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「今からおもちゃ屋さんに行こう」
家に帰って宿題を終わらせると、里奈はモモちゃんに言った。
「なにしに行くの?」
「福袋を買う人を待ち伏せするの」
「なんで?」
「おばけ育成ゲームのプレイヤーになる人を探すのよ。おばけが見える仲間を増やすの。わたし一人じゃ信じてもらえなくても、他にもおばけが見える人がいたら、アリサちゃんとマキちゃんにも信じてもらえるかもでしょ?」
モモちゃんが、じーっと里奈を見つめる。
「やっぱり、すごーく気にしてるんだね。嘘つきって言われたこと」
モモちゃんの視線が、里奈の胸につきささる。
「そんなことないよ、そんなことない。全然気にしてないし」
里奈はそっぽを向いた。
「アリサちゃんもマキちゃんも、意地悪だよねー。里奈ちゃん、もっと怒った方がいいよ」
「意地悪なんかじゃないよ。わたし、こんなことくらいで二人を傷つけるようなこと言いたくないし」
「傷つけるようなこと言うのと、自分の気持ちを伝えるのとは違うよ。もっとこう、怒り爆発! とかっていうのも、たまにはいいんじゃない?」
里奈がモモちゃんを見ると、舌なめずりをしていた。
「そんなこと言って、ただ食べたいだけなんでしょ?」
エヘヘ、とモモちゃんが笑った。
◇
おもちゃ屋の2階、雑貨コーナーの奥にある福袋は、あまり売れていないようだ。
「すっごくお得なのに、どうしてこんなに残ってるのかなぁ」
里奈は銀色のワゴンに積まれた福袋をながめた。
モモちゃんが、あっと小さく叫んだ。
「誰か来る」
早口で言うと、モモちゃんはさっとポケットに戻ってしまった。
「他の人には見えないんだから、隠れる必要なんてないんじゃないの?」
里奈がささやくと「なんとなく、一応ね」とポケットから声がした。
「探偵っぽくてかっこいいでしょ?」
モモちゃんが、ポケットからちょっとだけ顔をのぞかせた。
「それじゃぁ、わたしも」
里奈は雑貨コーナーの棚に身をかくした。
「里奈ちゃんも探偵ごっこ?」
モモちゃんが聞いてきた。
「違うよ。わたしが見ていたら、福袋を買う人が買いづらいかもしれないでしょ?」
「あれ、あの子」
モモちゃんが、ポケットから飛び出した。里奈の目の前にふわりと浮く。
「ちょっと、そこにいたら見えないんですけど」
里奈は顔を傾けて見た。
「あっ」
思わず大きな声が出てしまった。
福袋の前で立ち止まっていた人が、里奈の方を振り返る。
すっと的を射抜くような視線に、里奈は息を飲んだ。
昨日の学校帰りに、廊下で話しかけてきた男の子だ。なんだか気まずい。
男の子はじっとこっちを見ている。無造作にちらした髪。黒のTシャツにデニムというシンプルな格好が、切れ長の目を引き立たせている。
男の子は背が高くて、なんとなく怖そうに見えて、自分からは話しかけにくい。
里奈は動揺した気持ちを隠すように、表情を引き締めた。
「やっぱりおまえ、声がでかいな」
男の子のずけずけとした物言いに、里奈は押さえようとしていた気持ちが振り切れそうになる。
「そっ、そんなこと!」
通路を歩いていた人が、振り返って里奈の方を見る。
「なくはないね。ほら、みんなお前の声に驚いてこっち見てる」
「確かにお母さんにもよく、声が大きいって注意されるけど……」
「けど、なに? おれに言われたくないって?」
心で思っていたけど言えなかったことを、先に言われてしまった。
里奈はあわてて否定する。
「そんなこと、思ってないもん」
里奈は男の子の視線から逃げるように、そっぽを向いた。
「おまえ、5年4組の高山里奈だろ?」
里奈は驚いて、男の子の方を見た。
「なんで、わたしの名前知ってるの?」
「声が大きいから」
「なっ、なに、それ」
里奈の声が裏返る。
「てゆうか、同じ学年のヤツなら全員名前言えるし。今、おれがおまえのこと好きだから名前知ってるんじゃないかって思わなかった?」
男の子が笑みを浮かべ、からかうように言う。
「だからそんなこと思ってないし!」
里奈は頬が熱くなった。
「おれ、3組の佐々木リョウタ」
言いながら、リョウタは福袋のワゴンを見た。
(そうだ、福袋)
里奈の心臓の音が、少しずつ速くなっていく。
「ねぇ、リョウタくん」
