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3 友だちはライバル
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「隼人先輩だー。かっこいい」
結衣が、うっとりとした表情をしている。
ガールズヒップホップのクラスが終わると、隣のクラスでは、ブレイクダンスのレッスンが始まっていた。
『スタジオ・BEAT』は、ビルの3階。ワンフロアを三つのスタジオに分けている。どのクラスもガラス張りだから、廊下からレッスンの様子を見ることができる。
結衣が見つめているのは、中学1年生のブレイクダンスを踊る神崎隼人だ。
踊っている時の隼人の射るような視線に、はるかも見ているだけで胸がドキドキする。
「やっぱり今度のコンテストの優勝も、チーム『DRAGON』かなぁ」
結衣が、甘いため息をつく。
『DRAGON』は、隼人が中心になっている、中学生四人組のブレイクダンスのチームだ。小学生の頃から色々なコンテストで入賞していて、女の子のファンも多い。
「いやいや、うちらが取るでしょ」
そう言いながらも美加の視線は、隼人のダンスに完全に奪われてしまっている。
「ねぇ。絶対に三人とも選抜メンバーに入って、一緒のチームで踊ろうね」
結衣が、胸の前でこぶしを握った。
「選抜メンバーは、五人かぁ」
美加がつぶやく。
「厳しいなぁ」
ため息をついたはるかの背中を、結衣が叩く。
「何言ってんの。はるかは決まりでしょ。ダントツ、ダンスうまいもん」
「そりゃ、ダンサー志望だもん。心配しているのは、美加と結衣のことだよぉ。なーんてね」
「はるかに心配されたくなーい」
美加が大根役者のような棒読みで言うと、結衣がケラケラと笑った。
「そうだよね。歌手志望の美加だって、アイドル志望のわたしだって、それなりに自信あるもんねっ」
「わたし選抜チームでなくてもいいから、いつもみたいに三人でチーム組んで、コンテスト出るのもいいけどな」
はるかが言うと、
「ねぇ、それ、本気で言ってるの?」
と、結衣が眉間にしわを寄せた。
はるかはうなずいた。
「だって楽しいもん。美加と結衣と、一緒に踊るの」
あーあ、と結衣がため息をつく。
「はるかは、ステージで踊れればそれでいいかもよ。でも、わたし、アイドルになりたいの。ダンスはそのためにやっているの。このコンテストで優勝すれば、CMに出られるんだよ。地方のCMだけど、でもこれって、チャンスじゃない?」
「三人チームで優勝すればいいじゃん」
「はるか、すごい自信だね」
美加が、はるかの肩をポンポンと叩く。
「三人で優勝できたら、それは理想だよ。でも、自分たちだけで練習しても、優勝できるとは思えない。選抜メンバーに入って、マイ先生の振り付けと指導で出場すれば、優勝できる確率、ぜったい上がるよ」
美加の言葉に、結衣もうなずいている。
「優勝すれば『スタジオ・BEAT』の宣伝にもなるから、マイ先生すごい気合入っているみたいだし」
「確かに、三人で選抜チームに入れたら、最高だと思うけど……」
はるかは、三人一緒に受からなかった時のことを考えると不安だった。美加と結衣と別々のチームで踊るなんて、絶対に嫌だった。
「はるか、いい?」
結衣が、はるかの顔の前で人差し指を立てた。
「明日は、わたしたち三人、ライバルだよ。早く帰って、練習しよ」
「そんなぁ。友達なのに、ライバルだなんて……」
はるかは、ほおをふくらませた。
「誰が受かっても落ちても、うらみっこなしってことで。わたしは自分の出せる力、全部出し切る」
美加が、歩き出した。
それに、結衣が続く。
「ちょっと待ってよ」
小走りになったはるかの方を、クルッと美加が振り返った。
「ダンサーに、なりたいんでしょ?」
はるかは、立ち止まってうなずいた。
「絶対に、三人で受かろうね! 約束だよ」
美加が、パッと明るく笑って小指を立てた。
「うん、約束」
美加の小指に、はるかは自分の小指をからめた。
「わたしもっ」
と、結衣も自分の小指をからめてくる。
「行け行け! ゴー! ゴー! やっちゃえ、やっちゃえ、はるかっ!」
結衣がパンチを繰り出しながら、チアリーダーみたいに踊る。
「マイ先生も言ってたじゃん。もっと楽しんでって」
はるかがうなずこうとした時、
「あっ」
と、美加が小さく叫んだ。
美加は、はるかのずっと後ろの方を見ている。
ドォォォン!
