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9 モモちゃんは栄養不足
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学校にいる間中、里奈はアリサとマキにいつもと変わらず話しかけた。
いや、いつも以上に明るく振る舞った。
テレビ番組の話、ファッションの話、好きなアイドルの話など、次から次へと話題を変えて話しかける。
無視こそはされないものの、アリサからの返事は「ふ~ん」とか「あっそ」とかそっけないものばかりだった。
マキもアリサに遠慮してか、ほとんど里奈とは話さない。
それでも里奈は、やたらに「楽しい」とか「うれしい」を連発した。これ以上自分のせいで、雰囲気を悪くしたくなかった。
1時間目の休み時間にトイレに行って手を洗っていると、モモちゃんが話しかけてきた。
「あんな風に言われて、里奈ちゃんくやしくないの? 嫌なこと言われたら、嫌だってはっきり言った方がいいよ」
他にも水道を使っている子が数人いる。
里奈はできるだけ小さな声でモモちゃんに言った。
「二人が気を悪くするようなこと、言いたくないもん。元はと言えば、福袋を売っている場所をちゃんと言わなかったわたしが悪いんだし」
「里奈ちゃんは悪くないよ。アリサちゃんが勝手に勘違いしただけじゃん」
里奈は水道の水を止め、スカートのポケットからハンカチを出した。
黙って手をふく。
「このままでいいの?」
「なにが?」
「里奈ちゃんの気持ち、二人に伝えなくていいの?」
「わたしの気持ちって? わたしはただ、二人と仲良くしたいだけだよ」
里奈はハンカチをていねいにたたんで、ポケットにしまった。
「里奈ちゃん、自分の本当の気持ちに気づいていないの?」
「モモちゃん、なにが言いたいのかわからないよ」
里奈は教室に戻り、机から音楽の教科書を急いで取り出した。
マキとアリサが教室を出て行くのを見て、里奈は追いかけた。
「音楽室、一緒に行こう」
返事はなかったが、一緒に歩いた。一歩先を行くマキの手に、リコーダーが握られているのを見て、里奈は立ち止まった。
「あっ、わたし、リコーダー忘れちゃった」
里奈が言うと、一瞬、マキとアリサが振り返った。
「遅れちゃうから、先に」
行ってて、と言おうとした時には、二人は前に向き直って歩き始めていた。
いつもなら、取りに戻るまで絶対に待っていてくれるのに。里奈は出そうになったため息を飲みこんだ。
どんなに急いでも二人には追いつかないだろうが、足早に教室に戻った。
リコーダーを握りしめ、廊下に飛び出す。
その瞬間、体に衝撃が走る。
「わっ」
思わず叫んだ。
誰かにぶつかったようだ。
里奈はフラフラとよろけた。体のバランスがくずれる。足にグッと力をこめたが、しりもちをつきそうになる。
「危ねーな。いきなり飛び出してくんなよ」
聞いたことのある声がして、ぐいっと腕をつかまれた。
そのおかげで里奈は、なんとか態勢を立て直すことができた。
「あ、ありがとう」
見上げるとリョウタの顔がそこにあった。リョウタの隣には、ソラくん。だが、昨日のソラくんの姿とはだいぶ違っていた。
「どうしてそんなに大きいの? ソラくん」
里奈は思わず叫んだ。ソラくんは、リョウタの顔とほぼ同じくらいの大きさをしている。
リョウタがにっと笑う。
「おれが育てたんだよ」
「どうやって?」
「そんなの決まってるだろ。自分の気持ちを言葉や態度で表現することでおばけは大きくなるって、里奈が教えてくれたんじゃないか」
「でも、どうやって?」
モモちゃんとソラくんのあまりの違いに、里奈の理解が追いつかなかった。
「だからぁ、おれは素直で正直者なんだよ、里奈と違ってさぁ」
リョウタがガッハッハッと豪快に笑う。
「なーによ、それっ!」
里奈が頬を膨らますと、
「やっと食べられる~」
とモモちゃんが嬉しそうに飛び回った。
「なんか、里奈のモモちゃん、おデブになってないか?」
リョウタがモモちゃんをつついた。
「レディに向かって失礼でしょ!」
里奈は腰に手をあてた。
「モモちゃんはね~、栄養不足なんだよ」
モモちゃんが、リョウタにすりよった。
「そうなの?」
里奈が申し訳なさそうに言う。
