踊るねこ

ことは

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17 予選

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「ダンスコンテストの事務局から、エントリーシート送られてきたよ」

 公園に来るとすぐに、隼人は手に持ったハガキをヒラヒラさせた。

 先に来ていたはるかとモモは踊るのをやめ、隼人の元へかけよった。

 はるかは、ハガキを見て驚いた。

「応募総数、ひゃ、ひゃくにチーム?」

 はるかが声を上げると、
「コンテストって、102チームも踊るの?」
と、モモが隼人に聞いた。

「本選に出られるのは、10チームだけだよ」

「そうなんですか?」

 驚くはるかに、
「知らなかったの?」
と、隼人があきれたような顔をした。

「来週の土曜が、ダンスコンテストの予選。そこで勝ち残った10チームが、再来週の本選に出られるんだ。『BEAT』で、説明聞かなかった?」

 はるかはうつむいた。

「選抜チームには説明したのかもだけど、わたしはコンテスト出ないことになってるし、詳しいこと聞いてません」

「そっか。おまえらがコンテスト出るのって、秘密だったもんな。謎の美少女チーム『PINK☆CATS』が優勝なんて、ますます面白そうだ」

「美少女だなんて、そんなぁ」

 モモが、キャッキャと嬉しそうに笑う。

「102チームのトップに立つなんて、無理に決まってます。それに10チームだけじゃ、予選だって通るかどうか」

 はるかが口をとがらせると、
「おまえ、本気で言ってんの?」
と、隼人が鋭い声で言った。

「それは……」

 はるかは口ごもり、自分の胸に手をあてた。

 確かに、弱気な自分もいる。

 だが、トップに立てる自信の方が、それよりもずっと強かった。

「おまえら、オレが絶対優勝させるからな」

 隼人が、はるかをにらみつけるように言った。

「はいっ」

 言い訳はいらない。

 言葉ではなく、最高のダンスで想いを伝えたい。

「曲、かけて。モモ」

 はるかとモモは、最初の位置についた。

 振りは全部、覚えている。モモとの息もぴったり。ステップも完璧だ。

 あとは、どれだけ表現できるか。

 かっこよさを、想いを、情熱を、見る人に伝えられるかだ。

  ◇

 結衣の様子がおかしいのは、学校にいる時だけではなくなっていた。ダンスレッスンの時でさえも、はるかと美加と、ほとんど話をしようとしなかった。

 アオのことも何もわからないまま、ダンスコンテストの予選の日はやってきた。

 こねこの姿のモモをバッグに隠し、予選会場まで、電車で30分。

「隼人先輩は、来ないの?」

 モモが、小声で話しかけてくる。

「予選は、見学できないんだって。隼人先輩はコンテスト出場しないから、会場に入れないんだよ」

「じゃぁ、わたしたちのダンス、隼人先輩に見せるためには、予選に通るしかないね」

 モモの言葉に、はるかはうなずいた。

 ステージで踊る自分たちの姿を、隼人に見せずに終わるなんて、そんなこと許されるはずがない。はるかは、ひざの上のこぶしをギュッと握りしめた。

 予選は時間で区切られていて、『PINK☆CATS』は午前10時集合だった。

 102チームもいると、すべてのチームに会うわけではない。会場で、『DRAGON』のメンバーは見かけたが、結衣と美加には会わずにすんだ。

 お母さんが作ってくれた衣装は、はるかが描いたイラストのイメージ通りだった。フリルのついたシャーベットグリーンの上半身に、ウエストから薄紫色に切り替えられたシフォン素材のミニワンピ。おとぎの国の妖精みたいだ。