雷が落ちたような音がした。
反射的にはるかは、後ろを振り返った。
ブレイクダンスのクラス。腕を押さえて床にうずくまっているのは、隼人だ。
「大丈夫か?」
と、先生がかけよっていく。
「隼人、センパイ?」
はるかがつぶやくと、美加が真っ青な顔をして言った。
「落ちたの。バク宙から体勢くずして」
ゆがんだ隼人の顔に、胸の奥がキリキリとする。
ブレイクダンスの先生が、スタジオのドアを開けて、
「救急車!」
と叫んでいる。
受付の女の人が、走ってくる。
「レッスンが終わった子は、早く帰って」
怒鳴られて、三人はそろそろとエレベーターに向かう。
「大丈夫かな、隼人先輩……」
結衣が、隼人の方を振り返る。
「ここにいても、わたしたち邪魔になるだけだよ」
美加の言葉に、結衣はうなずいて歩き始める。
スタジオの入っているビルから出ると、外はもう薄暗くなっていた。
救急車のサイレンが、遠くから聞こえてくる。
(隼人先輩……)
はるかは、隼人と話したことは一度もない。
きっと隼人は、はるかのことを知らないだろう。
だがはるかは、隼人のブレイクダンスを何度も見ている。
キラキラ輝く汗と、真剣なまなざし。息をのむようなブレイクダンスの大技に、はるかはいつもときめいていた。
性格悪いとか色々言う人もいるけど、そんなの関係ない。
はるかは、隼人のダンスが好きだ。
隼人の苦しそうな顔が、はるかの頭から離れなかった。
結衣が、うっとりとした表情をしている。
ガールズヒップホップのクラスが終わると、隣のクラスでは、ブレイクダンスのレッスンが始まっていた。
『スタジオ・BEAT』は、ビルの3階。ワンフロアを三つのスタジオに分けている。どのクラスもガラス張りだから、廊下からレッスンの様子を見ることができる。
結衣が見つめているのは、中学1年生のブレイクダンスを踊る神崎隼人だ。
踊っている時の隼人の射るような視線に、はるかも見ているだけで胸がドキドキする。
「やっぱり今度のコンテストの優勝も、チーム『DRAGON』かなぁ」
結衣が、甘いため息をつく。
『DRAGON』は、隼人が中心になっている、中学生四人組のブレイクダンスのチームだ。小学生の頃から色々なコンテストで入賞していて、女の子のファンも多い。
「いやいや、うちらが取るでしょ」
そう言いながらも美加の視線は、隼人のダンスに完全に奪われてしまっている。
「ねぇ。絶対に三人とも選抜メンバーに入って、一緒のチームで踊ろうね」
結衣が、胸の前でこぶしを握った。
「選抜メンバーは、五人かぁ」
美加がつぶやく。
「厳しいなぁ」
ため息をついたはるかの背中を、結衣が叩く。
「何言ってんの。はるかは決まりでしょ。ダントツ、ダンスうまいもん」
「そりゃ、ダンサー志望だもん。心配しているのは、美加と結衣のことだよぉ。なーんてね」
「はるかに心配されたくなーい」
美加が大根役者のような棒読みで言うと、結衣がケラケラと笑った。
「そうだよね。歌手志望の美加だって、アイドル志望のわたしだって、それなりに自信あるもんねっ」
「わたし選抜チームでなくてもいいから、いつもみたいに三人でチーム組んで、コンテスト出るのもいいけどな」
はるかが言うと、
「ねぇ、それ、本気で言ってるの?」
と、結衣が眉間にしわを寄せた。
はるかはうなずいた。
「だって楽しいもん。美加と結衣と、一緒に踊るの」
あーあ、と結衣がため息をつく。
「はるかは、ステージで踊れればそれでいいかもよ。でも、わたし、アイドルになりたいの。ダンスはそのためにやっているの。このコンテストで優勝すれば、CMに出られるんだよ。地方のCMだけど、でもこれって、チャンスじゃない?」
