踊るねこ

ことは

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18 どっちが本物!?

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 ダンスコンテスト本選の日。

 午前中に、リハーサルがあった。300人の観客が入る会場のステージ。リハーサル時間、1チーム10分。他のチームのダンスを見ることはできない。

 衣装を身につけ、真っ暗なステージに、はるかとモモは立つ。

 曲が流れるのと同時に、ステージを舞い踊る色とりどりの光。お腹の底から突き上げる重いビート。時にしなやかに、時に激しく、エネルギーを爆発させるように踊る。

 リハーサルが終わると、会場の廊下を歩きながら、
「照明、かっこよかったね。気分がめちゃめちゃもりあがったよ!」
と、モモが興奮した様子で言った。

 はるかとモモが控え室に入ろうとすると、中からドアが開いた。

 はるかは、ドキッとして立ち止まる。

 中から出てきたのは、『クローンガールズ』のメンバーだった。リハーサルに向かうらしく、次々とドアから出てくる。

 迷彩柄のダボパン。お腹をチラ見せしたショート丈の白いTシャツには、シルバーで『クローンガールズ』と、チーム名のロゴが入っていた。

 五人それぞれが、赤い小物を一つ身につけている。スニーカー、キャップ、バンダナ、リボン、ベルト。

 結衣は、ポニーテールに大きな赤いリボンを、美加はボリュームのあるウエーブヘアに、赤いバンダナを巻いていた。二人ともすごく似合っている。

 美加が、チラッとはるかの方を見た。はるかは思わず目をふせたが、美加はメンバーの子とおしゃべりしながら通り過ぎていく。

 結衣はだまって真っ直ぐ前を向いたまま、こっちを見ることもなかった。

「気がつかなかったみたいだね」

 モモが、はるかの耳元でささやく。

「こんなに近くで会ったら、絶対ばれると思った」

 はるかは、ホッとため息をもらした。

「今日の結衣ちゃん、どっちなんだろう?」

 廊下を歩いていく結衣の背中を見ながら、モモが首をかしげる。

「どっちって?」

「本物か、結衣ちゃんに変身したアオかってことだよ」

「そりゃ、本物の結衣に決まってるじゃん」

「どうしてわかる?」

「だってもし、青いうさぎがアオだったとするよ。そしたら、この日のために、学校サボってまで練習してきたんでしょ? 結衣が、コンテストに出ないわけないじゃん。もし、青いうさぎがアオでなければ、そもそも本物の結衣しかいないわけだし」

 そうかなぁ、とモモは首をひねる。

「アオが元の姿に戻れなくなっていないか、わたし心配なんだ。もしそうなっていたら、結衣ちゃん、ここに来られないほどエネルギーが弱まっているかもしれない」

「もし、今日の結衣が、クローンモンスターのアオだとしたら、見てわからないの? モモは、アオと友だちなんでしょ?」

 モモは、首を横に振った。

「本人が正体ばらさない限り、見た目だけじゃ、わたしにもわからないよ」

 突然、廊下が騒がしくなった。

 隣の男子の控え室から、ダンサー達が出てきたのだ。その中に、『DRAGON』のメンバーもいる。『DRAGON』のメンバーとは話をしたことがないから、はるかの正体はばれないだろう。