里奈は小さな声で話しかけた。初めて名前を呼ぶのって緊張する。
聞こえていないのか、リョウタは返事をしない。
ベラベラと話しかけてきたかと思ったら、リョウタはもう自分の世界に入ってしまったようだ。リョウタのマイペースぶりに、里奈は振り回されている気分だ。
「千円かぁ」
リョウタが、福袋に手をかけようとした。
思い切って里奈は、リョウタのすぐ近くまで歩み寄った。
「リョウタくん、この福袋、買うの?」
「なんで?」
リョウタが里奈を見る。
里奈は、どこからどう説明したらいいのか、わかなくなる。
「えーっと」
いきなりおばけ育成ゲームの話をしたら、信じてもらえないだろう。信じてもらえないだけでなく、福袋を買うのをやめてしまうかもしれない。
キョロキョロと辺りを見回していたら、3歳くらいの小さな男の子が走っているのが目に入った。右手に持った戦隊もののフィギュアを振り回し、ママ待ってーと叫んでいる。
「そうだ、フィギュア!」
里奈はパチンと手を叩いた。
「だから声がでかいって」
リョウタに言われて、里奈はごめんと謝った。
「反応がおもしろいな、里奈って」
リョウタがクスクス笑う。
(いきなり呼び捨てって)
里奈はムッとしたが、態度に出さないようにこらえた。
ここでリョウタを怒らせたら、こっちの作戦が失敗してしまう。
「あのね、前にこの福袋、わたしも買ったの」
「本当? どうだった?」
リョウタが話にくいついてきた。
「いい物も入っていたんだけど、いらない男の子のおもちゃも入っていたの。だから、もし、リョウタくんの福袋の中に女の子のおもちゃが入っていたら、交換してほしいな~なんて思って」
しゃべり方がたどたどしくなってしまう。不審に思われただろうか。
「男の子のおもちゃってどんなの?」
「戦隊もののフィギュアが二体」
「戦隊ものって、幼稚園児向けのおもちゃじゃねーの?」
リョウタが怒ったような顔をする。
里奈ははっとした。
5年生の男の子に、小さい子が遊ぶようなおもちゃを押しつけようとするなんて、ずうずうしい女の子だと思われたかもしれない。
「そっか、そうだよね。いらないよね、そんなの」
里奈は後ずさりながら言った。声がうわずる。
リョウタがプーッと吹き出す。
「おまえ、本当に面白いな。なんか、おれに気を使いすぎ」
「だってリョウタくん、怒ってない?」
「怒ったフリしただけだよ。冗談だからそんな顔するなって」
リョウタが、里奈の肩をバシッと叩く。
「別にいいよ。おもちゃ交換しても」
リョウタがあまりに爽やかに言うから、一瞬見とれてしまった。
里奈は、はっとして気を取り直す。
「えっ、いいの? わたしが持ってるのって、小さい子が使うようなおもちゃだよ。きっとリョウタくんだっていらないと思うよ。交換したら、後悔するかもだよ。わかってる?」
「おいおい。そっちが先に、交換しようって言ったんじゃないか」
リョウタがあきれた顔をする。
「そうだけど……」
里奈はうつむいた。自分が言い出したこととはいえ、いらないおもちゃと交換してもらうなんて、リョウタに申し訳ないなと思う。
「ちょうどいいんだ。自分用じゃなくて、弟の誕生日プレゼントを買うつもりで来たから」
リョウタの明るい声に、里奈は顔を上げた。
「弟って何歳?」
「6歳になる。幼稚園の年長」
リョウタがにっこり微笑む。やわらかな笑顔。初めは怖い人だと思っていたが、里奈の思いこみだったことに気づいた。
「優しいんだね、リョウタくん」
「まぁね」
リョウタはまんざらでもなさそうな顔をする。
「なーんてね。おれが弟のおもちゃをうっかり踏んで壊しちゃったせいで、代わりのおもちゃを買う羽目になっちゃったんだけどさぁ。誕生日が近いから、その時までに買ってくれって」
リョウタがアハハと豪快に笑う。
「でも、おこづかいで買える金額じゃぁ、たいしたもの売ってなくて困ってたところ。千円ならなんとかなるからさ」
リョウタが福袋を指さした。
「それに女の子のおもちゃが入っていた場合、里奈の持ってるフィギュアと交換してもらえれば、プレゼントが豪華になって助かる」
リョウタはすっかり福袋を買う気になっているようだ。
里奈はなんだか気が引けてくる。リョウタがその気になればなるほど、里奈は押し売りをしているような気分になってきたのだ。
