おばけ育成ゲーム

ことは

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7 二人だけの秘密

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 里奈とリョウタは、おもちゃ屋の前にある公園に来た。

 福袋をベンチの真ん中に置き、その両側に里奈とリョウタが座った。

 リョウタが福袋を開けようとする。

「それ、テープが頑丈に止めてあって、開けるの大変なんだよね」

「破いちゃえばいいよ」

 リョウタが大胆に、紙袋の上の方をビリっと破る。

「そんなことしたら、持って帰る時大変だよ」

「自転車のかごに入れて帰れば平気」

 リョウタがさらに破いていく。

「もう開けちゃうの?」

「なんで? お金払ったんだから開けるだろ、普通」

 リョウタが手を止め、キョトンとした顔をする。

「開ける前の、なにが入っているか楽しみ、ドキドキしちゃうっていう時間は?」

「まぁ、そういう楽しみ方もあるだろうけどね」

 言いながらリョウタは、福袋の中身をベンチに出した。

「こっちにもフィギュア入ってるぞ。2個も。里奈の福袋に入ってたのと同じ?」

 リョウタが、フィギュアを里奈の膝に乗せる。

 里奈はそれを手に取った。

「同じテレビ番組のものだと思うけど、種類が違うみたい」

「じゃぁ、良かった。4個もあったら喜ぶぞ、あいつ」

 リョウタが嬉しそうな顔をする。

「あっ、これとこれも、弟の好きなアニメのやつだ」

 次に出てきたのは、アニメのキャラクターが描かれたトートバッグと下敷きだった。

「よかったね」

 里奈が笑うとリョウタがうなずいた。

「あっ、でもあと1個だけだ。これが女の子用じゃないと、おもちゃ交換できないな」

 リョウタが福袋に手をつっこむ。

 里奈は胸がドキドキした。

 福袋に、おばけ育成ゲームが入っていない可能性もある。

「じゃーん」

 リョウタが福袋から勢いよく手を取り出した。

 リョウタの手には、なにも握られていない。からっぽ。

「えっ」

(もうこれで終わりってこと?)

 里奈がなにも言えずに固まったままでいると、リョウタがゲラゲラと笑った。

「冗談だよ、冗談」

 言いながら、福袋から小さな箱を取り出した。

 里奈はその箱に目が釘付けになった。

「なんだこれ。おばけ育成ゲーム?」

 リョウタが首をかしげる。

「よくわからないけど、これ、里奈にやるよ」

 リョウタが箱を投げてきた。

 里奈はあわててその箱をキャッチする。

「だめ、これはだめだよ」

 里奈は箱をリョウタに押しつけた。

「気に入らない? こんなわけのわからないゲームとじゃ交換できないか」

 リョウタが手の中で、箱を転がしている。

「フィギュアはあげるよ。どうせいらないおもちゃだから」

「それじゃぁ、悪いよ。せめてこれ、もらってよ」

 リョウタが箱を里奈に渡そうとする。

 里奈はその手をさえぎった。

「これはリョウタくんに使ってほしいの」

「おれに?」

 里奈はうなずいた。

「わたしの福袋にもね、このゲーム入っていたんだ」

「二つもいらないってこと?」

「そうじゃなくて……。ごめん。本当はね、リョウタくんにこのゲームをやってもらうために、福袋を買ってもらいたかったの。おもちゃを交換するためじゃなかったの」

 里奈はゆっくりと言った。

「どういうこと?」

 里奈は、このゲームを始めたらどういうことが起きたかを話した。

 おばけが見えるのはゲームのプレイヤーだけだということ。このことを宿題の絵日記に書いたこと。

 だが、先生にも友達にも誰にも信じてもらえないこと。リョウタにこのゲームのプレイヤーになってほしいこと。できれば仲間をもっと増やしていきたいということ。

 リョウタは黙って全部聞いてくれた。

「最初からなんか変だと思ったんだよね」

 リョウタがつぶやくように言った。

「だってさ、おもちゃを交換してもらうために、あんなところで福袋を買う人を待ち構えているヤツなんて、普通いないだろ?」

「もしかしてリョウタくん、わたしに話を合わせてくれてたの? 変だと思ったら無視してくれたらよかったのに」

 里奈は自分のつま先を見つめた。

「だっておまえ、なんかすごい切羽詰まったような顔してたんだもん。ほっとけなくて」

「ごめんね。無駄遣いさせちゃって」

「いや、弟の誕生日プレゼント探してたのは本当だから。それに、この福袋がおれを呼んでたっていうか、なんか絶対買わなきゃいけない気がしたんだ。里奈に言われたから買ったわけじゃないよ」