「だって里奈ちゃんが吐き出す気持ちって、楽しい嬉しいばっかりなんだもん。あま~い味ばっかりで、モモちゃんどんどん太っちゃう。辛いのとかしょっぱいのもたまにはちょうだいよ」
モモちゃんが不満そうに宙を飛びかう。
「怒ったり悲しんだり、そういう気持ちもぜーんぶないと、モモちゃんはうまく成長できないんだよ」
「だって、楽しく過ごした方がいいでしょ?」
「そりゃそうだ」
リョウタが笑った。
「でも里奈、悲しい時とかムカつく時だってあるだろ?」
リョウタの問いかけに、里奈は首を横に振った。
「ないよ。楽しいって思えば全部楽しくなるもん」
「それ、本当の気持ち?」
里奈はうなずいた。
「それならいいけど、いやなことがあったら、おれみたいにすぐに全部吐き出しちゃった方が、気分がスッキリするぞ」
リョウタはソラくんを見た。ソラくんは縦にも横にも均等に大きくなっている。
「大きくなりすぎだよ、ソラくんは。これ以上大きくなったらどうなっちゃうんだろうね」
里奈はソラくんを見上げた。
「どうなるんだろうな。やべっ、もうすぐ休み時間終わるぞ」
リョウタが駆け足で教室に戻っていく。
「わたしも行かなくちゃ」
里奈も早足に音楽室へ向かった。
「あれ、里奈ちゃん珍しいね、一人? アリサちゃんたちは?」
同じクラスの藤田リコが、里奈を追い抜きながら話しかけてきた。
「わたし、リコーダー忘れて取りに行ってたから……」
里奈は言い訳をするように言った。
だが、里奈の返事を待たずに、リコは先を走って行く。
里奈が一人でいるからといって、そのことにそこまで興味はないようだ。
「気にしてなんか、ないもん」
心の中でつぶやいたつもりが、声に出ていた。
喉の奥が、つんと痛くなる。
里奈は、ごくんと唾を飲んだ。心の奥底からわき上がってきた気持ちを、唾と一緒に飲みこむ。
「いたたた」
里奈はお腹を押さえた。
「まだ痛いの?」
モモちゃんが、里奈のポケットに飛びこむ。なにかを調べるように、モモちゃんはポケットの中でモゾモゾ動いている。
「ねぇ、里奈ちゃん。これ、もしかしたら……」
モモちゃんがポケットから顔を出した。
同時に里奈は音楽室に飛びこんだ。
「もう授業始まるから、話はあとでね」
里奈は音楽室に入ると、アリサとマキを探した。
「アリサちゃん、マキちゃん! 間に合ってよかった~」
里奈はにこにこしながら二人の側に駆け寄った。
いや、いつも以上に明るく振る舞った。
テレビ番組の話、ファッションの話、好きなアイドルの話など、次から次へと話題を変えて話しかける。
無視こそはされないものの、アリサからの返事は「ふ~ん」とか「あっそ」とかそっけないものばかりだった。
マキもアリサに遠慮してか、ほとんど里奈とは話さない。
それでも里奈は、やたらに「楽しい」とか「うれしい」を連発した。これ以上自分のせいで、雰囲気を悪くしたくなかった。
1時間目の休み時間にトイレに行って手を洗っていると、モモちゃんが話しかけてきた。
「あんな風に言われて、里奈ちゃんくやしくないの? 嫌なこと言われたら、嫌だってはっきり言った方がいいよ」
他にも水道を使っている子が数人いる。
里奈はできるだけ小さな声でモモちゃんに言った。
「二人が気を悪くするようなこと、言いたくないもん。元はと言えば、福袋を売っている場所をちゃんと言わなかったわたしが悪いんだし」
「里奈ちゃんは悪くないよ。アリサちゃんが勝手に勘違いしただけじゃん」
里奈は水道の水を止め、スカートのポケットからハンカチを出した。
黙って手をふく。
「このままでいいの?」
「なにが?」
「里奈ちゃんの気持ち、二人に伝えなくていいの?」
「わたしの気持ちって? わたしはただ、二人と仲良くしたいだけだよ」
里奈はハンカチをていねいにたたんで、ポケットにしまった。
「里奈ちゃん、自分の本当の気持ちに気づいていないの?」
「モモちゃん、なにが言いたいのかわからないよ」
里奈は教室に戻り、机から音楽の教科書を急いで取り出した。
マキとアリサが教室を出て行くのを見て、里奈は追いかけた。
「音楽室、一緒に行こう」
返事はなかったが、一緒に歩いた。一歩先を行くマキの手に、リコーダーが握られているのを見て、里奈は立ち止まった。
「あっ、わたし、リコーダー忘れちゃった」
里奈が言うと、一瞬、マキとアリサが振り返った。
「遅れちゃうから、先に」