里奈の本当の目的はおもちゃ交換ではない。
もちろん、後で本当におもちゃを交換するのだから、嘘を言っているわけではない。
だが、本当の目的は、リョウタにおばけ育成ゲームのプレイヤーになってもらうこと。おばけが見える里奈の仲間になってもらうことだ。
そのことを隠したまま、リョウタに福袋を買わせるのは、なんだかだましているような心地がして落ち着かない。
「あのね、リョウタくん本当は」
「なんだよ、いまさら交換しないなんて言うなよ」
「そうじゃなくて……」
リョウタが、一番手前にある福袋を取り上げた。
「おれ、買ってくるから待ってて」
リョウタはそう言い残すと、レジに向かってスタスタと歩いて行ってしまった。
「どうしよう、モモちゃん」
里奈はポケットのモモちゃんを見た。
「福袋買ってもらう作戦、大成功じゃん。なのに里奈ちゃん、どうしてそんなに困った顔をしているの?」
モモちゃんが不思議そうな顔をする。
「だって、おばけ育成ゲームのこと、うまく説明できるか不安だよ」
「大丈夫大丈夫。不安な気持ちいただきます!」
「もう、モモちゃんったら」
里奈は苦笑いをした。
「リョウタくんってさぁ、里奈ちゃんの気持ちを引き出すの上手だね。モモちゃん、けっこうお腹いっぱいだよ」
「わたし、リョウタくんにそんなに自分の気持ち話したかな?」
「気持ちを吐きだすっていうのは、言葉だけじゃないんだよ。態度や表情でも伝わることってあるんだよ。里奈ちゃんは隠してるつもりでも、怒ったり喜んだり、けっこう顔に出てたもん」
「えっ、うそ」
リョウタに気持ちを振り回されているとは感じたが、顔に出ているとは思わなかった。
「よっ、お待たせ」
背中を叩かれ振り向くと、すぐ近くにリョウタの顔があった。
「わっ、びっくりさせないでよ」
里奈は思わず後ずさった。
「里奈が驚きすぎなんだよ、声デカすぎ」
里奈は頬を膨らませてぷいと横を向いた。
「またすねてるー」
リョウタが里奈の前に回る。
「またって……」
気持ちが表情に出ているとモモちゃんに言われたことを思い出した。
里奈はかっと顔が熱くなる。
両手でパタパタと顔をあおいだ。
「すねてなんかいないし」
里奈はできるだけクールに見えるように、つんとすました。
家に帰って宿題を終わらせると、里奈はモモちゃんに言った。
「なにしに行くの?」
「福袋を買う人を待ち伏せするの」
「なんで?」
「おばけ育成ゲームのプレイヤーになる人を探すのよ。おばけが見える仲間を増やすの。わたし一人じゃ信じてもらえなくても、他にもおばけが見える人がいたら、アリサちゃんとマキちゃんにも信じてもらえるかもでしょ?」
モモちゃんが、じーっと里奈を見つめる。
「やっぱり、すごーく気にしてるんだね。嘘つきって言われたこと」
モモちゃんの視線が、里奈の胸につきささる。
「そんなことないよ、そんなことない。全然気にしてないし」
里奈はそっぽを向いた。
「アリサちゃんもマキちゃんも、意地悪だよねー。里奈ちゃん、もっと怒った方がいいよ」
「意地悪なんかじゃないよ。わたし、こんなことくらいで二人を傷つけるようなこと言いたくないし」
「傷つけるようなこと言うのと、自分の気持ちを伝えるのとは違うよ。もっとこう、怒り爆発! とかっていうのも、たまにはいいんじゃない?」
里奈がモモちゃんを見ると、舌なめずりをしていた。
「そんなこと言って、ただ食べたいだけなんでしょ?」
エヘヘ、とモモちゃんが笑った。
◇
おもちゃ屋の2階、雑貨コーナーの奥にある福袋は、あまり売れていないようだ。
「すっごくお得なのに、どうしてこんなに残ってるのかなぁ」
里奈は銀色のワゴンに積まれた福袋をながめた。
モモちゃんが、あっと小さく叫んだ。
「誰か来る」
早口で言うと、モモちゃんはさっとポケットに戻ってしまった。
「他の人には見えないんだから、隠れる必要なんてないんじゃないの?」
里奈がささやくと「なんとなく、一応ね」とポケットから声がした。
「探偵っぽくてかっこいいでしょ?」
モモちゃんが、ポケットからちょっとだけ顔をのぞかせた。
「それじゃぁ、わたしも」
里奈は雑貨コーナーの棚に身をかくした。
「里奈ちゃんも探偵ごっこ?」
モモちゃんが聞いてきた。
「違うよ。わたしが見ていたら、福袋を買う人が買いづらいかもしれないでしょ?」