「三人チームで優勝すればいいじゃん」
「はるか、すごい自信だね」
美加が、はるかの肩をポンポンと叩く。
「三人で優勝できたら、それは理想だよ。でも、自分たちだけで練習しても、優勝できるとは思えない。選抜メンバーに入って、マイ先生の振り付けと指導で出場すれば、優勝できる確率、ぜったい上がるよ」
美加の言葉に、結衣もうなずいている。
「優勝すれば『スタジオ・BEAT』の宣伝にもなるから、マイ先生すごい気合入っているみたいだし」
「確かに、三人で選抜チームに入れたら、最高だと思うけど……」
はるかは、三人一緒に受からなかった時のことを考えると不安だった。美加と結衣と別々のチームで踊るなんて、絶対に嫌だった。
「はるか、いい?」
結衣が、はるかの顔の前で人差し指を立てた。
「明日は、わたしたち三人、ライバルだよ。早く帰って、練習しよ」
「そんなぁ。友達なのに、ライバルだなんて……」
はるかは、ほおをふくらませた。
「誰が受かっても落ちても、うらみっこなしってことで。わたしは自分の出せる力、全部出し切る」
美加が、歩き出した。
それに、結衣が続く。
「ちょっと待ってよ」
小走りになったはるかの方を、クルッと美加が振り返った。
「ダンサーに、なりたいんでしょ?」
はるかは、立ち止まってうなずいた。
「絶対に、三人で受かろうね! 約束だよ」
美加が、パッと明るく笑って小指を立てた。
「うん、約束」
美加の小指に、はるかは自分の小指をからめた。
「わたしもっ」
と、結衣も自分の小指をからめてくる。
「行け行け! ゴー! ゴー! やっちゃえ、やっちゃえ、はるかっ!」
結衣がパンチを繰り出しながら、チアリーダーみたいに踊る。
「マイ先生も言ってたじゃん。もっと楽しんでって」
はるかがうなずこうとした時、
「あっ」
と、美加が小さく叫んだ。
美加は、はるかのずっと後ろの方を見ている。
ドォォォン!
雷が落ちたような音がした。
反射的にはるかは、後ろを振り返った。
ブレイクダンスのクラス。腕を押さえて床にうずくまっているのは、隼人だ。
「大丈夫か?」
と、先生がかけよっていく。
「隼人、センパイ?」
はるかがつぶやくと、美加が真っ青な顔をして言った。
「落ちたの。バク宙から体勢くずして」
ゆがんだ隼人の顔に、胸の奥がキリキリとする。
ブレイクダンスの先生が、スタジオのドアを開けて、
「救急車!」
と叫んでいる。
受付の女の人が、走ってくる。
「レッスンが終わった子は、早く帰って」
怒鳴られて、三人はそろそろとエレベーターに向かう。
「大丈夫かな、隼人先輩……」
結衣が、隼人の方を振り返る。
「ここにいても、わたしたち邪魔になるだけだよ」
美加の言葉に、結衣はうなずいて歩き始める。
スタジオの入っているビルから出ると、外はもう薄暗くなっていた。
救急車のサイレンが、遠くから聞こえてくる。
(隼人先輩……)
はるかは、隼人と話したことは一度もない。
きっと隼人は、はるかのことを知らないだろう。
だがはるかは、隼人のブレイクダンスを何度も見ている。
キラキラ輝く汗と、真剣なまなざし。息をのむようなブレイクダンスの大技に、はるかはいつもときめいていた。
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隼人の苦しそうな顔が、はるかの頭から離れなかった。
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