 はるかは控え室で着替えて、ピンクのウィッグにねこ耳カチューシャ、ブルーの仮面メイクをした。仕上げにキラキラのラインストーンを、目の周りにつける。

 足元は家から履いてきた黒のスニーカーに、大きなピンクリボンをワンポイントにつける。リボンも、お母さんが作ってくれたものだ。

「できたよ」

 隠れていたモモにささやくと、モモは突然、バッグを飛び出した。

 はるかは慌ててモモを追いかける。

 モモは控え室を横切り、他のチームの女の子が開けたドアをすりぬけた。

「ごめんなさい」

 人にぶつかりながら、はるかもモモの後を追う。

 モモは、廊下の向こうのトイレへ走っていく。

「ちょっと、待って、モモ」

 はるかがトイレに駆けこんだ時には、モモの姿は消えていた。

「モモ、どこ?」

 トイレの個室のドアが開き、はるかの姿をしたモモが出てきた。にっこり笑ったモモは、ちゃんと衣装も身につけている。

「もう、モモったら! ここまでバッグに隠れてわたしが連れてきたら、トイレで変身する約束だったでしょ!」

「だって、はるかの衣装見たら、早く変身したくなっちゃって」
と、モモが肩をすくめた。

 予選会場はステージではなく、会議室のような部屋だった。

 一度に5チームが部屋の中に入り、呼ばれた順に踊っていく。

 チーム名を呼ばれて、曲が流れ、踊る。2ヶ月練習して、勝負は5分。

 出せる力は、全部出し切った。

  ◇

 予選を通過した10チームには、その日の夜9時までに、電話連絡が来ることになっていた。

 連絡がこなければ、落選ということだ。

 はるかは、夕ご飯を食べ終わると、部屋でスマートフォンを握りしめていた。

 午後8時半。電話はまだ鳴らない。

 合格した時には、すぐに連絡をするようにと、隼人はスマートフォンの番号を教えてくれた。隼人に、早く電話をしたかった。

 だが、合格の連絡がない限り、隼人に電話をかけることはできない。

「連絡、こないねぇ」

 こねこの姿をしたモモがつぶやく。

「合格しなかったら、明日から、隼人先輩のダンスレッスンなくなっちゃうね」

 モモの一言が、ずっしりと重くひびく。

 本選に出られれば、あと1週間、隼人からダンスを教えてもらえる。

 だが、予選に落ちたらここまでだ。

「そんなの、いやだ」

 はるかは、ベッドの枕に顔をうずめた。

 ダンスコンテストが終わってしまえば、隼人とはもう会えなくなるのだろうか。前みたいに、ブレイクダンスを踊る隼人を、スタジオのガラス越しに見つめることしかできなくなるのだろうか。

 はるかは、ベッドに寝転びながら、スマートフォンの画面を見た。

 午後8時52分。

 もう、あきらめるしかないかもしれない。はるかは、ため息をついた。

 待ち受け画面のデジタル時計が、53分に切りかわった瞬間、着信のメロディーが鳴った。

 液晶画面に出ているのは、はるかの知らない番号だ。

「はるかっ! 出て。早くしないと切れちゃうよ」

 画面を見つめたまま固まるはるかに、モモが叫ぶ。

 バクバクと高鳴る胸を押さえながら、はるかは電話に出た。

「何だって?」

 電話を切ったはるかに、モモがせかすように聞く。

「合格、だって。『PINK☆CATS』、本選出られるって!」

 やったーと、モモがはるかに飛びついてきた。

 すぐに隼人に電話した。『DORAGON』のメンバーからも、合格の連絡があったばかりだという。

「じゃ、また明日」

「また明日、よろしくお願いします」

 明日があるってスバラシイ!

 はるかは、はずんだ気分のまま、結衣と美加に『予選、どうだった?』とメッセージを送った。

 美加からすぐに、『受かったよ! コンテスト、はるかの分まで頑張るからね』と返事が来た。

 はるかは前にも、同じ内容のメールをもらったのを思い出した。選抜メンバーのオーディションに落ちた夜のことだ。はるかの分まで頑張ると言われ、素直に喜べなかったあの夜。

 だが、今は別の意味で、心が苦しかった。

 はるかがコンテストに出ることは、結衣にも美加にも言っていない。友達をだましているようで、胸が痛かった。

 結衣からは、メールの返事は来なかった。
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