「あれ、あの子」
モモちゃんが、ポケットから飛び出した。里奈の目の前にふわりと浮く。
「ちょっと、そこにいたら見えないんですけど」
里奈は顔を傾けて見た。
「あっ」
思わず大きな声が出てしまった。
福袋の前で立ち止まっていた人が、里奈の方を振り返る。
すっと的を射抜くような視線に、里奈は息を飲んだ。
昨日の学校帰りに、廊下で話しかけてきた男の子だ。なんだか気まずい。
男の子はじっとこっちを見ている。無造作にちらした髪。黒のTシャツにデニムというシンプルな格好が、切れ長の目を引き立たせている。
男の子は背が高くて、なんとなく怖そうに見えて、自分からは話しかけにくい。
里奈は動揺した気持ちを隠すように、表情を引き締めた。
「やっぱりおまえ、声がでかいな」
男の子のずけずけとした物言いに、里奈は押さえようとしていた気持ちが振り切れそうになる。
「そっ、そんなこと!」
通路を歩いていた人が、振り返って里奈の方を見る。
「なくはないね。ほら、みんなお前の声に驚いてこっち見てる」
「確かにお母さんにもよく、声が大きいって注意されるけど……」
「けど、なに? おれに言われたくないって?」
心で思っていたけど言えなかったことを、先に言われてしまった。
里奈はあわてて否定する。
「そんなこと、思ってないもん」
里奈は男の子の視線から逃げるように、そっぽを向いた。
「おまえ、5年4組の高山里奈だろ?」
里奈は驚いて、男の子の方を見た。
「なんで、わたしの名前知ってるの?」
「声が大きいから」
「なっ、なに、それ」
里奈の声が裏返る。
「てゆうか、同じ学年のヤツなら全員名前言えるし。今、おれがおまえのこと好きだから名前知ってるんじゃないかって思わなかった?」
男の子が笑みを浮かべ、からかうように言う。
「だからそんなこと思ってないし!」
里奈は頬が熱くなった。
「おれ、3組の佐々木リョウタ」
言いながら、リョウタは福袋のワゴンを見た。
(そうだ、福袋)
里奈の心臓の音が、少しずつ速くなっていく。
「ねぇ、リョウタくん」
里奈は小さな声で話しかけた。初めて名前を呼ぶのって緊張する。
聞こえていないのか、リョウタは返事をしない。
ベラベラと話しかけてきたかと思ったら、リョウタはもう自分の世界に入ってしまったようだ。リョウタのマイペースぶりに、里奈は振り回されている気分だ。
「千円かぁ」
リョウタが、福袋に手をかけようとした。
思い切って里奈は、リョウタのすぐ近くまで歩み寄った。
「リョウタくん、この福袋、買うの?」
「なんで?」
リョウタが里奈を見る。
里奈は、どこからどう説明したらいいのか、わかなくなる。
「えーっと」
いきなりおばけ育成ゲームの話をしたら、信じてもらえないだろう。信じてもらえないだけでなく、福袋を買うのをやめてしまうかもしれない。
キョロキョロと辺りを見回していたら、3歳くらいの小さな男の子が走っているのが目に入った。右手に持った戦隊もののフィギュアを振り回し、ママ待ってーと叫んでいる。
「そうだ、フィギュア!」
里奈はパチンと手を叩いた。
「だから声がでかいって」
リョウタに言われて、里奈はごめんと謝った。
「反応がおもしろいな、里奈って」
リョウタがクスクス笑う。
(いきなり呼び捨てって)
里奈はムッとしたが、態度に出さないようにこらえた。
ここでリョウタを怒らせたら、こっちの作戦が失敗してしまう。
「あのね、前にこの福袋、わたしも買ったの」
「本当? どうだった?」
リョウタが話にくいついてきた。
「いい物も入っていたんだけど、いらない男の子のおもちゃも入っていたの。だから、もし、リョウタくんの福袋の中に女の子のおもちゃが入っていたら、交換してほしいな~なんて思って」
しゃべり方がたどたどしくなってしまう。不審に思われただろうか。
「男の子のおもちゃってどんなの?」
「戦隊もののフィギュアが二体」
「戦隊ものって、幼稚園児向けのおもちゃじゃねーの?」
リョウタが怒ったような顔をする。
里奈ははっとした。
5年生の男の子に、小さい子が遊ぶようなおもちゃを押しつけようとするなんて、ずうずうしい女の子だと思われたかもしれない。
「そっか、そうだよね。いらないよね、そんなの」
里奈は後ずさりながら言った。声がうわずる。
