踊るねこ

ことは

文字の大きさ
18 / 19

18 どっちが本物!?

しおりを挟む
 ダンスコンテスト本選の日。

 午前中に、リハーサルがあった。300人の観客が入る会場のステージ。リハーサル時間、1チーム10分。他のチームのダンスを見ることはできない。

 衣装を身につけ、真っ暗なステージに、はるかとモモは立つ。

 曲が流れるのと同時に、ステージを舞い踊る色とりどりの光。お腹の底から突き上げる重いビート。時にしなやかに、時に激しく、エネルギーを爆発させるように踊る。

 リハーサルが終わると、会場の廊下を歩きながら、
「照明、かっこよかったね。気分がめちゃめちゃもりあがったよ!」
と、モモが興奮した様子で言った。

 はるかとモモが控え室に入ろうとすると、中からドアが開いた。

 はるかは、ドキッとして立ち止まる。

 中から出てきたのは、『クローンガールズ』のメンバーだった。リハーサルに向かうらしく、次々とドアから出てくる。

 迷彩柄のダボパン。お腹をチラ見せしたショート丈の白いTシャツには、シルバーで『クローンガールズ』と、チーム名のロゴが入っていた。

 五人それぞれが、赤い小物を一つ身につけている。スニーカー、キャップ、バンダナ、リボン、ベルト。

 結衣は、ポニーテールに大きな赤いリボンを、美加はボリュームのあるウエーブヘアに、赤いバンダナを巻いていた。二人ともすごく似合っている。

 美加が、チラッとはるかの方を見た。はるかは思わず目をふせたが、美加はメンバーの子とおしゃべりしながら通り過ぎていく。

 結衣はだまって真っ直ぐ前を向いたまま、こっちを見ることもなかった。

「気がつかなかったみたいだね」

 モモが、はるかの耳元でささやく。

「こんなに近くで会ったら、絶対ばれると思った」

 はるかは、ホッとため息をもらした。

「今日の結衣ちゃん、どっちなんだろう?」

 廊下を歩いていく結衣の背中を見ながら、モモが首をかしげる。

「どっちって?」

「本物か、結衣ちゃんに変身したアオかってことだよ」

「そりゃ、本物の結衣に決まってるじゃん」

「どうしてわかる?」

「だってもし、青いうさぎがアオだったとするよ。そしたら、この日のために、学校サボってまで練習してきたんでしょ? 結衣が、コンテストに出ないわけないじゃん。もし、青いうさぎがアオでなければ、そもそも本物の結衣しかいないわけだし」

 そうかなぁ、とモモは首をひねる。

「アオが元の姿に戻れなくなっていないか、わたし心配なんだ。もしそうなっていたら、結衣ちゃん、ここに来られないほどエネルギーが弱まっているかもしれない」

「もし、今日の結衣が、クローンモンスターのアオだとしたら、見てわからないの? モモは、アオと友だちなんでしょ?」

 モモは、首を横に振った。

「本人が正体ばらさない限り、見た目だけじゃ、わたしにもわからないよ」

 突然、廊下が騒がしくなった。

 隣の男子の控え室から、ダンサー達が出てきたのだ。その中に、『DRAGON』のメンバーもいる。『DRAGON』のメンバーとは話をしたことがないから、はるかの正体はばれないだろう。

