リンネは魔法を使わない

ことは

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14 あなたは幸福をふりまく

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 リンネは、ハッと息をのんだ。冷たい汗が背中を流れる。

 すぐ側の電柱に、軽自動車がつっこんでいた。

 フロントガラスが粉々に割れている。

 運転手は年老いた男性で、額に怪我をしていたが、自分で歩けるようだった。男性は、両脇を救急隊員に支えられるようにして、救急車に乗りこんでいる。

 リンネは周囲に目を走らせた。

 電柱から少し離れたところに、地面に座りこんでいるマリナを見つけた。

 リンネとナナは、マリナの元にかけ寄った。

「マリナちゃん! 大丈夫?」

「事故にあったの?」

 ナナが恐る恐る聞く。

「大丈夫。すぐ目の前を車が通ったから、ちょっとびっくりして、腰を抜かしちゃっただけ」

 マリナが立ち上がろうとする。

 ナナが手を差し伸べた。

「ありがとう」

 マリナがナナの手を取る。

「あの子が、助けてくれたの」

 リンネは、マリナが指さす方を見た。

「ハルト!」

 リンネは驚いて叫んだ。

 歩道に、ハルトの自転車が倒れている。ハルトは、道路に散らばった花を集めていた。

「あれ、リンネ?」

 ハルトが振り向いた。

 手に花を抱えて、こっちにやってくる。

「リンネちゃん、知り合いなの? この子が突き飛ばしてくれなかったら、わたし、あの車にひかれるところだったんだよ」

 マリナが早口で説明する。

 ハルトは照れたように頭をかいた。

「ちょうど、配達を頼まれて、ここを通ったんだ」

 ハルトは、小ぶりのフラワーアレンジメントを抱えていた。白と青い色の花でまとめられていたようだが、かわいそうな姿になってしまっている。

 ハルトが拾い集めた花の中には、前にリンネにくれた青い花、デルフィニウムも入っていた。

「ごめんね、お花こんなことになっちゃって」

 マリナが申し訳なさそうに言う。

「いいって、いいって。けがしなくてよかったよ」

 ハルトが気さくに話す。

「謝らなければならないのはわたしだよ。わたしのせいなの、マリナちゃんがこんなことになったのも、お花がこんなことになったのも」

 ナナが、目に涙をためている。

「ナナちゃんのせいなわけないじゃない」

 マリナが目を丸くする。

「だって、わたしがジュ……」

 リンネはナナの言葉をさえぎった。

「ジュエルには、そんなことできないよ」

 ナナがジュエルになにを願ったかなんて、この場で言ってほしくなかった。ナナを悪者にさせたくなかった。

 そんなこと、ナナが心から本気で願うわけがない。それを知っているのはリンネだけだから。ナナのことをよく知らない二人の前で、そんなことを言う必要なんかない。

「わたし、こんなのもういらない」

 ナナが、ポケットからジュエルを出す。

「わたし、ダンサーになって、ダンスの楽しさやかっこよさを伝えたいの。ジュエルがなくたって、この夢、叶えてみせる」

 ナナはジュエルを放り投げた。

 青いジュエルがアスファルトの上を転がっていく。金属でできた側溝の蓋に当たり、そのまま水路に落ちていく。

「マリナちゃん。ロジャーラビットのステップ、かっこいい見せ方、教えてくれる?」

 ナナがマリナに近づいた。ナナは、少し照れくさそうな顔をしている。

「うん、いいよ。その代わり、トリプルターン教えてね」

 マリナが笑顔でナナの肩を叩いた。

「ハルト、お願い。その青い花をもらえる?」

 リンネはハルトの持っている花を指さした。

「これ? どうせもう売り物にならないからいいよ」

 ハルトが、デルフィニウムをリンネに差し出す。

 リンネはデルフィニウムの花を一輪ずつ、マリナとナナの髪にさした。それから自分の髪にも。

「なにこれ? かわいい!」

 マリナとナナが顔を見合わせる。

「ダンスが上手になるおまじないだよ」

「「本当?」」

 マリナとナナが口をそろえる。

「なんか、二人とも息ぴったりだね」

 リンネは声を立てて笑った。

「ねぇ、このおまじないって本当に効くの?」

 マリナが髪にさしたデルフィニウムを指さす。

「うん。本当だよ。わたしが作ったおまじないだからね」

「リンネが作ったの? なんだかあやしー」

 ナナがリンネの腕をつついてくる。

「本当だってば。なんていったってわたし、魔法が使え……」

「やばい! レッスン始まってるし」

「本当だ、行こう」

 ナナとマリナが叫ぶ。

「ちょっと、わたしの話、聞いてる?」

 ナナとマリナが大慌てでスクールの入っているビルに向かって走っていく。

「ねぇねぇ、二人ともデルフィニウムの花言葉って知ってるー?」

 二人の後を追いかけながら、リンネは大声で聞いた。

「「しらなーい」」

 ナナとマリナの声がはもる。




 ハルトが教えてくれた、デルフィニウムの花言葉。

ーあなたは幸福をふりまくー




 リンネは途中で足を止め、勢いよく振り返った。

「ハルト。ありがとう!」

 叫びながら、大きく手を振った。

「ダンス、頑張れよ」

 ハルトが倒れた自転車を起こしながら笑った。

「リンネちゃん、早くっ」

 ビルの入り口で、マリナとナナが手招きしている。

「うん! 今行くー」

 リンネは走りながら思った。

 ダンスが好き!

 みんなが好き!

 みんなに幸福をふりまきたい! まき散らしたい!

 心から叫びたい。いや、叫んでしまおう。

 わたし今、すっごく

「幸せー!」
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