おばけ育成ゲーム

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8 嘘つきの証拠

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「どうしよう、走らないと学校遅刻だ」

 次の日の朝、里奈にはめずらしく寝坊した。

 寝る前に友達のことやリョウタのこと、それからモモちゃんとソラくんのことを色々考えすぎたせいだ。

「ねぇ、本当にアリサちゃんたちに嘘つきだと思われたままでいいの?」

 小走りで学校に向かう里奈の周りを、モモちゃんが飛んでいる。

「いいの、いいの。わたし、そんなこともう気にしてないよ」

 アリサとマキの顔が頭の中に浮かぶ。少し意地悪そうな二人の顔。

 里奈は頭をブンブンと横に振った。

「二人にはいつも笑っていてほしいの。そのためには、わたしがいつも元気で明るくしていなくちゃね!」

 里奈は走るスピードを上げた。

「いなくちゃ、なんて変じゃない? 元気のない時に元気なフリするなんておかしいよ」

「フリなんかしてないよ。わたしは元気だし、学校楽しいよ」

 里奈は思わず立ち止まった。

 モモちゃんも里奈の目の前で止まる。

「じゃあ、この味はなに? 里奈ちゃんの楽しい気持ち、すっごく変な味するよ」

 モモちゃんが、フワリフワリと揺れている。

「もっとちゃんと話せば、信じてもらえるんじゃない?」

 モモちゃんがゆっくりと言った。

「わたしが、モモちゃんの話をして二人と気まずくなるの嫌だし。それに」

 里奈は大きく息を吸った。

「リョウタくんと約束したもん。二人だけの秘密にしようって」

 そう言った時、里奈の胸がトクンとなった。

「もう、モモちゃんとしゃべってたら遅刻しちゃうじゃない」

 里奈はあわてたように走り出した。

 教室に入ると、まっすぐ自分の席に向かう。

 隣の席のアリサは、とっくに朝の支度を終えたようで、本を読んでいる。

「おはよう」

 ランドセルを机に置きながら、里奈は明るく声をかけた。

 だが、アリサから返事がない。

(本を読んでいて気がつかないのかな)

「アリサちゃん、おはよう」

 もう一度声をかける。

 アリサは視線を本に落としたままだ。

「いたた」

 突然お腹の辺りがチクッとして、里奈はお腹を手で押さえた。

「大丈夫?」

 モモちゃんが、心配そうな顔で見上げている。

 里奈は小さくうなずいた。

「アリサちゃん、おっはよー」

 アリサの席に、マキがやってきた。

「おはよ、マキちゃん」

 すぐにアリサが顔を上げる。

 里奈は胃がよじれるような感じがした。

(聞こえてたんだ。もしかしてわたし、無視された?)

 不安な思いを、里奈は打ち消した。

 笑顔を作って、大きく息を吸う。

「おはよう」

 精一杯明るく言ったつもりなのに、少し声が震えた。

「おっはよ」

 マキから返事があったが、アリサはなにも言わない。

「アリサ、ちゃん?」

 里奈は弱々しい声で言った。

 突然、アリサがキッと里奈をにらみつけてきた。

「里奈ちゃんって本当、嘘つき」

「えっ?」

 里奈は言葉につまった。

 お腹のチクチクは治まる様子がない。なんだか気持ちが悪かった。お腹の中で、小さな虫が這いまわっているような気がする。

「なにかあったの?」

 マキがアリサに聞く。

「わたし、今度は本当に嘘つきの証拠つかんだから」

 アリサが吐き捨てるように言った。

「なんの、こと?」

 里奈は恐る恐る聞いた。

「福袋」

 アリサが短く言う。

「福袋がどうかした?」

 マキがアリサの机の前にしゃがみこむ。

「買ったんだよ、わたしも」

「わかった!」

 マキがパチンと手を叩く。

「おばけ育成ゲームが入ってなかったんでしょ?」

「そんなの入ってなかったよ、もちろん」

 アリサが一息に言う。

「福袋だから、絶対に入っているとは限らないよ」

 里奈は遠慮がちに言った。

「はぁ? そんなのはどうでもいいの!」

 アリサの声が裏返る。

「里奈ちゃん、千円で1万円分以上入ってるっていったよね? クマのぬいぐるみも入ってたって言ったよね?」

「だから、福袋だからクマのぬいぐるみは……」

 なにか言えば言うほど、アリサの目がつり上がっていくのを見て、里奈は口を閉ざした。

「福袋、1,500円もしたし、中身いらないものばっかだったし。計算したら3千円分しか入ってなかったし。もう、福袋じゃなくてゴミ袋買ったようなもんだよ」

「うわ、それサイアク」

 マキが顔をしかめる。

「でしょ?」

 アリサが眉間に皺を寄せる。

 そんなはずはない。なにかがおかしい。里奈は手をギュッと握った。

(どういうことなんだろう?)

 里奈は高速で頭を回転させる。

 はっとした。

(もしかしたら……)

「ねぇ、アリサちゃん。その福袋、どこで買ったの?」

 アリサが口をへの字に曲げて、里奈を見る。

「GMプラザだけど」

「やっぱり」

 里奈がつぶやいた。

「やっぱりってなによ」

 アリサが口をとがらせる。

「わたしが福袋買ったのって、おもちゃのハッピーランドなんだ」

「だって、GMプラザって、ゲームソフトいっぱい置いてあるじゃん」

 アリサがぽかんと口を開ける。

「里奈ちゃんが、どこで買ったかはっきり言わないから悪いんだよ」

 マキが、アリサをかばうように言う。

「そうだよ、里奈ちゃんが悪い」

 アリサが里奈をにらみつける。

「ごめんね。今度はおもちゃのハッピーランドで買ってみて。本当にお得だから」

 里奈は無理に笑ってみせた。

「は? そんなにおこづかいあるわけないじゃん」

「そうだよねぇ」

 マキが気の毒そうに言う。

「あ~もう! 里奈ちゃんが変なこと言うから、1,500円損したっ」

 アリサが両手でバンッと机を叩いた。

 里奈は目を大きく開けた。思わずあふれ出そうになった涙をこらえる。

「アリサちゃん、ごめんね。今度わたしのクマちゃんあげるから許して」

 里奈は顔の前で両手を合わせた。

「ねっ、アリサちゃんっ」

 里奈は声のトーンを上げ、アリサの顔をのぞきこんだ。にっこり笑いかけているつもりなのに、頬がひきつる。

「そんなのいらない」

 アリサがぷいっとそっぽを向く。

 里奈はこれ以上、アリサにかける言葉が見つからなかった。

 アリサはこれ見よがしに、マキに向かって話しかける。

「しょうがないからリサイクルショップに売ろうと思ったんだけど、200円にしかならないって言うからあきらめたんだ」

「200円じゃ安すぎるよねー」

「あー、1,500円損した損した損した」

「アリサちゃん、かわいそう」

 マキが言うのと同時に、チャイムが鳴った。
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