行ってて、と言おうとした時には、二人は前に向き直って歩き始めていた。
いつもなら、取りに戻るまで絶対に待っていてくれるのに。里奈は出そうになったため息を飲みこんだ。
どんなに急いでも二人には追いつかないだろうが、足早に教室に戻った。
リコーダーを握りしめ、廊下に飛び出す。
その瞬間、体に衝撃が走る。
「わっ」
思わず叫んだ。
誰かにぶつかったようだ。
里奈はフラフラとよろけた。体のバランスがくずれる。足にグッと力をこめたが、しりもちをつきそうになる。
「危ねーな。いきなり飛び出してくんなよ」
聞いたことのある声がして、ぐいっと腕をつかまれた。
そのおかげで里奈は、なんとか態勢を立て直すことができた。
「あ、ありがとう」
見上げるとリョウタの顔がそこにあった。リョウタの隣には、ソラくん。だが、昨日のソラくんの姿とはだいぶ違っていた。
「どうしてそんなに大きいの? ソラくん」
里奈は思わず叫んだ。ソラくんは、リョウタの顔とほぼ同じくらいの大きさをしている。
リョウタがにっと笑う。
「おれが育てたんだよ」
「どうやって?」
「そんなの決まってるだろ。自分の気持ちを言葉や態度で表現することでおばけは大きくなるって、里奈が教えてくれたんじゃないか」
「でも、どうやって?」
モモちゃんとソラくんのあまりの違いに、里奈の理解が追いつかなかった。
「だからぁ、おれは素直で正直者なんだよ、里奈と違ってさぁ」
リョウタがガッハッハッと豪快に笑う。
「なーによ、それっ!」
里奈が頬を膨らますと、
「やっと食べられる~」
とモモちゃんが嬉しそうに飛び回った。
「なんか、里奈のモモちゃん、おデブになってないか?」
リョウタがモモちゃんをつついた。
「レディに向かって失礼でしょ!」
里奈は腰に手をあてた。
「モモちゃんはね~、栄養不足なんだよ」
モモちゃんが、リョウタにすりよった。
「そうなの?」
里奈が申し訳なさそうに言う。
「だって里奈ちゃんが吐き出す気持ちって、楽しい嬉しいばっかりなんだもん。あま~い味ばっかりで、モモちゃんどんどん太っちゃう。辛いのとかしょっぱいのもたまにはちょうだいよ」
モモちゃんが不満そうに宙を飛びかう。
「怒ったり悲しんだり、そういう気持ちもぜーんぶないと、モモちゃんはうまく成長できないんだよ」
「だって、楽しく過ごした方がいいでしょ?」
「そりゃそうだ」
リョウタが笑った。
「でも里奈、悲しい時とかムカつく時だってあるだろ?」
リョウタの問いかけに、里奈は首を横に振った。
「ないよ。楽しいって思えば全部楽しくなるもん」
「それ、本当の気持ち?」
里奈はうなずいた。
「それならいいけど、いやなことがあったら、おれみたいにすぐに全部吐き出しちゃった方が、気分がスッキリするぞ」
リョウタはソラくんを見た。ソラくんは縦にも横にも均等に大きくなっている。
「大きくなりすぎだよ、ソラくんは。これ以上大きくなったらどうなっちゃうんだろうね」
里奈はソラくんを見上げた。
「どうなるんだろうな。やべっ、もうすぐ休み時間終わるぞ」
リョウタが駆け足で教室に戻っていく。
「わたしも行かなくちゃ」
里奈も早足に音楽室へ向かった。
「あれ、里奈ちゃん珍しいね、一人? アリサちゃんたちは?」
同じクラスの藤田リコが、里奈を追い抜きながら話しかけてきた。
「わたし、リコーダー忘れて取りに行ってたから……」
里奈は言い訳をするように言った。
だが、里奈の返事を待たずに、リコは先を走って行く。
里奈が一人でいるからといって、そのことにそこまで興味はないようだ。
「気にしてなんか、ないもん」
心の中でつぶやいたつもりが、声に出ていた。
喉の奥が、つんと痛くなる。
里奈は、ごくんと唾を飲んだ。心の奥底からわき上がってきた気持ちを、唾と一緒に飲みこむ。
「いたたた」
里奈はお腹を押さえた。
「まだ痛いの?」
モモちゃんが、里奈のポケットに飛びこむ。なにかを調べるように、モモちゃんはポケットの中でモゾモゾ動いている。
「ねぇ、里奈ちゃん。これ、もしかしたら……」
モモちゃんがポケットから顔を出した。
同時に里奈は音楽室に飛びこんだ。
「もう授業始まるから、話はあとでね」
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