踊るねこ

ことは

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7 絶対センター

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 翌週金曜日の朝。

 はるかはドレッサーの前に立ち、ていねいに髪をとかした。アレンジしないと、はるかの髪は肩までのストレートだ。

 青いセーラー服。胸元の大きなピンクのリボン。

 若葉小学校の制服を着るのも、一週間ぶりだ。制服を着ると、アイロンをかけたみたいにしわが伸びて、パリッと心が整う感じがする。

 いつまでも、ベッドで寝ているわけにはいかない。

 体を動かせば、心も動き出す。

 これは、ダンスが教えてくれたこと。

 はるかは軽くジャンプをしながら、足を前にけりだした。鏡を見ながら、アップのリズムで、軽やかにキックステップを踏む。

 どんな時だって、ダンスははるかの心を支えてくれる。

「完全復活だ!」

 腰に手をあて、ポーズを決める。

「あまり無理しないでね。治ったばかりなんだから」
と、モモが心配そうに言った。

「平気、平気! お医者さんも、もう大丈夫って言ってたし」

 はるかはスカートをひるがえしながら、クルッと一回転してみせた。

「モモ、わたしが学校行ってる間は、家でお留守番だよ。絶対にメンドーなこと、起こさないようにね」

「はいはい、わかったにゃんにゃんにゃん!」

「にゃんは1回!」

「にゃん!」

「二本足で立たない! 敬礼しない!」

   ◇

 6年2組の教室に入るとすぐに、隣のクラスから美加と結衣がやって来た。美加と結衣は、二人とも3組だ。

「はるか、おはよー」

「もう大丈夫なの?」

「うん。完全復活した。今日、ダンスレッスンも行くよ」

 はるかから、ダンスの話題をもちかけた。

 いつまでも、ウジウジしていると思われたくない。

「ホント? うれしい!」

 結衣が、はるかに抱きついてきた。

「インフルエンザって聞いた時は、びっくりしちゃった!」

 美加が、目を丸くする。

「オーディションの時、体調悪かったのに、よくあんなキレキレのダンスできたよね」

(あ、やっぱりキレキレだったんだ。モモ、やるなぁ)

「まぁ、後半だけね……」

 はるかは苦笑いした。

「熱があったなら、しょうがないよ。それで前半、ボーっとしちゃったんでしょ? もったいなかったなぁ」

 結衣が、くやしそうな顔をする。

 少し胸が痛いけど、でも大丈夫。結衣は、はるかを傷つけるために、言っているわけじゃない。わかってる。

「選抜じゃなくても、コンテストには、出るでしょ? 誰かとチーム組んで」

 本当に、傷つけるつもりは、ないのだろうか。結衣の聞き方が、何かを探るかのように聞こえてしまったのは、はるかの思い過ごしだろうか。

「結衣」
と、小声で結衣を責めるように美加が言ったのも、はるかの耳にしっかりと届いてしまった。

 モヤモヤしている胸の中を、思い切りかきむしりたい。

「今のところ、出るつもりないよ。美加と結衣が選抜に入っちゃったから、一緒にチーム組む人、いないし……」

(こんなこと、わたしに言わせるの?)

 辛かった。

「結衣ちゃーん。日直でしょー?」

 廊下から、結衣と同じクラスの女子が、呼んでいる。

「ごめん、ごめん。すぐ行くー」

 結衣は、廊下に向かって叫んだ。

「美加、わたし日直の仕事があるから先行くね。はるかは、レッスンで会おうね!」

 結衣が、走り去っていく。

 何か言いたそうにしている美加と、目が合う。

「どうかした?」

「結衣、なんか、いつもと違うって気がしない?」

 美加が声をひそめる。

「そーお? 別にいつもと同じだと思うけど」

「こんなこと、言いたくないんだけど……」

 美加が、口ごもるのはめずらしかった。

「結衣、絶対センター取るって言って、ムキになっちゃってるっていうか……」

 美加がうつむく。

「なんか、元気ないじゃん。美加らしくないよ。美加も、センター狙えばいいじゃん」

「うん。そうだよね。わたしらしく、ないよね」

 美加が笑った。

「でもね、この一週間、本当に時々なんだけど、いつもの結衣と違う気がする時があるの。何かにとりつかれたみたいっていうか」

 薄暗い部屋の中。突然、もう一人の自分が待ちかまえていた時の恐怖を、はるかは思い出した。

(結衣にももう一人の結衣が……。まさか、ね……)

 はるかは首を横に振った。

「気にしすぎだよ、美加」

「うん。変なこと言って、ごめんね。じゃ、レッスンでね!」

 美加が、手の平をはるかに向ける。

「じゃ、レッスンで」

 美加の手に、はるかは自分の手を合わせた。

 パチンと音がはじけて、気分も晴れた。
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