 はるかが控え室に入ろうとした時、後ろから肩をつかまれた。

 びっくりして振り返ると、そこに立っていたのは隼人だった。

「隼人センパイ!?」

「『DRAGON』のメンバーに頼んで、控え室に入れてもらったんだ。おまえらの出番、9番なんだってな」

 はるかは、はい、と答えた。

『PINK☆CATS』が9番目で、『クローンガールズ』がラストの10番目。

「隼人。ちょっと練習見て」

『DRAGON』の一人が、隼人を呼んでいる。

「あぁ、すぐ行く」

 隼人は振り向いて返事をしてから、はるかに向き直った。

「頑張れよ。おまえらなら、絶対いけるから」

 はるかは、隼人の目をまっすぐ見て、力強くうなずいた。

   ◇

 午後1時からの、コンテスト本番が始まろうとしていた。

 コンテスト前半に、5チームが続けて踊る。休憩と、プロダンサーのショーをはさんで、後半の5チームだ。

「前半戦、客席から見る?」

 はるかが聞くと、モモが「見る、見る」とうなずいた。

 二人が、客席に向かって廊下を歩いていた時だ。

 反対側から、結衣がやってきた。トイレに入ろうとしている。

「わたし、賭けてみる」

 ひきとめるはるかを無視して、モモは小走りに結衣に近づいていく。

「アオ!」

 モモの呼びかけに、結衣が反応した。

 立ち止まって、モモの方をいぶかしげに見ている。

「だれ?」

 結衣が、目を細める。

「アオ、アオなんだね? わたし、モモだよ」

 モモが嬉しそうに話しかけたが、結衣の表情は変わらない。

「あなたがモモってことは……そっちは、はるかなの?」

 追いついたはるかを、結衣が見つめる。

「はるかだよ。あなたは結衣じゃなくて、アオなの?」

 結衣が少し迷いながらも、わずかにうなずいた。

 結衣……ではなく、アオは、
「コンテスト、出るの?」
と、聞いてきた。

 はるかがうなずくと、アオは何か言いたげな表情をしたが、そのまま視線をはずした。

「アオ、結衣ちゃんと友だちになったの?」

 モモが聞くと、アオは暗い顔をした。

「クローンモンスターと人間が友だちになるなんて、やっぱり無理だよ」

「そんなことない。わたしは、はるかと友だちだよ」

 そう言い切るモモを、アオはにらんだ。

「モモは、はるかに利用されてるだけじゃん。わたし、知ってるよ。モモがはるかと出会う所からずっと。選抜メンバー決めるオーディション受けてたの、モモでしょ?」

「知ってたんだ……」

 はるかは、血の気がひいていくのを感じた。

「はるかが、あんなヘマするわけないもん……て、結衣ちゃんが言ってた。すぐにモモが身代わりになってるって思った。確信はなかったけど、でも、やっぱりそうだったんだね」

「違うよ、違う」

 モモが首を横に振った。

「何が違うの?」

 アオが問いつめる。

「友だちが困っていたら、助けたいって思うのが普通でしょ? 利用するとかされるとか、そんなんじゃないよ」

「どうなの? はるか」

 その問いに、はるかは答えることができない。

 もしかしたらあの時は、利用するとかそういう気持ちがあったのかもしれない。

 でも、今は違う。絶対に違う。

 フンッと、アオがばかにしたように鼻をならす。

「今日だってモモ、はるかのために、チーム組んでコンテスト出るんでしょ?」

「それは違うよ。わたしが、踊りたかったの。だから、はるかとチームを組んでコンテストに出るの。そうだよね、はるか?」

 モモが、はるかを見る。

「アオは、結衣がアオのことを利用している、ってそう思っているの?」

「そうじゃない!」

 アオが、両手で頭を抱えた。

「そうじゃないの。結衣ちゃんは、はるかと美加と三人で、選抜チームに入るつもりだった。それなのに、はるかが落ちて……。ショックだった」

 アオは、まるで自分のことのように、結衣のことを話した。

「はるかの分まで頑張るって言ったけど、はるかがいなくちゃ優勝できない。どうしたらいいかわからなくなって、それでアオ……わたしに無理を」

 アオは目に、涙をうかべている。

「でも、はるかは、結衣ちゃんのこと友だちだって思ってなかったんだ」

 アオが、そう言ってはるかをにらみつけてきた。

「何でそんなこと言うの?」

 はるかは、思わずきつい口調になった。

「だって、コンテストに出ること、隠してた」

「そのことは、悪かったと思ってる。でも、結衣はわたしの大切な友だちだよ」

 はるかはうつむいた。

 だが、はっとして、アオの腕をつかんだ。

「ねぇ、それより、本物の結衣はどこにいるの? コンテスト、もちろん結衣が出るんだよね?」

「本物の結衣ちゃんは、家にいる。コンテストには、わたしが出る」

「そんな……。結衣、あんなに練習してたのに」

「ねぇ、はるか?」

 アオが、意地悪く笑う。

「はるかが結衣ちゃんのこと、友だちだって言うなら、今から家まで呼びに行けば?」

「言われなくても、そのつもりよ!」

 はるかは、走り出した。

「わたしも行く」

 モモが、はるかの後を追う。

「待って! 違うの! 本当は!」

 後ろから、アオの叫び声が追いかけてきた。

 振り向くと、アオが必死でこっちに走ってくるのが見えた。他のチームのダンサーたちとぶつかり、アオが転んだ。

 だが、今のはるかには、アオにかまっている時間はない。

 人ごみを、すり抜ける。

 ビルのロビーで、隼人に会う。

「おまえら、どこ行くんだ! 本番始まるぞ!」

 隼人の怒鳴り声も振り切り、はるかとモモは走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot
児童書・童話
 薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。 「シチュー作れる?」  …………へ?  彼女の正体は、『森の魔女』。  誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。  そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。  どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。 「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」 「あ、さっきよりミルク多めで!」 「今日はダラダラするって決めてたから!」  はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。  子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。  でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。  師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。  表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。

処理中です...