 はるかが控え室に入ろうとした時、後ろから肩をつかまれた。

 びっくりして振り返ると、そこに立っていたのは隼人だった。

「隼人センパイ!?」

「『DRAGON』のメンバーに頼んで、控え室に入れてもらったんだ。おまえらの出番、9番なんだってな」

 はるかは、はい、と答えた。

『PINK☆CATS』が9番目で、『クローンガールズ』がラストの10番目。

「隼人。ちょっと練習見て」

『DRAGON』の一人が、隼人を呼んでいる。

「あぁ、すぐ行く」

 隼人は振り向いて返事をしてから、はるかに向き直った。

「頑張れよ。おまえらなら、絶対いけるから」

 はるかは、隼人の目をまっすぐ見て、力強くうなずいた。

   ◇

 午後1時からの、コンテスト本番が始まろうとしていた。

 コンテスト前半に、5チームが続けて踊る。休憩と、プロダンサーのショーをはさんで、後半の5チームだ。

「前半戦、客席から見る?」

 はるかが聞くと、モモが「見る、見る」とうなずいた。

 二人が、客席に向かって廊下を歩いていた時だ。

 反対側から、結衣がやってきた。トイレに入ろうとしている。

「わたし、賭けてみる」

 ひきとめるはるかを無視して、モモは小走りに結衣に近づいていく。

「アオ!」

 モモの呼びかけに、結衣が反応した。

 立ち止まって、モモの方をいぶかしげに見ている。

「だれ?」

 結衣が、目を細める。

「アオ、アオなんだね? わたし、モモだよ」

 モモが嬉しそうに話しかけたが、結衣の表情は変わらない。

「あなたがモモってことは……そっちは、はるかなの?」

 追いついたはるかを、結衣が見つめる。

「はるかだよ。あなたは結衣じゃなくて、アオなの?」

 結衣が少し迷いながらも、わずかにうなずいた。

 結衣……ではなく、アオは、
「コンテスト、出るの?」
と、聞いてきた。

 はるかがうなずくと、アオは何か言いたげな表情をしたが、そのまま視線をはずした。

「アオ、結衣ちゃんと友だちになったの?」

 モモが聞くと、アオは暗い顔をした。

「クローンモンスターと人間が友だちになるなんて、やっぱり無理だよ」

「そんなことない。わたしは、はるかと友だちだよ」

 そう言い切るモモを、アオはにらんだ。

「モモは、はるかに利用されてるだけじゃん。わたし、知ってるよ。モモがはるかと出会う所からずっと。選抜メンバー決めるオーディション受けてたの、モモでしょ?」

「知ってたんだ……」

 はるかは、血の気がひいていくのを感じた。

「はるかが、あんなヘマするわけないもん……て、結衣ちゃんが言ってた。すぐにモモが身代わりになってるって思った。確信はなかったけど、でも、やっぱりそうだったんだね」

「違うよ、違う」

 モモが首を横に振った。

「何が違うの?」

 アオが問いつめる。

「友だちが困っていたら、助けたいって思うのが普通でしょ? 利用するとかされるとか、そんなんじゃないよ」

「どうなの? はるか」

 その問いに、はるかは答えることができない。

 もしかしたらあの時は、利用するとかそういう気持ちがあったのかもしれない。

 でも、今は違う。絶対に違う。

 フンッと、アオがばかにしたように鼻をならす。

「今日だってモモ、はるかのために、チーム組んでコンテスト出るんでしょ?」

「それは違うよ。わたしが、踊りたかったの。だから、はるかとチームを組んでコンテストに出るの。そうだよね、はるか?」

 モモが、はるかを見る。

「アオは、結衣がアオのことを利用している、ってそう思っているの?」

「そうじゃない!」

 アオが、両手で頭を抱えた。

「そうじゃないの。結衣ちゃんは、はるかと美加と三人で、選抜チームに入るつもりだった。それなのに、はるかが落ちて……。ショックだった」

 アオは、まるで自分のことのように、結衣のことを話した。

「はるかの分まで頑張るって言ったけど、はるかがいなくちゃ優勝できない。どうしたらいいかわからなくなって、それでアオ……わたしに無理を」

 アオは目に、涙をうかべている。

「でも、はるかは、結衣ちゃんのこと友だちだって思ってなかったんだ」

 アオが、そう言ってはるかをにらみつけてきた。

「何でそんなこと言うの?」

 はるかは、思わずきつい口調になった。

「だって、コンテストに出ること、隠してた」

「そのことは、悪かったと思ってる。でも、結衣はわたしの大切な友だちだよ」

 はるかはうつむいた。

 だが、はっとして、アオの腕をつかんだ。

「ねぇ、それより、本物の結衣はどこにいるの? コンテスト、もちろん結衣が出るんだよね?」

「本物の結衣ちゃんは、家にいる。コンテストには、わたしが出る」

「そんな……。結衣、あんなに練習してたのに」

「ねぇ、はるか?」

 アオが、意地悪く笑う。

「はるかが結衣ちゃんのこと、友だちだって言うなら、今から家まで呼びに行けば?」

「言われなくても、そのつもりよ!」

 はるかは、走り出した。

「わたしも行く」

 モモが、はるかの後を追う。

「待って! 違うの! 本当は!」

 後ろから、アオの叫び声が追いかけてきた。

 振り向くと、アオが必死でこっちに走ってくるのが見えた。他のチームのダンサーたちとぶつかり、アオが転んだ。

 だが、今のはるかには、アオにかまっている時間はない。

 人ごみを、すり抜ける。

 ビルのロビーで、隼人に会う。

「おまえら、どこ行くんだ! 本番始まるぞ!」

 隼人の怒鳴り声も振り切り、はるかとモモは走った。
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