 リョウタがゲームの箱を上に放り投げ、キャッチする。

「おまえの話は正直、全然信じられないんだけどさぁ、とにかくこれ、やってみればいいんだろ?」

 リョウタが里奈の顔をのぞきこむ。

「おばけ育成ゲーム、やってくれるの?」

「まぁ、面白そうだしな」

 リョウタは笑いながら言うと、すぐに箱を開け始めた。

「部品が細かいな」

「この上に置くといいよ」

 里奈はポケットから、花柄のハンカチを取り出してベンチにひいた。

 モモちゃんもポケットから飛び出し、ハンカチの上をグルグル回る。

「モモちゃん、お友達ができるの楽しみだなぁ」

 モモちゃんが歌うように言う。

 最初の頃よりも、モモちゃんは一回り大きくなったようだ。ただ大きくなったというよりは、少し横にふっくらした気がする。

 目の前にいるというのに、リョウタがモモちゃんの存在に気づく様子はない。

 リョウタはおばけの元となる白い粉に、青い色のインクを混ぜた。選んだデコパーツは、紺色のキャップだ。蓋を閉じ、卵型の容器に『ソラ』とおばけの名前を書く。

「20回、振ればいいんだよな?」

「うん。数えるね」

 リョウタと里奈は一緒に数を数えた。

「あとは3分待つだけかぁ」

 リョウタは半信半疑の様子で、卵の容器をプラスチックの台座に戻す。

「今、何分くらい?」

 時計を持っていないリョウタは、里奈に聞いてくる。

「えっともうすぐ」

 里奈が答えようとした時、パンっと破裂音がした。

「きゃっ」

 わかっていても、驚いてしまう。

「なんだ今の音。すげー驚いたんだけど」

 リョウタがベンチから立ち上がった。

「おどろき、いただきー」

 リョウタのおばけはハスキーボイスだった。

「な、なんだ。これ」

 リョウタは目の前に浮かぶおばけに、目を丸くしている。紺色のキャップをかぶった水色のあめ玉みたいなおばけだ。

「ソラくんだよ、ぼくはソラくん」

「わたしはモモちゃん! ソラくん、よろしくね」

 モモちゃんが、ソラくんの隣で宙返りする。

 こうして比べてみると、モモちゃんはやはり、ソラくんより一回り大きい。最初の頃より成長している。

「ソラ? モモ?」

 リョウタの視線が、ソラくん、モモちゃん、里奈の間を行ったり来たりする。

「モモちゃんがわたしの育てているおばけだよ。そして今、リョウタくんが作ったおばけがソラくん」

 リョウタは、ソラくんを人差し指でつついた。

「わぁ、ふわふわだ」

「かわいいよね? おばけちゃんたち」

 里奈はリョウタのすぐ隣に立った。

「おれが心の中にある気持ちを言葉や態度で表現すると、ソラくんは大きくなっていくってわけか」

「そういうことだよ」

「おもしれー」

「おもしろい、いっただきー」

 ソラくんが、嬉しそうに口をパクリと開ける。

「リョウタくんにお願いがあるんだけど」

 里奈は上目づかいでリョウタを見た。

「マキちゃんとアリサちゃんに、リョウタくんにもおばけが見えることを話してほしいの」

「なんでおれが? そんなの自分で話せよ」

「だって信じてもらえないんだもん」

「友達だろ? 信じてもらえるまでちゃんと話せばいいだろ。それにこんなこと説明するの、おれの方が難しいよ。その二人とは話したこともないんだし」

「もう、ケチ」

 里奈はリョウタに背を向けた。

「また怒った」

「怒ってないし」

 里奈はもう一度リョウタに向き直る。

 モモちゃんが、二人の間に入ってきた。

「そうやって、マキちゃんとアリサちゃんにも、里奈は怒ってますって言えばいいんだよ」

 モモちゃんが、里奈の目の前でふわふわと浮かぶ。

「だから、怒ってないし!」

 里奈は声を張り上げた。

「怒ってる怒ってる、いただきまーす」

 モモちゃんが、里奈から逃げるように飛び去って行く。

「なぁ、里奈」

 リョウタが笑いをこらえながら言う。

「このこと、二人だけの秘密にしようぜ」

「えっ。わたしは仲間を増やし……」

 里奈の声をさえぎってリョウタが言った。

「面白いじゃん、秘密にした方が。周りのヤツに、無理に信じてもらわなくたっていいじゃんか」

 リョウタが真っ直ぐに里奈を見つめてくる。

「二人だけの、秘密な?」

 リョウタが里奈の頭をポンと叩いた。

 最初の狙いとは違ってしまったが、里奈はそれならそれでもいい気がした。

 たとえ一人でも仲間がいる。自分は一人ではないということが、心強かった。

 無理に信じてもらわなくてもいい。その言葉で、里奈の胸は軽くなった。

 「うん、二人だけの……」

 言葉にしようとしたら途中でなんだか気恥ずかしくなって、里奈は続きを心の中だけでつぶやいた。

(秘密ね)
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