リョウタがプーッと吹き出す。
「おまえ、本当に面白いな。なんか、おれに気を使いすぎ」
「だってリョウタくん、怒ってない?」
「怒ったフリしただけだよ。冗談だからそんな顔するなって」
リョウタが、里奈の肩をバシッと叩く。
「別にいいよ。おもちゃ交換しても」
リョウタがあまりに爽やかに言うから、一瞬見とれてしまった。
里奈は、はっとして気を取り直す。
「えっ、いいの? わたしが持ってるのって、小さい子が使うようなおもちゃだよ。きっとリョウタくんだっていらないと思うよ。交換したら、後悔するかもだよ。わかってる?」
「おいおい。そっちが先に、交換しようって言ったんじゃないか」
リョウタがあきれた顔をする。
「そうだけど……」
里奈はうつむいた。自分が言い出したこととはいえ、いらないおもちゃと交換してもらうなんて、リョウタに申し訳ないなと思う。
「ちょうどいいんだ。自分用じゃなくて、弟の誕生日プレゼントを買うつもりで来たから」
リョウタの明るい声に、里奈は顔を上げた。
「弟って何歳?」
「6歳になる。幼稚園の年長」
リョウタがにっこり微笑む。やわらかな笑顔。初めは怖い人だと思っていたが、里奈の思いこみだったことに気づいた。
「優しいんだね、リョウタくん」
「まぁね」
リョウタはまんざらでもなさそうな顔をする。
「なーんてね。おれが弟のおもちゃをうっかり踏んで壊しちゃったせいで、代わりのおもちゃを買う羽目になっちゃったんだけどさぁ。誕生日が近いから、その時までに買ってくれって」
リョウタがアハハと豪快に笑う。
「でも、おこづかいで買える金額じゃぁ、たいしたもの売ってなくて困ってたところ。千円ならなんとかなるからさ」
リョウタが福袋を指さした。
「それに女の子のおもちゃが入っていた場合、里奈の持ってるフィギュアと交換してもらえれば、プレゼントが豪華になって助かる」
リョウタはすっかり福袋を買う気になっているようだ。
里奈はなんだか気が引けてくる。リョウタがその気になればなるほど、里奈は押し売りをしているような気分になってきたのだ。
里奈の本当の目的はおもちゃ交換ではない。
もちろん、後で本当におもちゃを交換するのだから、嘘を言っているわけではない。
だが、本当の目的は、リョウタにおばけ育成ゲームのプレイヤーになってもらうこと。おばけが見える里奈の仲間になってもらうことだ。
そのことを隠したまま、リョウタに福袋を買わせるのは、なんだかだましているような心地がして落ち着かない。
「あのね、リョウタくん本当は」
「なんだよ、いまさら交換しないなんて言うなよ」
「そうじゃなくて……」
リョウタが、一番手前にある福袋を取り上げた。
「おれ、買ってくるから待ってて」
リョウタはそう言い残すと、レジに向かってスタスタと歩いて行ってしまった。
「どうしよう、モモちゃん」
里奈はポケットのモモちゃんを見た。
「福袋買ってもらう作戦、大成功じゃん。なのに里奈ちゃん、どうしてそんなに困った顔をしているの?」
モモちゃんが不思議そうな顔をする。
「だって、おばけ育成ゲームのこと、うまく説明できるか不安だよ」
「大丈夫大丈夫。不安な気持ちいただきます!」
「もう、モモちゃんったら」
里奈は苦笑いをした。
「リョウタくんってさぁ、里奈ちゃんの気持ちを引き出すの上手だね。モモちゃん、けっこうお腹いっぱいだよ」
「わたし、リョウタくんにそんなに自分の気持ち話したかな?」
「気持ちを吐きだすっていうのは、言葉だけじゃないんだよ。態度や表情でも伝わることってあるんだよ。里奈ちゃんは隠してるつもりでも、怒ったり喜んだり、けっこう顔に出てたもん」
「えっ、うそ」
リョウタに気持ちを振り回されているとは感じたが、顔に出ているとは思わなかった。
「よっ、お待たせ」
背中を叩かれ振り向くと、すぐ近くにリョウタの顔があった。
「わっ、びっくりさせないでよ」
里奈は思わず後ずさった。
「里奈が驚きすぎなんだよ、声デカすぎ」
里奈は頬を膨らませてぷいと横を向いた。
「またすねてるー」
リョウタが里奈の前に回る。
「またって……」
気持ちが表情に出ているとモモちゃんに言われたことを思い出した。
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