきたのだ。
最後にナナとマリナが呼ばれた。
最後の一組は人数が足りなく、二人で踊ることになった。
リンネはスタジオの後ろの方に座り、二人を見守った。
二人がすっと最初のポーズを決める。
(立っているだけでかっこいい!)
リンネは興奮して、胸の前で手を組んだ。
ナナとマリナが踊り始める。
ナナのダンスにはいっさいの無駄がない。
スッと切れ味のあるターン。リズムと一体になったステップ。重力なんてまるで関係ないかのような軽やかなジャンプ。すべての動きが正確だった。
それに対して、マリナのダンスは躍動感が半端なかった。基本の動きからははみ出しているかもしれないが、情熱の塊のようなダンスに目がひきつけられる。
勢いが過ぎたのか、ロジャーラビットというステップでマリナがバランスを崩した。
ロジャーラビットは、片方の足を後ろから回し、前にある足を前方に跳ね上げるステップ。マリナが得意とするステップだ。失敗するなんて珍しい。
だが、マリナは崩した態勢を利用して、アレンジを加えて踊った。失敗がみごとにカバーされている。
「かっこいい」
見ている生徒のあちこちから、感嘆のため息がもれた。
全員が踊り終わると、マキ先生が次々と名前を呼んだ。マキ先生の指定した位置に、呼ばれた生徒が立っていく。
「マリナちゃんはここ」
前列中央の位置を、マキ先生が指さした。
マリナはにこっと笑い、そこに立つ。
「リンネちゃんはこの隣に」
センターのマリナの左隣を指定されて、リンネは驚いた。
去年の発表会では2列目だったのに、重要なポジションを指定されて、胸がドキドキする。
「ナナちゃんはここに来て」
ナナが不満そうな顔で、マリナの右隣に立った。
すべての生徒の立ち位置が決まった。
レッスンが終わると、ナナはマキ先生の元へ行った。
「どうしてマリナちゃんが、センターなんですか?」
挑発的な態度は、いつものナナらしくない。
マキ先生は少し驚いた顔をしたが、すぐににこやかな顔に戻った。
「ナナちゃんのダンスはすごく正確で、無駄な動きがいっさいなかったわ」
「じゃぁ、どうして」
「それも素晴らしいけど、今回の曲には、マリナちゃんの躍動感のあるダンスが合っているの。少しステップが違っていたっていいの。なにかを伝えたいという情熱が、マリナちゃんのダンスにはあると思ったから、彼女をセンターにしたのよ」
マキ先生が、ポンポンとナナの頭を叩く。
「ナナちゃんは、ダンスでなにを伝えたいの? 表現する力を身につければ、将来、きっといいダンサーになるわ」
近くで見ていたリンネに、マキ先生が向き直った。
「今日のリンネちゃんからは、ダンスの楽しさがすごく伝わってきたわ。頑張ってね」
リンネの肩を叩くと、マキ先生は荷物をまとめてスタジオを出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
魔法使いアルル
かのん
児童書・童話
今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。
これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。
だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。
孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。
ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる